マキノの庭のミツバチ日記(74)

ミツバチは優れた建築家(その3)

先週はここマキノの平地でも初雪が降り、少しだが積もった。前の日にウレタン製の厚手の板を巣箱側面や天井に貼り付けるなどしてとりあえずの防寒対策をしていたのでなんとか間に合った。ミツバチもこの寒い時期に家があることに有難味を感じているだろうか?だがミツバチにとっての家は、私たち人でのイメージとだいぶ違う。

巣の中でミツバチ成虫が通常いる場所は、たいがいは巣板の表面か巣板と巣板の間の狭い空間だ。それぞれの巣房(六角形の小穴)は貯蔵庫か育児ベッドになる。前回の「ミツバチ日記(73)」に巣板のでき方の新説を紹介した。そこで出てきたファスナー様構造がくっきりと見える写真を最近になって見つけ出した(写真1)。 魚の白い骨みたいに見えるのがそれ。10 月頃撮った庭のニホンミツバチの巣箱のものだ。観察用のガラス窓に直(じか)に増設中のファスナー模様が記されてあり、その白さは使われたロウが新しいことを思わせる。元からある巣板を窓側に拡張してきている。なんと巣房の断面図で見える部分に琥珀(コハク)色の溜まり(たまり)があるのは蜂蜜のようだ。蜜を沢山の巣房に分け入れて表面積を広げることで水分の蒸発量を増やす。それが蜂蜜濃縮の一つの方法だ。

スズメバチなどハチ類はたいていが水平に作った巣板を何段か積んでいる。数年前のことだが、知人の家の天井裏からキイロスズメバチによる不法占拠後に残された巣を取り出したことがあった(写真2、最上部は一部破損)。その巣板は最大で直径約 25 センチの平らな円盤状で、上側にのみ多数の六角形の巣房がひしめき合って並んでいる。しかも円盤は 3 枚ほどあり柱で支えられた「3 階建て集合住宅」だ。だがミツバチの場合は巣板を横でなく縦にしており、巣房は水平方向に突き出る形でしかも表裏の両面にあってとても効率的だ。巣全体としては、巣板を 8 ないし 10 枚ほどを平行に並べている(写真1にも縦になった巣板がいくつか並んで見える)。

巣板が縦方向だとミツバチにとって面倒なこともある。尻振り(8 の字)ダンスでの情報のやり取りでは、方角を示す基準となる太陽の方向を重力方向へ読み替える必要がある(「ミツバチ日記(39)」)。もっとも、ミツバチの近縁の仲間でダンス用の踊り場を屋上に水平に作る種では、太陽光が射し込む方向を直接に方角の基準に出来るのでダンスは簡単だ。

巣板は薄いロウで出来ているので、ダンスの際に出る 250 ヘルツくらいの振動を遠くにまで伝えるには絶好の素材でもある。それがドイツのタウツ博士が言う「電話回線」で、仲間をダンスの場へと誘い出す仕掛けという(*)。

人間社会では以前からスクラップアンドビルド(非能率的な設備や組織を破壊して、新しい能率的なものに立て直すこと)というのが流行っていたが、ミツバチもかなり自由に巣の増設や取り壊しをやるようだ。12 月に入った今や、既存の巣板も一部はかじられて整理されている。新たに出来たスペースに皆で身を寄せ合って、「押しくらまんじゅう」で暖めあう。これが冬ごもりの標準的な体制だ。(尼 川タイサク)

注(*)、J.タウツ著 丸野内訳『ミツバチの世界』丸善。

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