女系社会を生き抜くミツバチたち
このところ、東京のある医大の裏口入学事件が話題にのぼり、そこで明らかになった女性差別の医学部入試は世間の人たちをあきれさせた。現役男子と 1浪、2浪男子の受験生には加点するが、女子受験生にはせず、恣意的に女学生の合格者を 3 割程度に抑えたという。見えないダブル・スタンダードだ。ある報道によると、「男性は力が強い、長時間働ける、出産がない」とみての女性へのハンディ付けだったという。もしその大学の合否判定委員に女性教員が1/3も居るようなシステムだったら、結果は変わっていたのではないか。
庭の2か所に置いている巣箱には、今のところニホンミツバチのコロニー(家族集団)が住み、それぞれ 1万近い人口(蜂口)をもつ。コロニーのほとんどを占める働きバチは雌であるが、女王バチが出す女王フェロモンにより、自らの卵巣の発達が抑えられ出産はできない。彼女らは、女王や兄弟姉妹の世話をし巣を守り維持する働き手として、多数が生み出されてきた。今朝も巣門をのぞくと、収穫に出るもの、巣箱内に涼風を送るもの、巣門をガードするものたちでにぎやかだが、間違いなくいずれも雌バチだ(写真)。雄バチは体が大きめで、複眼も大きく尻は縞がなく黒いので見分けられる。
社会性昆虫といわれても、もちろんミツバチは人とは大きく異なる社会にいる。そのコロニーに専門学校みたいなものがあるわけはない。だが仮にあるとしたら、 入学するのは雌だけになる。先の人間社会での差別の口実にされる「力が強い、 長時間働ける、出産がない」の優先条件をクリアーできるのは、ミツバチの世界では働きバチで決まりとなる。雄バチ(ドローンともいう)はもともと春から夏にかけてしか現れず、日ごろは他所のコロニーの女王バチの後を追いかけ交尾を狙うことしか関心がない連中だ。巣に戻れば「グウタラ居候」みたいで働きバチの厄介者になる。
ミツバチの社会では、年取った雌バチ(そういって悪ければ熟女バチ)が、危険で骨の折れる外回りの仕事(外勤)に出る。餌や必要なものを運び込むのはもちろん、新住処の情報ももたらし、尻振りダンス(8 の字ダンス)で公開討論に加わる。これもミツバチの社会が女系社会と言われる所以であろう。
ミツバチの研究がいろいろなされているが、その中で、以前、名古屋大の研究グループがセイヨウミツバチについて面白い報告をしている(Plos One 誌, 2007年)。それによると、ミツバチのコミュニケーション能力に関する神経系の発達は、 働きバチが熟女になった頃にようやく完成するらしい。直接に触角の中のジョンストン器官から神経信号を記録して調べたところ、日齢(羽化後の日数。人の年齢に相当)とともに発達することが分かった。以前書いたように、福岡大の研究者たちが脳内にダンス言葉を司る神経中枢を発見したことと合わせてみると面白い。ダンス言葉で会話ができるのは巣の内の誰でもというわけでなく、歳がいってベテランの外勤バチ同士ということになる。では雄バチではどうなのかというのも知りたいところ。
私もついに 75才になり後期高齢者の仲間入りとなった。これまでとは違う保険証を配布されて改めてちょう落(?)の身の現実を想う。だが老人も捨てたものじゃないかもしれない。ミツバチみたいに年を取ってから誘導される能力が出てくるかも。(タイサク)