マキノの庭のミツバチ日記(70)

給餌器で採餌を助ける

先週末に点検で巣箱を開けた際、越冬のための貴重な貯蔵蜂蜜を失敬するといった暴挙をしてしまったので、ミツバチたちが見限って逃げださないように給餌を行った。はじめは、蜂蜜を含んだ巣板の欠けらを巣箱から離れたところに出して働きバチに吸わせていた。だが、そのうち来ているミツバチの間に喧嘩が起こり、争いで命を落とすものまで現れた。吸い終わったミツバチは大概が裏庭の巣箱の方に戻っていったが、一方で近くの板塀に停まって数頭が休んでいるのも目についた。この休憩している連中はおそらく他の巣から遠征に来ているのだろう。

思い当たるのは駅に行く途上にある 1軒の家だ。別荘として使われ庭に巣箱が置かれているがもう 5年ほど空箱のままだった。月に 2回ほどはそこのオーナーが来て野菜作りに精を出す姿が見られた。今年の夏、その巣箱にニホンミツバチの群れが自然に入ったそうだ。にぎやかになった巣箱を通りがかりに見つけて、そこの家の方と話し込み知り合いになったのはごく最近のこと。

その家から私の家まで直線距離にして 300メートルほど。盗蜜に来れる距離だ。だが他の巣かもしれない。逃蜜は本格的になると厄介で大群が来ると収拾がつかなくなるらしい。去年の 8月にもそれに近い騒動があり(ミツバチ日記(28))、早めに手を打つことが大事。

そこで、給水器を使うことにした。水を入れたガラスコップに布巾をかぶせ、瞬間的に逆さにして台の上に伏せたままで置くと、わずかに布からにじみ出る水があるが、ほとんどの水はコップの中に留まっている。この原理を利用したものに小鳥などへの給水器があるが、ミツバチにも砂糖水を入れて使う給餌器として市販品がある。

それを教えてくれたのはハチ友の井上さんで、中国製なるプラスチックの製品も一つ頂いていた。それは巣門の隙間から 10センチほどの長さの給水路(ミツバチの側にとっての吸い口)を奥へ差し入れて使うタイプで、巣箱の内側で吸蜜するため逃蜜予防になるものだった。ただ、セイヨウミツバチ用のものだったので給水路の高さが 1センチだった。それをカッターナイフで削って低くし、高さ 5ミリほどにした。それにより、ウチのニホンミツバチの巣箱にも使えるようになった(写真)。

だが当初は巣箱での実地テストに失敗。ボトルの中身がとくとくと流れ出てすぐになくなったり、途中で流れが止まって給水路が干上がってしまったり。充填した糖液と給水容器のプラスチックとのなじみ具合(表面張力など?)の関係が、思ったより微妙なのかも。容器を洗剤でよく洗ったりツマヨウジを給水路への入口に2本入れてガイドにしたり、などしてうまくいくようになった。

蜂蜜とキビ砂糖を等量の水に溶かして餌として使ってみた。夕方に給餌器に入れておいたのを翌朝に見に行くと、始めは 100ミリリットルくらいあった糖液がきれいに空になっていた。思ったより大量に消費してくれている。この給餌を 3日 間、夕方から翌朝にかけて続けた。

4日目の夕方、ハチたちが巣門の前に 10頭ほどが集まってうろうろしている。まるで給餌を覚えていて催促するかのようにみんなで私の顔を見上げるのだ。「あまり給餌しすぎるとブタになるよ!」という連れ合いの言葉で中断したわけではないが、その日は忙しくて給餌しなかった。しかしブタのようなミツバチって想像が難しいナ。(尼川タイサク)

マキノの庭のミツバチ日記(69)

スムシ侵入を疑って巣箱を開けてみた

10月29日、庭にただ一つ残る重箱型巣箱を開けてみた。7月に分蜂したニホンミツバチが入った巣なので箱を開けるのは早過ぎる。だが数日前に、巣箱から腐りかけの果物のような臭いがするという妻Yの話と、サナギをいくらか運び出しているのを見て、スムシの侵入を疑うようになったからだ。スムシはツヅリガなどの幼虫で、ロウで出来た巣板をかじることで巣を崩壊させるミツバチの大敵だ。これまでも何度かその被害にあった箱を見たが、巣板が黒くドロドロに溶かされ悪臭を放つ様は思い出したくない光景だ。

