ハチのこころと春の空
和バチ(ニホンミツバチ)を飼うこの辺の者にとって、ゴールデンウィークも末になると、心落ち着かぬ時期も終わりになる。捕獲した分蜂群の箱を数えたり「逃がした群れは大きかった!」と悔しがったり。来年に向けて新たな工夫を考えることも。振り返ってみると、今年は、ミツバチに普段と違う珍しい行動も起こり、 そのこころが読めなかった。春とはいえ、寒くなったり急に夏みたいに暑くなったりで、気候が不安定だったのも一因か。コロニーを実質的にリードするといわれる女王付きの宮廷バチたちも、いろいろ微妙な判断を強いられ戸惑うことも多 かったのでは。
私が用意したもろもろの捕獲対策も有効だったとは言えない。例えば分蜂集合板。これまでいろいろと試みたが、今回も実績を作れなかった。使っている人たちからは高い成功率だと聞かされるのだが。ハチ寄せに定評があるキンリョウヘンの花も、今回はあっさり無視された格好。蜂にとって高い松の木が最高に魅力的で安心できる所なのかも(写真;松の梢のあたりを乱舞する分蜂群)。
今年最初の分蜂の時に起こったような出戻り(いったん出た分蜂の群が、しばらくして元の巣箱に戻ること)も興味深い現象だ。「大奥」物語になぞらえて、腰の重い御台所(女王バチ)と円滑な引っ越しを進めたいお局(宮廷バチ)たちとの間の駆け引きなどと、つい俗っぽい空想をしてしまう。また、いったんは高いところに蜂球が作られ私らが諦めかけたときに、意外にもすーっと下方に降りてきた今回の例も面白い。蜂球は間に合わせの中継地点でもあるようだ。
1 日の内に2回も続けて分蜂が起こったことも不思議だ。土地の人の話でも、第2分蜂と第3分蜂は前の分蜂からそれぞれ1~3日を置くとのことだった。私のここ数年の経験でもそんなところだと思っていたが、今年は違った。ハチ友らの話をまとめても、1日の内に続けて起きた例が、私のところも入れて3件。皆さん方も不思議がっている。王女姉妹がほとんど同時に羽化するケースがあるというがそれが起きたのだろうか?それでいて平和的に双方が旅立つというのが、ちょっと理解しがたい。
捕獲群が日を置かないうちに逃げ出すことはよくあることだが、これをやられると強く印象に残る。私が午後の散歩にちょっと出て帰ってきたときには、箱は空っぽ。巣板も作らず砂糖水の給餌は食い逃げしていった。採蜜から帰ってきた働きバチ1頭が、仲間を失って心細げにうろついているだけであった。
でも、まだ巣箱の中は温かい。「吉良殿」ではないが、それほど遠くに逃げてはいないと思って近くの木立を探してみた。すると薄い煙のようなものがつむじ風みたいに巻きながら遠ざかっていくのが見てとれた。追っかけたがすぐ見失ってしまった。つい1時間前は巣箱の出入りはごく普通の感じだっただけに、残念。私が散歩に出たのを見計らって一斉に逃げたような格好で、悔しさも感じた。だが彼女らにとってもっといいところがあるのだろう、と思うことにした。
分蜂群が定着しない理由としてよくあげられるのには、同じ箱で一緒に暮らした親族と餌場が競合しないところへ去るという説。他にも、女王が不在の群(無王群)は不安定で逃げやすいという説がある。だが経験不足で私には今回のことがよく整理がつかないままである。ハチのこころは分からない。(タイサク)