マキノの庭のミツバチ日記(22)

甘みのシグナルはリズムにのって

“なぞなぞ”みたいに「これナーンだ」と尋ねながら1枚の写真を示す(写真-1)。なかなか当ててもらえないのは無理もない、これはニホンミツバチの味覚器の中を走るリズム、つまり神経信号を一瞬とらえたものだから。まさに甘さに関
する情報を脳に伝えているところ。砂糖水を口ひげの毛(味覚毛)につけてやるとこれが生じる。


写真-1(甘み情報 ニホンミツバチからの記録)

ミツバチの素早い身のこなし、ちゃんと巣に戻る能力、高い学習能力、それにコミュニケーション力、これらの能力がただの昆虫に備わっていることが信じがたいように思える。だが、ミツバチの体に精巧な神経のネットワークが張り巡らされ、複雑で迅速な情報処理がなされていることを知れば、なんとなくうなずける。神経の働きを見るのはそう簡単なことではないが、ミツバチなどの毛状の味覚器については、割に簡単だ。少し技術的な表現も入れて次に書いてみた。

体の中に配置された神経細胞(ニューロン)は、イオンを含む水とタンパク質と油脂膜などからなる。味覚毛の中の甘味細胞(これは神経細胞でもある)は、甘さ(味覚強度)に応じてイオン(つまり電気)の波を発し、神経繊維を通じて脳に送り出すのが役目。

ニホンミツバチの外葉(口ひげ)に多数ある味覚毛の先端に、ガラス毛細管に入れた砂糖水(例えば7%)をつける(写真-2)。すると、毛の内に来ている甘味細胞に、パルス状の電気波が発生し神経繊維に沿って伝わっていく。このガラス管は電極の役も兼ねるので、その波を拾ってモニターに送り映像を見ることが出来る。私のように湖畔の隠居室の住人にとって、やれることには限りがある。主要なパーツであるAD変換機はネットで買った。毛細管は細いガラス管を炎にかざして手引きで作った。次に、アンプとAD変換機を接続する。さらに釣鐘状に編んだ金網をノイズ除けとして自分の頭から、記録セットも含めて、すっぽりかぶる。そうすると、写真のような波形が取れる。1か月の苦闘のあと成功したのは7年前のこと。


写真-2(味覚毛の先端に砂糖水を浸ける。顕微鏡写真)

写真-1のデータは、0.1秒の短い時間に発生しているクシの歯状の波(電圧のパルス波)を示している。本来はスムーズな波なのだが細かいギザギザが付いて見えるのはちょっと残念(変換機が安物のせい)。この短い時間の間に7発のパルス波が見て取れる。1秒当たりに換算すると70発なので、周波数70Hz(ヘルツ)と言い換えてもいい。この数値だと液がかなり甘いことを知らせている。もっと砂糖水の濃度を上げていくと、波の出方はより密になり、スピーカーで音にして聞くと「ビー」という甲高い音(ダジャレじゃなくて)に近づく。塩水を付けた場合は塩味細胞が働き、別の回線を通じてパルス波を脳に伝え、塩味を知らせる。このように外の世界の味物質の種類と濃さが、ミツバチの感覚器で電気波の出方(周波数)に翻訳され、脳がそれを読んで味情報を知ることになる。そういうふうにミツバチたちの活動の舞台裏をのぞき見て、さらに想像を広げるのも楽しい。

ミツバチの信号化システムと脳での処理システムは重金属や農薬など薬物の影響を受けやすい、大変に精巧なシステムである。それが言いたくてここまで書いてきた。(タイサク)

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