いざ箱を開けて見てみるとスムシの姿はなく、その活躍した形跡もない。写真1に見えるのは1段目の箱枠の下側で、見やすいように一部の巣板を取り除いている。まるで霜柱のような巣板の断面も見えるので巣の構造が分かり良い。網目状に見えるのは巣房(小部屋)の並びでハニカム構造になっている。奥の方は貯蜜域で、やや薄いクリーム色のフタ(蜜ブタ)で覆われた部分には蜂蜜が巣房にたっぷり詰めこまれて貯えられている。

中央部で巣房に濃い黄色のフタがされているところは育児域の上端らしい。白いサナギが巣房にいくつかいるのが見える。ピンセットで取り出してみると確かにハチの児だ。すえた臭いがするというのはこのサナギのせいかもしれないと始めは思ったが、腐敗は見られず。

2段目の箱枠に広い育児域があるようだったが、巣板を取り出して調べるところまでやらなかった。情報不足であるがこのコロニーの存続を思ってあえてその程度で止めた。他に目立ったのは、まだ十分には飛べないような若バチが多いこと。ひょっとしたら、中堅を担うべき働きバチの生育が遅れるなど何らかの問題があったのかもしれない。巣枠から離れないし動きが未熟だ。地面に振り落としても仲間で集まってウロウロしたまま。しばらくすると飛ぶというよりのろのろ歩いて行き最後には列を作るかのようにして巣門から中に入っていった。

異臭のことをハチ友の井上さんに電話で相談したところ、セイタカアワダチソウの持つハーブの濃厚な臭いが異臭のように感じられるのではといわれた。皮肉なことに「ミツバチ日記」前号(68)で、セイタカアワダチソウが我が家のハチたちの主要な蜜源だなどと、持ち上げて書いたばかりであった。ニホンミツバチの集める蜜は百花蜜といわれさまざまの花蜜を含むが、今年は酷暑で強烈台風の襲来も相次ぎ、ハギのような花々が少なかったり咲いている期間が短かったりであった。結果として旺盛に咲くセイタカアワダチソウの花蜜の比率が大きかったのかも。

とはいえ、箱を閉じて数時間経過した時には特に何事もなかったようにハチの出入りが戻り、花粉もそれなりに運び込んでいた。ハチの総数は幾分減っているようだが、巣板下部を覆うくらいはある。それで、しばらくは様子を見ることにした。巣箱は箱枠 2段プラス台座となり、余計な空間を省いたので越冬に適した状態になった。取り出した 1段目箱枠から蜂蜜の回収をしたが、1キロちょっとしか採れず、まだ強い匂いも残っていた。巣板の欠けらは庭の隅でミツバチたちに戻してやった(写真2)。だが、臭いに惹かれて他のハチが収奪にくる盗蜜の兆しもあったので、翌日からは薄めた蜂蜜液を給水器で巣箱内に直接与えることにした。(尼川タイサク)

マキノの庭のミツバチ日記(68)

セイタカアワダチソウの季節

近くの川の堤に咲いたセイタカアワダチソウが、鮮やかな黄色のベルト地帯を作り出した。ひと頃は衰えたと見えたこの群落に盛り返しが見られる。外来種で繁殖力の強い雑草として嫌われるセイタカアワダチソウだが、我が家のミツバチたちにとってはこの時期の主要な蜜源・花粉源となる。河原を探してみると、いたいた!やや風があって揺れる穂につかまるようにして、ニホンミツバチが花蜜を採っているのに出会った(写真)。近くには仲間のハチが数頭いるようだった。

セイタカアワダチソウといえばその侵略性で知られ、次々と先住民であったススキやブタクサなどを駆逐し陣地をあれよあれよという間に拡大していった時期があった。その武器ともいえるものが化学物質(ある種の脂肪酸)で、それを地中に放出して他の植物の生長を抑えるそうだ。このような化学物質を使った植物と植物の間の作用をアレロパシー(他感作用)という。一般にアレロパシーという場合、阻害作用だけでなく共栄的な作用(例えばコンパニオン植物)の場合もいい、また植物間だけでなく動物や昆虫に対する場合も含まれる。防虫効果のあるマリーゴールドを畑の傍に植えるのも、昔からある応用例だ。

