マキノの庭のミツバチ日記(19)

王国の落城

前に書いたように、キンリョウヘンを脇に置いた箱にミツバチが自発的に入ってくれて、大歓迎で受け入れたのは忘れもしない5月17日だった。だが、早くも2週間たたないうちに、不幸の影が訪れてきた。飛び方の妙な働きバチがいる。よく見るとKウイング(羽が4枚に開いてKの字に似た形)のものもいる。その内、巣箱の前に降りて徘徊するものが2、3頭。これはアカリンダニにやられたのかもしれないと思って焦る。2、3日前には見られなかった現象だ。急にこんなことになったのか。早速に徘徊バチを数頭捕まえ冷凍30分の後、顕微鏡で見ながら開胸検査。胸部左右に1対ある太さが約0.1ミリの気管の内にアカリンダニが潜んでいるのを見出した。調べたハチはどれもそんな有様だ。気管の中が汚れ黒ずんでおり産みつけられた卵までもあるので、年季の入った感染のようだ。

さらに巣箱の内の様子を見るため、前扉を開けて携帯を突っ込んで動画を撮影した。箱の隅に白く巣板が見える。ハチの数がかなり減っているように思えた。ダニを抑えるメントール(ハッカ)を入れておいたが遅すぎたかも。この一群が我が家に飛来する前、元の巣にいるときにすでにダニ感染が進んでいたのかもしれない。しかしそれでもまだ外勤から戻ってくるハチがいて、この群れは細々と命をつないでいるようである。

終末近い巣箱からよろめくように飛び出し空に向かう働きバチは、それでも力を振りしぼり仲間が待つ花蜜を求めて飛ぶつもりなのか。いや、本能に突き動かされながら行動しているだけなのか、などと巣箱のそばに立って想いをめぐらす。疲れ切った様子で帰ってきたハチにも、「よく戻ってきた。君の最後のフライトか。」と声をかけたくなり、過度の感情移入に気づいて苦笑してしまう。私も立派に(?)老人になってからは、能力(ちから)衰えたものへの共感をもち易くなった。

しかし、ついに王国の終わりを確認する時が来た。巣箱を開けると、80ほどのハチの死体と30ほどの頼りなげな働きバチを残し、王国は見る影もなかった。わずかに掌ほどの2枚の巣板が、栄華の名残をとどめていた(写真)。多数の巣房(巣を構成する六角形の小部屋、差し渡しが5ミリほど)に貯められていたはずの蜜は全て吸い出された跡がある。花粉は床に積もるように落とされていた。働き手が蜜を運べなくなり、多くの残留バチが餓死したのであろう。蜜を求めてか、巣房に頭を突っ込んだまま死んでいるハチもいた。8匹ほどの幼虫が巣房に残されているのも見てとれたが、女王の姿は確認できなかった。

さて、このように気落ちする悲劇的な結末だったが、ミツバチ日記はこれにて終わりということにはならない。次回は裏庭に居を構える別のミツバチ一家について、その動向に目を向けることに。(タイサク)

マキノの庭のミツバチ日記(18)

蘭の花(キンリョウヘン)がミツバチを呼んだ(その2)

(前号からつづく)
一夜が明けて、我が庭の箱へ来たミツバチ集団(写真はキンリョウヘンを取り去る前の巣箱)は、だいぶ落ち着いたように見える。働きバチが黄色の花粉を運び込むのが度々見られるようになったので、女王が産卵を開始したらしい。花蜜とちがってタンパク質を多く含む花粉は産卵のために欠くことのできない糧である。ということでまずは一安心。ところが、隣家Kさんの庭の巣箱では、残念なことに出入りが途絶え中は空っぽ。もともと小さな集団だったから本隊を追って逃げたのかもしれない。

マキノ町の内でニホンミツバチ飼育をやる人がほとんどいなくなっている。最近まで飼っていたがやめたという人もいる。タンポポ、菜の花、桜、ツツジと、季節の花の主役はどんどん変わり行く日々だが、ミツバチの姿を花の周辺に見出す機会がごくまれになった。花々だけが一面に咲き誇るのを目にしても、私には不気味な光景に思えてくることがある。しかし1、2か月前のことだが、10頭ほどのニホンミツバチが庭のビワやサクランボの花に来て花蜜を採っているのを目にしたことがあった。動き回るミツバチたちを見るのは本当に久々のこと。そのハチの帰る方向を見定めようと木の下に立ち尽くしたおかげで、彼女らはほぼ西の方向を目指して帰り、また逆にそちらから新手が来るのが分かった。これは勘みたいなものだが、近くの廃屋のある一帯が怪しげに思えた。実際、その家のそばに、こぼれ種から広がった貧しい菜の花畑の中に、ニホンミツバチを見かけることがあったから。近くに隠れ住むハチたちの群れから、分蜂(巣別れ)になってキンリョウヘン目当てで来てくれたのでは、と勝手な想像を広げた。

