マキノの庭のミツバチ日記(90)

ミツバチと蚊と炭酸ガス

時には雨に中断されながらもこのところ好天が続き、庭のミツバチの巣箱はどれも働きバチが活発な動きを見せるようになった。一時は出入りが少なく、花粉の運び入れも稀になっていたある巣箱では、女王バチの不調かと心配したのだが、ここも活気づいてきて、戻って来る働きバチのどれもが次々花粉を運ぶ有様に、安堵の胸をなでおろした。

しかし真夏が近づくと毎年同じ悩みが生じる。庭のミツバチの巣箱を見回りに行く度に、待ちかまえた蚊(カ)の群れに刺されて逃げ返る有様だ。それで、庭に出る時にはハッカ油を身にスプレーすることにした。

カもハイテク満載?といわれるほどいろんな機能をもつ。超音波を出して人の血管の位置を探索し、ついで口針から麻酔液と血液凝固を防ぐものを密かに注入して気づかれないうちに吸血する。カは人の汗の中の乳酸などに反応し複雑な臭いをかぎ分ける。炭酸ガスにもいたって敏感。触角(アンテナ)の化学感覚器で炭酸ガスを感じ取り、人を探して吸血する。また最近の研究では、ある種のカは危うく人から叩かれそうになったとき、その人の固有の体臭を覚えることができ、次にはその人を避けるという実験報告(Current Biology 誌 2018 年)もある。ミツバチに比べて5分の1以下の小さな脳を持つのであるが、そのような学習もできるなかなかの曲者だ。

分類学上ではカはハエ目でミツバチがハチ目に属し、比較的近い位置にありながら社会性などで生き方が違う両者だが、学習能力、高い感覚機能と素早い運動機能などいくらか共通点もある。炭酸ガスを高感度で感じる能力はミツバチの触角にもあって、重要な働きをする。しかしミツバチの場合は、カの場合のような獲物探しのために用いるのではない。ミツバチの巣は、木の洞(うろ)のような狭い空間に大勢がひしめき合うので(飼育巣箱も同じ)、呼吸する上でミツバチ自身が巣内の炭酸ガス濃度をモニターするのは絶対必要だ。人もそうだがミツバチも空中の炭酸ガスがある高い濃度を超えると気絶してしまう。だが、その恐れのありそうな時、ミツバチは大勢を動員し羽を振るって巣内の換気をする。

生物実験などで昆虫を一時的に麻酔する際にも炭酸ガスはよく使われる。写真1 は私の手作りの麻酔器で、ビールを泡立てるのに使う小型のソーダサイホン(右手のサーバー)を利用したもの。捕虫網で捕らえたハチなどに網の上からカップ (左手にある)をかぶせ炭酸ガスをチューブから導き入れて手早く麻酔できる。

昆虫は本当に臭いや炭酸ガスをどの程度感知できるのだろうか。それを知ることのできる簡単な装置が私の隠居部屋にも 1 セットある(写真2)。その測定器で得られたニホンミツバチでの炭酸ガス感受の記録図(触角電位図、EAG ともいう) の一例を写真3に示した。この場合は2ml の炭酸ガスをチューブを通じて触角に吹きかけて、そこの神経に生じる下向きの一過性の電圧変化(電気信号)を記録している。触角に向かってちょっと息を吹きかけただけでも応答が出るほどの敏感さだ。

なお、臭い応答検出セットは比較的簡単なものだが、分蜂群キャッチによく使われる誘引剤やフェロモン類似物質などへの応答も測定できる。ミツバチの能力を探るというこうした楽しみ方もある。(尼川タイサク)

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