セイタカアワダチソウが使った脂肪酸も、言ってみれば植物界の化学兵器だ。しかし自分たちが勝ちを収めて天下を取ると、あまりにも密集したために自らにその毒の害が向けられ、自家中毒により衰退の道に入ったと聞く。なんだか人の世にも見られるような寓話的な話だが。でも、この近所では昔ほどではないにしても、少し復権してきたのかもしれない。

ちょっと変わったアレロパシーとしては、助っ人を呼ぶ植物のケース。リママメの葉がナミハダニにかじられると、そこから揮発性の物質が放出されてハダニを食べる天敵チリカブリダニを呼び寄せる。このことがオランダの研究者によって明らかにされたのは 1980年代のこと。既にこの仕組みを利用してチリカブリダニそのものが生物農薬として販売されている。

最近話題になったアレロパシーの優れものにミントがある。ミントの臭いが近くの植物に合図を送り、食害をするダニなどの虫が消化不良を起こすタンパク質を葉に合成させる。それが昆虫による食害を結果として抑えることを東京理科大学の研究チームが発見し今年に発表した。実際に葉の細胞の内で問題のタンパク合成のもとになる RNA(リボ核酸)レベルの増大も確認されている。動けない植物ではあるが、中にはこんな手の込んだ奇策をとるものもいる。

ミツバチに寄生して害をなすアカリンダニを防ぐには、ミントの一種ハッカの成分のメントールがよく用いられる。最近、庭の巣箱の近くを徘徊するミツバチが日に1、2 頭いるのを見つけた。真夏には置くのを止めていた食添用メントールだが、今回気になって巣箱に入れることにした。ただ、ミツバチにとってその存在があまり好ましいものではないようで、メントールを上に置いたスノコの隙間を、蜜ロウでせっせと埋めて匂いが来るのを防いでいるように見受けられる。

ミツバチのコロニーに害を及ぼす農薬として問題になっているネオニコチノイド系殺虫剤は、ニコチンの仲間であり化学合成した神経毒だ。人へのリスクも心配されるその使用を止めるために、アレロパシーを用いた安全な生物防除の進展にも期待したいところだ。(尼川タイサク)

マキノの庭のミツバチ日記(67)

逃去の企て?

9月 25日だったか、ニホンミツバチの巣箱への花粉の運び込みが全く見られなくなった。先に台風 21号が来たとき、巣箱の一つで群の逃去があったことは前に書いた。その際に、もう一つの巣箱の群も活発な怪しい動きをしていた。水をスプレーで振りかけた結果、群は平静さを取り戻したのだった。その居残ったのが問題の巣箱。箱の内にはまだ大勢のミツバチが残っているのは心強いのだが、産卵に必要な花粉の供給ストップは心配。おまけに蛹(さなぎ)が少しずつ外に運び出され始めた。

次の日も蛹が巣房から引き出され運び出されている。頭をかじられているのもいた。だが働きバチの出入りは盛ん。いよいよ巣箱を見限っての移住も近いのかと覚悟した。

27日。朝晴れていたが曇りのち雨に。あいかわらず巣箱への花粉運び込みはないが働きバチの出入りは盛ん。昼前かなり興奮気味の動きがあり時々蛹を運び出す姿が見られた。計画逃去を企てたのか?盛んな出入りのあることも、蜂蜜をどこか新しい住処に運び出しているのではと怪しんだ。そこで、巣を出るハチと帰ってきたハチをいくらか手網で捕らえて、体の中の蜜貯蔵庫である蜜胃を調べることにした。

蜜胃は透明なボール状の伸縮自在の袋(人で言えば胃のようなもの)になっている。外勤バチは蜜胃が大事。それは自分の体内にある臓器だがその中の蜜は自分の所有物ではなくて、彼女の属するコロニーの共有物なのだ。採った花蜜は巣に戻ったら仲間に吐き戻して渡されるし、出かけるときは仲間から飛行燃料分として口移しに蜂蜜が支給される。ミツバチ社会の面白い仕組みの一つだ。ただし、 蜜胃を直接見るには腹部を小型ハサミで丁寧に開いて露出させるほかない。昔のことだが、大学でハエの生理学を研究していた経験があるので、私にとってはそれほど難しい作業ではない。

