マキノの庭のミツバチ日記(4)

ポータブル巣箱

ミツバチとのコミュニケーション

少し暖かさを取り戻した冬の昼どき、巣箱の入口あたりに働きバチ5頭ほどがいて、いそいそと巣屑を運び出している。そのちょっと楽しげな様子を見ていると、彼女らに話しかけたくなる。しかしどうやって?「えーと。コンチワ。僕、Tさんといいます・・・」と言ったって分かるまい。まさかお尻を振ってダンスみたいなことをしてみせてもダメだろう。旧約聖書に出てくるソロモン王なら、獣や鳥と話せるという指輪をさっそく着けて試したかも。

1960年頃だったか、ミツバチとの対話を試みたのは物理学者のエッシュ氏。彼はミツバチの模型を巣の表面で動かすことを始めた。かなりいい線にいったのはデンマークの研究者たち。こちらはよりハチに似せたハチロボットで、カミソリ刃のように薄い金属片で振動する羽根をもつ。真鍮棒の先にこれをとりつけ8の字ダンスみたいな動きをさせた。それはまさにハチの巣内でのライブ・ステージだった。「変な外人」と思ったかどうかはわからないが、ハチたちはこのダンスを読み取って、研究者らが設定した方角へ大方は飛んでくれた。

もちろん、「ダンス言葉」といわれるミツバチ固有のコミュニケーションの秘密を初めて暴いたのは、フォン・フリッシュ博士。ハチが踊る8の字型のステップの中に、エサ場など目的地をワンポイントで示す「方角と距離」が織り込まれているのを見出した。だいぶ昔のことだが、私がミュンヘン大学の動物学研究所を訪れたとき、玄関の一角に博士のノーベル賞受賞を記念するブースがあり、観察に使われたガラス張りのポータブル巣箱や実験用具が展示されているのを見ることができた(写真)。

しかしほんとにどの程度ミツバチはダンス暗号を解読して行動しているのだろうか。それをフォローしたのはドイツのメンツェル博士たち。なんと特殊なレーダーを使ってハチの航跡を追いかけた。この時、ハチは背中に発信器を背負わされていた。約500m四方の野原を使っての大掛かりな実験では、大半のハチが巣箱での仲間のダンス指示通りに、指定地点へ直行し到着していた。これにより、フリッシュ説の証明は確固としたものになった。

もっと精巧な飛べるミツバチロボットがハーバード大学などで試作されている。将来は絶減に瀕したミツバチに代わって花の授粉に役立たせるという。だが、それでいいのだろうか?私は、おしゃべり好きで花蜜を運ぶ本物のハチさんたちと共存共栄で暮らしたい。まずは絶滅へと追い込まれつつあるといわれるミツバチを守らなくちゃ!(タイサク)

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