キンリョウヘンは小さな花をたくさんつける。その花の一つ一つは、犬があくびをして出した大きな舌のような唇弁が目立つ。花蜜はないが花外蜜腺(花以外のところで蜜が分泌される)をもつ。しかしミツバチはそれを利用できない。花粉は塊でハチの背中にくっつくのでこれもダメ。なんとも喰えない蘭だ!キンリョウヘンがハチをどのようにして集めるのだろうか。それにはどんな意味があるのだろうか?その点について詳しく書かれた本(*)があったのを思い出して読み直した。この分野の最先端を行く研究者によるスリリングで面白い記述と写真が満載されている。独創的な実験も読んでいて楽しい。キンリョウヘンは、集合フェロモンみたいな誘引作用を持つ2成分を出してハチを呼び寄せる戦略をとっているらしい。だが、その上を行く2刀流の使い手が、NHKの科学番組『ワイルドライフ』などで紹介されたハナカマキリ。このハンターは、花の形と色に似せた姿で昆虫を呼び寄せ捕食する。加えて、キンリョウヘンの花と同じ2成分を発散してミツバチを誘いこみ捕食するという。昆虫と花の間に繰り広げられる駆け引きの世界を知るにつけ、想像も及ばないような自然の巧妙さと奥深さをいまさらのように感じた。(タイサク)
(* 菅原道夫著『比較ミツバチ学 ニホンミツバチとセイヨウミツバチ』東海大学出版部)

マキノの庭のミツバチ日記 (17)

蘭の花(キンリョウヘン)がミツバチを呼んだ(その1)

5月らしい晴天。朝9時ごろ庭に出る。空(から)の巣箱の横に置いたキンリョウヘン(金稜辺)の鉢のあたりを、3頭ほどミツバチが飛びまわっているのに気付いた。キンリョウヘンの花は、ニホンミツバチをその匂いで呼び寄せ集合させることが知られている。来ているのは確かにニホンミツバチだ。何頭かは箱の中に入っていく。やがて居なくなったと思ったら、新たに飛来するハチもいる。この巣箱は昨年使わなくなり放置していたものだ。それを分蜂後の新居候補として検分に来ているのだろうか?じっと観察していると、南西の方向から来ているように見える。そんな状況が2時間ほど続いた。ひょっとしてここに居つくつもりかと期待をもった私は、蜜ろうを持ち出してハチが巣箱入口(巣門)を見つけやすいように入口付近に塗りつけてやった。午後1時頃になると飛来数が増え、15頭ほどが入口付近を興奮気味?に飛び回り、巣門に入ったり出たり。3時ころまでは出入りがあったものの、夕方近くには退去したのか巣門は静かになった。新居の決定はダンスによる多数決原理で決まるといわれているので、我が庭の箱は投票で敗れたのか?とその日はあきらめ気分になった。

翌朝、やっぱり気になって巣箱を見に行く。すると、居ないと思っていたミツバチ数頭が巣門あたりで動いているではないか。そして、午後2時半ころには数十の働きバチが巣の前で飛び交うにぎやかさになった。女王蜂が到着したのだろうか?ニホンミツバチが我が家の庭にやってきて自発的に巣箱に入るなんて、こんなことは初めてだ。その場では女王蜂を確認できなかったけれど、このまま居ついて欲しいと切に願いつつ、この貴重な瞬間を動画で撮りまくった。

この日の午後、さらに驚きが続いた。隣のK家の庭に置かせてもらっている巣箱を見回りに行くと、箱のそばに置いた鉢植えのキンリョウヘンの花房がたわわになるほどにニホンミツバチが集合しているではないか。「ミツバチ一家の集合写真(?)」を本などで見たことはあったが、実際にブドウの房のようになっているのを目のあたりにしたのは初めて(写真)。数は500くらいとひどく少ない。この塊はやがて巣箱の壁面に移動した。だが巣箱の門に行く気配がないのが妙に思えた。というのも、先ほど我が庭の箱に入った群れは、キンリョウヘンにも関心を示していたが、すぐ近くの巣箱の門にも臆した様子もなく偵察に入ったりしていたから。ガイドのために蜜ろうと蜂蜜を混ぜたものを巣門付近に塗りつけたところ、30分ほどしてそれに惹かれるものが現れ、陽が落ちるころには、ほとんどのハチが次々に巣箱の内に入っていった。今日のこのことで、改めてキンリョウヘンの威力に驚いた。また、めったに出会わない自然界の妙技に感動!(タイサク)

ご報告:農政課との意見交換会

みなさん、こんばんは。
いつもありがとうございます。

本日5月15日(月)16:00~17:30
高島市役所にて、
高島市農林水産部 農業政策課とミツバチまもり隊との意見交換会を行いました。
出席者は農政課から3名と、こちらから4名の計7名でした。

内容は、
昨年に要望した防災行政無線放送について
ネオニコチノイド系農薬について
自然栽培と農福連携について
今後の取り組みについて(ミツバチ減少への対策は?)
などでした。

共同防除の日程や注意点を防災放送でお知らせすることについては今年も引き続き、要望書を出す予定です。
農政課に対して、他にも要望がある方はご連絡ください。
一緒に提出いたします。
どうぞよろしくお願い致します。