外に飛び出そうとしたハチを調べた結果では、その蜜胃が思ったよりも大きく膨らんでいて腹部の体腔一杯に広がるくらいだった(写真に撮ってみたがかなり 生々しいのでここでは割愛した)。いわば蜜で満タンの有様だ。その中身はこれから出かける飛行のための支給燃料(それだと長距離かも?)なのか、それともどこか他所に定めた新居への配送分なのか。見ただけでは分からない。一方、外から戻ってきたハチの蜜胃はそれほど大きくはなかった。密かに貯蓄蜜を運び出し、 蜂児を抜き去り整理する・・・着々と計画逃去の準備にかかっているというシナリオがまたもや頭に浮かんだ。そのようなことが現実にあるかどうか疑わしかったが、先月の他の巣箱での逃去事件(巣板以外は何も残さなかった)の後では、妄想が消えない。

10月中旬に入って、巣箱は今のところ正常な感じに戻ってきた。観察窓からのぞくと、巣板を覆って活発に動く働きバチの群が見られた(写真)。ひところのように蛹を引き出すこともない。スズメバチの来訪が極端に少なくなった。さらに花粉の持ち帰り頻度が明らかに増えた。今日の昼過ぎには久しぶりに時騒ぎの賑わいがみられた。以前のような元気さを取り戻したように見える。コロニーが何らかの不具合から回復してきたのだろうか。あるいは移住を思いとどまったのか。 そうだと嬉しいが。(尼川タイサク)

マキノ駅前おさんぽ市

10月14日(日) 11:00~14:00 出店します。

販売品目は以下の予定です。
・ハニードリンク
・雑貨フリマ(どれでも100円)
・高島市産はちみつ(百花蜜)
・ミツバチまもり隊オリジナルTシャツ
・みつばちチャーム(ドリーム・だんだん)
・みつばちストラップ(ぐりーんらいと)
・ハニカム刺繍ブローチ(Hedgehog needlework)
・ガーデンハックルベリーコンフィチュール(コンフィチュール樹樹)
・「マキノの庭のミツバチの国」(尼川タイサク著)

ご来場お待ちしております!

マキノの庭のミツバチ日記(66)

オオスズメバチとの攻防

秋になるとスズメバチの姿を頻繁に見るようになる。スズメバチの中でも断然危険なのは体が大人の親指くらいあるオオスズメバチであろう。この前も、車イスの老人が移動中に襲われて体のあちこちを刺され、ショック死するという不幸な事件が報道されていた。こういうニュースがあるとスズメバチを悪魔のように思う人が少なくない。巣の近くに人が入ってきて、警告が無視されるとオオスズメバチは容赦ない反撃に出る。だが、むやみやたらに人に襲い掛かることはまずな い。体が中型のキイロスズメバチなどは、ミツバチ 1頭捕まえると満足気に帰っていくのでそれほど怖い存在ではない。

都合でしばらく放っておいた巣箱をたまたま見に行ったら、屈強なオオスズメバチの 7、8頭に襲われていた。今年はオオスズメバチが少ないなと思いこんでいたのでびっくり。すでに巣門に 5頭くらいがたむろし、入口の木部をかじって中への侵入を狙っているようだ。

オオスズメバチは強力なあごと毒針をもつ獰猛なギャング蜂だ。セイヨウミツバチならば、次々これに立ち向かっては噛み殺されて玉砕になることが多い。その点、ニホンミツバチは、敵が1、2頭の場合なら集団で取り囲んで蜂球を作り熱死させる。有名な「布団蒸し」作戦が得意技の一つ。ミツバチの群に勢いのある場合は、大勢繰り出してけん制にでることもある。オオスズメバチの羽音に対抗してワーンという多重奏で応える。体を一斉に振らすいわゆる振身行動をすることもある。最近お目にかかったのは、巣門から繰り出してきた働きバチたちがそれぞれ羽音をたてながらでたらめに動き回るシーン。その振る舞いは、狙いを絞らせないだけでなく相手を威圧するみたいで、強敵はあきらめて去った(写真1)。

