マキノの庭のミツバチ日記(73)

ミツバチは優れた建築家(その2)

ミツバチが作る六角形の連なった美しい蜂の巣(ハニカム)はどのようにして出来るのか?前回は次の 2 説を紹介した。1、素材である蜜ロウのもつ表面張力などの物理的性質が主な要因で、六角形の筒として安定するという説。2、ハチは触角などを使い穴の形や深さを計測しながら組み上げていく説。

最近、2 の説に加担する説が発表された。山口大学など 3 大学 4 人の共同によるもの(Plos One 誌、2018 年)で、著者らはコンピュータ実験から「付着・掘削(くっさく)モデル」というのを提案している。

この新説では、ハチの群れによる単純な行動の積み重ねが、あの精緻(せいち) なハニカム構造の土台を作り出すという。つまり、巣箱の天板などに自ら分泌したロウを塗り付ける「付着専門」と、付いているロウを削ぎ落す「掘削専門」の二手の働きバチたちによる競い合いを想定している。私がここで下手な文章で理論の筋を説明するよりも、論文に参考資料としてあるアニメーションを見れば理解の手助けになるだろう(*)。

巣箱天井の基礎部分のでき方がこの説のポイントになる。まずは働きバチのあるものたちがロウ粒を分泌しそれを天板にくっつける。その一方で、別のハチがロウを端から剥ぎに来るのがいる。そうこうするうち出来てきたY字型のロウ片が出発点。その隣にまたY字型のロウ片が並べられ、またその横にY字片といった具合に繰り返しが進む。そのようにして服のファスナーの並びみたいなものができる。コンピュータ上で現れたこの構造は現実の巣の天井部分によく見られるものに酷似し、また巣板の断面(写真)に見られる霜柱のような形でもある。

以上、巣箱天井の平面に見られる土台部分(ファスナー構造とでも言おうか)の形成をまず見てきた。次に小さな建築家たちは重力方向つまり下に向かってロウの粒をつないで伸ばしていき六角形の巣房をもつ立体的な巣板を完成させる、といった筋書きになる。まるで流行の3Dプリンターみたいな働き方だ!

働きバチらは明確な意図をもってあるいは設計図をもって家造りをしているのだろうか。たぶんそうではないだろう。働きバチによる漫然としたロウ粒供給と剥がしの単純な作業が重なっていき、全体にバランスが取れて方向性をもった造成が起こることがこの説の基本になる。誰かの指図があるわけではないのに形がひとりでに出来上がることは生物集団の場合には多分にあり得る。我々人類の3Dプリンターは細部まで完全に指定された設計図に厳密に従っている。精緻な構造物作成で現れたミツバチと人間での違いが面白い。

この論文で述べられているような偶然の要素を持ちながら自ずと構造物が出来あがることを「自己組織化」と呼ぶことがある。これはシロアリの塚の形成など生命現象に(あるいは自然界全般にも!)あちこちで顔を出すキーワードである。ミツバチの社会形成にこれを適用する研究まであるという。

しかし、このハニカム作りの新理論は前に一歩踏み出したばかりのように思える。前回書いた巣板の「両面印刷」のズレ(透かして見ればわかる表と裏のズレ)もまだ説明されていない。ハニカムの謎が深まった面もあるように私には思える。 (尼川タイサク)

注(*)、ネットで Plos One のホームページに行き、検索欄に e36214 と入力すれば、この論文が読めて無料ダウンロードもできる。ユーチューブ動画は https://www.youtube.com/watch?v=w2Y1DNxY3Ss

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