マキノの庭のミツバチ日記(8)

イラスト ハチ合わせ?

ミツバチ同士の鉢(はち)合わせ?

晴れた日の朝、働きバチが3頭ほど巣の入口で器用に巣屑を外へ出していた。羽を震わせ屑をとばす。不十分だと思ったのか、さらに近寄って後ろ向きになって風を起こし遠くに吹きやる。午後になって、気温が上がり14度を超えると、働きバチたちは今度は巣箱と餌場を頻繁に行きかい、空中にできた「見えない大通り」がラッシュ時みたいになってきた。

それを見て思い立ち、巣箱付近でのニホンミツバチの飛行速度をビデオ記録から割出してみた。すると概算で毎秒6メートル程度で飛ぶことが分かった。往きのハチと帰りのハチ同士が真っ向から鉢合わせしそうになると、お互いの接近する速度は足し算して毎秒12メートル(時速42キロ)ほどになる。これはすごいスピードだ。心配性の身としては、もし正面衝突でもしたら種々のセンサーの詰まったアンテナや複眼が傷つくのではと気になる。どうやって衝突を避けているのだろうか?仮に3メートル向こうに秒速12メートルの速度で接近してくるハチを認めたとして、衝突回避に羽の舵をいじる時間的余裕は4分の1秒(3÷12)、つまり0.25秒とわずか。この短い時間内に相手の位置確認と方向調整をしているとしたら、それはすごい能力だ。

暗闇を自由に飛びまわるコウモリは、超音波を発しソナーみたいにあたりを知ることができる能力を備えている。それを発見した米国のグリフィン博士によると、ごくたまにではあるが、コウモリ同士での正面衝突があるという。ソナーを備え高度の脳神経系をもっていても、空間記憶に頼るあまり油断から失敗するとのこと(グリフィン著、桑原万寿太郎訳『動物に心があるか?』)。

コウモリほどではないが、ミツバチにも頭の中に出来た「記憶の地図」を頼って飛行することがあると報告されている(プロナス誌2005年)。ということで、庭のミツバチの巣箱の横に座り込んで、衝突事故らしいものがないかと観察してみた。まだひどい混雑はないが、春が早く来すぎて寝ボケ眼で飛んでいるハチもいるかもしれないと憶測したからだ。しかしニアーミスすら目撃できなかった。ひとまず安心。

ミツバチは飛行能力だけでなく識別・記憶・学習など高いレベルの行動もやはり脳神経中枢によって支えられている。心配なことは、農薬のほか家庭用としても広く使われるようになったネオニコ系殺虫剤が、信じられないほど微量であってもミツバチの脳の神経機構に害作用を及ぼすことが分かってきたことである。死に至らないまでも、空間記憶を失い巣に戻れない働きバチ(ボケミツバチ?)が増えるとコロニーの消滅につながるとの研究報告もある。ミツバチは有史以前から人類との付き合いが深く、優れた能力をもつ友人ともいえる。そのミツバチが、人の所業のとばっちりで衰退しかねない現状は、私にはとても気がかりだ。(タイサク)

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