だがオオスズメバチも身内に動員をかけ、多いときは 100頭ほどでもって巣の乗っ取りにくるという。我がニホンミツバチたちも、今度のような多勢の強敵相手ではさすがに退避し籠城するしかない。とりあえずは手助けが必要と思い、私は目深に帽子をかぶり首筋を守るためタオルを巻き付け手網を持って出動した。

ギャング蜂たちはほとんど人を気にしていない(自分は最強だと思っているのか)。だが邪魔されると反撃する。私もすぐには手が出せずしばらく立ちすくんでいたが、気持ちが落ち着いてくると手網を使っていくつか獲ることができた。狙って素早く網を振ると不思議と掛かってくれる。相手はパワーがあり飛ぶのは速いが、胴体が大きい分だけ空気抵抗が強く、蚊のような小回りや敏捷さに欠ける弱点をもつようだ。さらに、買い置きしていたネズミ捕り用の粘着板を取り出して巣箱の天板に置き、オトリとして捕らえた 1頭をそこに貼り付けた。

粘着板は思った以上に効果的。3日間に捕獲したオオスズメバチは 120頭になった。不思議なのは、囚われの仲間に自ら寄って罠にはまってしまうこと。粘着板にくっついてもがいているスズメバチを見るのは気持ちいいものではない。甲冑姿の武士が枕を並べ討ち死にしていくようで哀れに思える(写真2)。オオスズメバチが立ち去ったのを見計らって、働きバチが巣門付近に次々現れあちこち見て回った。そして敵が残した餌場を示すマーキングの痕をていねいにかじり取り、臭いをごまかすためか自らの糞を辺りにまき散らしている。なかなかやるじゃない!(尼川タイサク)

マキノの庭のミツバチ日記(65)

蜂蜜の残留ネオニコ分析

8月に、ある食品検査機関に自家製蜂蜜 75グラムを送って、残留ネオニコ系農薬の分析を依頼していた。検査費用は私のささやかな小遣いをはたいての出費だったが、気になっていたことを払拭したかった。というのは、前にも日記に書いたが、一部の市販蜂蜜にネオニコがわずかながら残留しているという新聞記事を読んで、我が家の庭のニホンミツバチの巣箱から採取した蜂蜜に残留していないか、確かめたかった。

9月中頃にその蜂蜜の分析結果として 1枚の検査成績書が送られてきた。アセタミプリド、イミダクロプリド、クロチアニジン、ジノテフランなど 7種以上のネオニコ系農薬と代謝物について、いずれも蜂蜜中で 0.01 ppm 未満(*)とあっ た(写真)。国の残留基準をクリヤーしているので、食品として一応安心というところ。調べてもらったサンプルは 5月に採取して保存してきたもの。8月初めのネオニコ空中散布の後では採蜜していないが、それだとまた違う結果になったかもしれない。

ただ、今回の検査自体にも不満が残った。検査報告書にはエビデンス(分析データーなど)が全く添付されていなかった。分析結果のクロマトグラム(溶出ピークなど記したチャート)のコピーも見たかったのだが。検査に使用したとされる液体クロマト/タンデム MS 法は精度・感度が優れていて 1 ppb(0.001 ppm)の 下まで分かるといわれる。たとえば人尿中のネオニコを測ったという学術論文にこの測定法は採用されている。

ミツバチが日常的に摂食する蜂蜜中に、もしネオニコが ppb 程度のごく薄い濃度であっても含まれていれば、コロニーに悪い影響が出ることもあるという報告がある。私もニホンミツバチを飼っているので、検査において ppb の桁で具体的数字が出ているならば知りたいところであった。

分析元に電話で問い合わせて返ってきた説明では、測定の際に 0.01 ppm 未満の測定値の場合は生の数字を出さない設定になっているとのこと。その測定器の精度から見て当然もっと下の値まで示されると思っていたのが甘かった。依頼する前にその検出下限なり定量下限の値がどの辺に来るのかを聞いておけばよかったと悔やまれる。

