逃去の企て?
9月 25日だったか、ニホンミツバチの巣箱への花粉の運び込みが全く見られなくなった。先に台風 21号が来たとき、巣箱の一つで群の逃去があったことは前に書いた。その際に、もう一つの巣箱の群も活発な怪しい動きをしていた。水をスプレーで振りかけた結果、群は平静さを取り戻したのだった。その居残ったのが問題の巣箱。箱の内にはまだ大勢のミツバチが残っているのは心強いのだが、産卵に必要な花粉の供給ストップは心配。おまけに蛹(さなぎ)が少しずつ外に運び出され始めた。
次の日も蛹が巣房から引き出され運び出されている。頭をかじられているのもいた。だが働きバチの出入りは盛ん。いよいよ巣箱を見限っての移住も近いのかと覚悟した。
27日。朝晴れていたが曇りのち雨に。あいかわらず巣箱への花粉運び込みはないが働きバチの出入りは盛ん。昼前かなり興奮気味の動きがあり時々蛹を運び出す姿が見られた。計画逃去を企てたのか?盛んな出入りのあることも、蜂蜜をどこか新しい住処に運び出しているのではと怪しんだ。そこで、巣を出るハチと帰ってきたハチをいくらか手網で捕らえて、体の中の蜜貯蔵庫である蜜胃を調べることにした。
蜜胃は透明なボール状の伸縮自在の袋(人で言えば胃のようなもの)になっている。外勤バチは蜜胃が大事。それは自分の体内にある臓器だがその中の蜜は自分の所有物ではなくて、彼女の属するコロニーの共有物なのだ。採った花蜜は巣に戻ったら仲間に吐き戻して渡されるし、出かけるときは仲間から飛行燃料分として口移しに蜂蜜が支給される。ミツバチ社会の面白い仕組みの一つだ。ただし、 蜜胃を直接見るには腹部を小型ハサミで丁寧に開いて露出させるほかない。昔のことだが、大学でハエの生理学を研究していた経験があるので、私にとってはそれほど難しい作業ではない。
外に飛び出そうとしたハチを調べた結果では、その蜜胃が思ったよりも大きく膨らんでいて腹部の体腔一杯に広がるくらいだった(写真に撮ってみたがかなり 生々しいのでここでは割愛した)。いわば蜜で満タンの有様だ。その中身はこれから出かける飛行のための支給燃料(それだと長距離かも?)なのか、それともどこか他所に定めた新居への配送分なのか。見ただけでは分からない。一方、外から戻ってきたハチの蜜胃はそれほど大きくはなかった。密かに貯蓄蜜を運び出し、 蜂児を抜き去り整理する・・・着々と計画逃去の準備にかかっているというシナリオがまたもや頭に浮かんだ。そのようなことが現実にあるかどうか疑わしかったが、先月の他の巣箱での逃去事件(巣板以外は何も残さなかった)の後では、妄想が消えない。
10月中旬に入って、巣箱は今のところ正常な感じに戻ってきた。観察窓からのぞくと、巣板を覆って活発に動く働きバチの群が見られた(写真)。ひところのように蛹を引き出すこともない。スズメバチの来訪が極端に少なくなった。さらに花粉の持ち帰り頻度が明らかに増えた。今日の昼過ぎには久しぶりに時騒ぎの賑わいがみられた。以前のような元気さを取り戻したように見える。コロニーが何らかの不具合から回復してきたのだろうか。あるいは移住を思いとどまったのか。 そうだと嬉しいが。(尼川タイサク)