
流蜜の初夏のころ
5 月から 6 月にかけての当地マキノ(高島市)は、私が一年の内で最も気に入っている。お天気が続いて湖水は温み、水田には稲の青苗がきれいに並び、その間を浸す水は青空を映しだす水鏡となる。あたりははじけたような新緑に染まり、様々の花が咲き乱れる。この時期、花が豊かに蜜を出すいわゆる流蜜(りゅうみつ)の時を迎えて、巣箱のミツバチたちは元気に採蜜に動く。
ミツバチの運んでくる花蜜や花粉がどのあたりのどんな花から採ってきたものか、日ごろ気になっていた。それで、庭や近くの植え込み、あるいはよく行く散歩道などに蜜源となる花がないか探す癖がついている。この時期では、ミツバチが実際に来て花から採餌しているのを見かけたのは、アザミ、ノバラ、クローバー(シロツメクサ)、イモカタバミ、そしてタンポポに似ているが背の高いブタナ(フランス語の「ブタのサラダ」の直訳とか?これも侵入外来種)などである。
庭のクローバーの花畑の中に、熱心に採蜜中の数頭のニホンミツバチに出会った (写真1)。花は、一本の花の柄(花梗)の上に数十個の白い小花が集まって毬状になっている。これに昆虫が来て受粉が起こると、小花は周辺部から順次下方に向きを変えて垂れ下がっていき、その部分は薄茶色にあせた装いに変わる。写真 1では、ミツバチの斜め下方に小花が半分近く垂れ下がって薄茶色になっているのが見える(ハチの右手の花などもそうなっている)。おかげでハチにとっても吸蜜すべき花が区別しやすくなっている。このような受粉による花の変化は他にも知られている。ニホンミツバチの分蜂群を捕獲するのに使われるキンリョウヘンも、受粉後に花の一部が赤色を帯び、誘引物質の分泌量も大幅に減ることが菅原博士(神戸大)により報告されている。
クローバーの花は潤沢に花蜜を分泌するのでミツバチにとっては良い蜜源であり、一方、ミツバチは受粉を手際よくやってくれるので、クローバーにとっても良い客である。まさに持ちつ持たれつの良い共生関係だ。このクローバーの群は妻 Y が巣箱に近い草むらにタネを播いてハチの手助けするつもりだったようだが、花が咲いてもなかなかやってこなくてヤキモキしていた。この度やっと来てもらえて Y も安心したようだ。
今、どこにでも華やかに咲き出ているのはノバラだ。おや、ここにも居たのかと思うほど頻繁に目につく。その発する臭いも芳しい。隣家の庭にも丈の高いノバラの木の茂みがある。我が庭のニホンミツバチの群もその中に飛び込んで一仕事をしては、意気揚々として自分の巣箱に戻っていく。
見ていると、大から小までの様々の訪花昆虫がノバラの茂みに集って入り乱れている。わずか体長 5 ミリほどのアブがホバリングしながら花の品定めをし、ミツバチは時間を惜しむようにせかせかと飛びまわっては、次々に花蜜を集め花粉を大事そうに両脇に抱え込む(写真2)。大型のハチであるマルハナバチやクマバチは、威圧するようなブンブン音でもって周りの小ぶりのハチたちを追い払っては独り占めを狙う。甲虫のハナムグリなどが花弁に取り付いているのもよく見かける。悪質と思えるのはコガネムシだ。葉や花弁をバリバリと噛み切りすごい勢いで食い荒らす。もっと行儀よくできないものだろうか。(尼川タイサク)