蜂蜜は食品として一応安心といったが、他方で、国の現在のネオニコ残留基準が妥当かどうかで異論も出ている。ネオニコのような人(特に子供)への DNT(発達神経毒性)のリスクが疑われる新規の神経毒を扱う場合には、慎重さが求められる。最近、国内の残留基準に変更があり、アセタミプリドが 0.2 ppm と大幅に緩和されたこと(他のネオニコ系は依然そのままの 0.01 ppm)を知った。実際のところアセタミプリドについては上げざるを得なかった事情が、厚労省そして養蜂関係の業界の一部にもあるのかもしれないが。

しかし消費者の立場からいうと不安が残る。厚労省が残留基準を緩める方向に向かう(例によって?)のは、本末転倒ではないか?欧州(EU)などのようにネオニコを禁止ないし規制する方向に動くべきだと思うのだが。1検体を 2万円前後で測れるなら自治体や実力のあるNPOあたりではそれほど大きな負担ではないだろう。どんどん蜂蜜に限らず食品を検査して結果を広く情報提供してほしい。 (尼川タイサク)

(*、ppm=100 万分の1。1 キログラムの重量当たりでいえば 0.001グラム)

マキノの庭のミツバチ日記(64)

ハギの花が咲いて一安心

ミツバチが花粉採取でよく訪れる百日紅(サルスベリ)の樹も、台風 21号が過ぎるとき折れたり引き倒されたりと、散々な被害を受けた。近くの県道で百日紅の街路樹がおよそ 200メートルに渡って植えられていたところでは、倒木がかなりあり通行の邪魔とか見苦しいということもあって、全ての百日紅の樹が除去され整理されてしまった。他にも強風のために多くの草木がすり切れてみすぼらしい姿になったようにも見える。夏の蜜源不足も重なっているようでミツバチのこれからが心配だった。

だが、さすがに 9月も中旬になって、ハギやキバナコスモスの花が咲き出てきた。近くの知内川の堤の道にもハギの花が目立つ。散歩していて、そのこじんまりした茂みの一つに出くわした(写真1)。そこにミツバチが 20頭ほどで訪れて花蜜や花粉を集めている。多数のミツバチが嬉々として花々の間を採餌に飛び回っているのを観るのも、ミツバチ愛好家(?)としては、大きな楽しみでもある。

最初見たときはニホンミツバチもいたのだが、翌日見に行った時には、来ているのはほとんどがセイヨウミツバチだった(写真2)。体の大きくて強いセイヨウミツバチに押されて、ニホンミツバチは追い払われたのだろうか。ニホンミツバチのファンである私は少し残念。

蜜源が豊かに開かれるこの時期、どうしたことか蜜源ではないバラの葉やレタスの葉をニホンミツバチがかじるという珍しい行動があるらしい。養蜂家や農家の間では知られた現象と聞く。この行動が見られるのは、9月から 10月に限られている。かじられたレタスは商品とならず生産農家にとっては打撃となる。だがこの現象は未解明のままになっていた。

去年の秋だったか、日記を読んでくださっているある方から、レタスをかじる行動の意味についてお尋ねがあった。しかし私はそれを見たことがない。ネットで 探して出会った横井智之博士(筑波大学)の論文中の写真では、確かにかじっている様子が分かる(*)。私は残念ながら満足な答えを持ち合わせず、「ミツバチ が食糧としてではなく何らかの生理作用のサプリ(?)として、レタスなど植物の葉や花弁、土中の有機物やミネラルを摂取することはあり得ると思います。」と、珍妙な答えに止めていた。

だがそのあと、ニホンミツバチ研究家の菅原道夫博士(神戸大学)から頂いた私信に、レタスの中のミツバチを集合させる成分を探求中とあった。そしてこの秋、 その成果を学会で発表に至ったとの連絡を頂いた。

そのホヤホヤの情報はなかなか興味深い。菅原博士らは、微量成分の分析法(GC- MS)でもって、レタスの茎とミツバチ・ナサノフ腺のエーテル抽出液に共通して存在する成分を特定し、その特定の成分にハチが実際に誘引されることを実験で確かめている。

秋の時期に単独のハチが若い菊の葉やバラの葉をかじる行動が知られている。たまたまレタスの葉をかじったニホンミツバチが、レタスに含まれている成分(それはナサノフ腺にあるのと同じもの)に誘引され、多くのハチがレタスに集まるということらしい。

ミツバチが花蜜と花粉だけをエサとするだけでないことは知られているが、このレタスなどをかむ行動にも、ミツバチの持つ行動の奥深さ多彩さが感じられる。 (尼川タイサク)

(*横井智之「ミツバチ科学」26号 (3), 2005年)

マキノの庭のミツバチ日記(63)

ミツバチにも生きにくい環境になってきた

前回にも書いたが、猛威をふるった台風 21号が去った後、庭に巣箱で飼っていたニホンミツバチが逃げた。写真1は、空になった巣箱を横倒しにして内側を見たときのもの。はっきりした原因は不明だが、酷暑、台風、花蜜不足、スズメバ チのしつこい襲来などがトリガーになったと考えられる。

台風の前日までは、働きバチらはいつものように花粉を運び込んでいた。キイロスズメバチの襲撃があれば巣箱前面に 200頭ほど集合して、一斉に体を震わせ振身行動でもって対抗しているのを見た。逃去した日も朝方見たときは、門衛が固 めていたので私は安心していた。それが急に全部いなくなったと分かった時は、フェイントを掛けられたみたいに頭が混乱していた。

後で冷静になって考えれば、これはかなり前から準備され、産卵をやめ、蜂蜜や蜂児を整理していることは明白。巣房の幼虫についても、セイヨウミツバチのように食べてしまう(全部でなくとも)ことをやったかも。計画倒産ならぬ計画逃去をやられたみたいだ。しかし、昆虫の身でありながら、厳しい状況判断をしてこれほど組織的に転出を成功させるのは、すごく知能的で驚くべきことではないか。恐れ入りました。

庭に残ったもう一つの巣箱の居住者ら(台風通過後に一度だけ怪しい素振りをみせた)は、今は何気ない顔で花粉を運び込んでいてまだ「決行」に及んでない。 だが、私は疑惑の眼差しで「彼女ら」をちょっと睨んでやっている。

私はフェイスブック(FB)をやらないが、日記の記事を更新するたびにミツバチまもり隊の手で FB サイトに転載されている。日記への感想やコメントが時々だが担当者の手によって私の元に戻ってくる。今回は緊急避難ではなくて計画逃去ですとのご指摘をいろんな方からいただいた。さすがに飼育ベテランの方たちのコメントは光っている。多くの皆さんも印象深い逃去体験をお持ちのようですね!

もう一つコメントに関連して付け加えたいのは地震予知のこと。今回の逃去と北海道の地震とは無関係と私は思う。地震の前段階で地殻に圧力がかかり、ピエゾ効果で電磁気環境の異常が起こるらしい。ミツバチの体内に磁鉄鉱の存在が証明されているが、それがなくても、鋭敏な感覚系をもつので行動変化を起こすことはあり得る。ただし震源の近くでないとこれはない。阪神大震災のときはさまざ まの動物の異常が報告されている。熊本地震や今回の北海道地震のような直下型ではどうなのか。人口が少ないと目撃情報も限られるのでは。

我が家での逃去劇の一方で、以前に夏分蜂で養子に出した一群でも最近になって不幸なことがあった。箱を置いた今津町の山里で順調に暮らしていると聞いていたが、8月末にクマに襲われてコロニーが消滅とのこと。送られてきたメールの写真には、無残に巣箱が破られ蜂蜜を含んだ巣板は抜き取られている様子が見てとれた(写真2、3。是永氏提供)。7月にも、今津町の別の山際に置かれた巣箱がクマに襲われたと聞いている。この高島市内のあちこちでもクマが山を下りて里をうろつくようになった。

地震や台風、酷暑などで災害列島と化しつつある日本で、クマ、ツバメ、スズメバチに農薬ネオニコチノイド、大気汚染の PM2.5など様々のストレスが重なり、 ニホンミツバチにとっても生息環境はますます厳しいものになっているのを実感する。(尼川タイサク)