マキノの庭のミツバチ日記(29)

千鳥足(ちどりあし)のミツバチ・ダンサー

庭の巣箱は一応元気そう。先週には盗蜜かと思う一幕もあったが、今はかなり安定している。蜜源になるハギの花も咲き始めてきた。のぞき窓から巣箱の内を見ると、落ち着かない様子でダンスしながら巣板の上を這うのは、エサ探索から戻ってきた働きバチか。小回りの尻振りダンスをしながらも、一か所に止まるわけではない。ブルルッと体を震わせてせわしく進行方向を変えている。以前、米国シーリー博士がセイヨウミツバチでのダンサー(探索バチ)の動きを単行本の中で記しているのを読んだことがある。そのページの図には千鳥足歩きのような足取り(軌跡)が載っていた。

シーリーさんが言うように、巣のあちこちに待機中の仲間のなるべく多くに、尻振りダンスを限りある時間内に見せて回る(蜜源の情報を伝える)、という説明も納得がいく。踊りを広く宣伝するために動きまわる昆虫って他にあるだろうか?(挿絵はイメージ)

千鳥足という酔っ払いのおじさんの歩き方(いわゆる酔歩)は、赤提灯街で今でも目にすることがある。危うい歩き方のように思えるが、意外にも多くは首尾よく自宅に着いているらしい。しかし、目標を探し回る探索行動をとる場合、大方の現代人は秩序だった計画的な方法を採用する。たとえば、船が遭難し連絡を絶った時、広域での捜索活動は対象海域を細かく区画に切り分けて一つ一つしらみつぶしに探すのが常道。「行き当たりばったり」にランダムで無作為に探していく方法は公式には採用されない。同じ地点に戻ってしまい重複が生じることが多く無駄にみえる。だが、長い目で見ると(あるいは統計学的・確率論的に評価すると)、でたらめに見える千鳥足歩きだが探索行動としては最善策のものがあるそうだ。

少なからぬ動物では、獲物を探して動き回る行動がランダムであることが知られている。その動き方の一つには「レヴィ飛行(レヴィ軌跡)」と呼ばれるものがある。アホウドリの採餌行動を追った仕事から本格的な研究が進み、その後、サル、トナカイ、アザラシなど他の動物でも続々と見つかっている。昆虫ではアリ、ハエ、マルハナバチ、そしてミツバチについてもレヴィ飛行を行うとされる。

レヴィ飛行をすると言うとなんだかいい加減な行動のように思われるかもしれない。だがメリットがあるからそれが採用されている。ミツバチは熟知した土地についてはマップ(地図)が頭の中に出来ており、その範囲ならば目的地にほぼ最短距離で直行するという研究報告がある。巣でダンサーの尻振りダンスから位置情報を読んで現場に急ぐ場合も、同じく直行型になる。見知らぬ土地に来た場合についてはレヴィ飛行をとる。

では分蜂(巣別れ)の時に新しい住処の候補地を探すのはどうなのか。それぞれの探索バチはレヴィ飛行を採用するにしても、探索地域のある程度の区割り分担がなされているように思えるが、たぶんまだはっきりとは解明されていないと思う。これは面白い研究テーマであろう。

何千といる自分の家族と家事を分担して暮らし、迷わずに家に戻って来られるし、ダンスを千鳥足で舞ってエサ場を知らせるなど、ミツバチの行動は奥が深くて芸が細かい。ミツバチは本当に不思議で面白い昆虫だと改めて思う。(タイサク)
〔「日記」はしばらくお休みにします〕

マキノの庭のミツバチ日記(28)

巣門での争い(盗蜜バチが出現)

ニホンミツバチの巣箱では、暑い日には巣門付近にたむろする夕涼み集団が見られる。今日はなんだかその連中に落ち着きがない。近寄ってみると、あちこち数か所でミツバチ同士が争っている。激しいところは取っ組み合いみたい。組み討ち中の一組では、ついに一方が相手を大あごで噛み殺した。倒れた相手を抱え込んで遠くに放り出しに行くものもある。地上にはあおむけになった死体が5頭ほどころがっている。目ざといアリにすでに取り囲まれた亡骸もある。まるで戦場みたい。形勢は巣箱守備隊のほうが断然有利の模様。

最初は、セイヨウミツバチによる盗賊行為つまり盗蜂(盗蜜)かと思った。だが襲ってきたハチの体が巣箱の連中とよく似ていて、どうも同じニホンミツバチのようだ。念のため盗賊を捕まえて、後ろ翅の翅脈(しみゃく)をルーペで拡大し観察したところ、H字型の交差があることからニホンミツバチであると確認した。写真はまだバトルが収まってないときのもので、右上方では後ろから乗りかかって攻撃しているものが見えるし、左側でも取り囲まれたのがいる。だがこの時点では大勢が決していて、残念ながら迫力を欠いた写真しか撮れてない。

養蜂家は盗蜂といったり盗蜜といったりする。本来「盗蜜」という語は広い意味があり、花粉の媒介サービスを伴わずに花蜜を奪取することを言う。それをやるのが、鳥ではスズメ、昆虫ではアリやチョウ、特定外来生物指定で知られるセイヨウオオマルハナバチなど。しかしミツバチ同士であっても、場合によっては他の巣から貯蜜を失敬する。特に花蜜不足の頃には起こりがち。

セイヨウミツバチがニホンミツバチを襲うという話はよく耳にする。体のサイズがやや劣り性格的にも大人しいニホンミツバチが劣勢に立たされ、戦意すら失うと言われている。だが、蜜が十分に確保できる季節だと、そんな争いは少ないらしい。実際、私も双方を春頃に同じ庭で同時に飼ったことがあったが、お互いに侵略することはなかった。

今、庭にいるニホンミツバチは数も多くガードもしっかりやる強群で、なかなかスキをみせない。盗蜜となると後続部隊がまだ来るかもしれないと思い心配したが、その内に紛争は収まった。どこかの弱小コロニーが崩壊して、迷いバチが入り込もうとしたのだろうか。だが経験者によると、優勢な盗蜜者はしつこくて被害の側は壊滅に至るほどらしい。巣箱を遠くに移すか巣門を数日間閉じるなどの対応策が語られている。

夏枯れで花不足が心配だったが、近ごろになって巣箱の出入りが活発になった。空中の見えない回廊はラッシュを思わせるくらいになっている。持ち込まれる花粉は黄色のものが多い。散歩に出たときに偶然見えたのは、県道の両側に華やかな列をなすピンク色の街路樹。百日紅(サルスベリ)の木で、今や満開であった。その中の花に寄るミツバチやマルハナバチを見つけた。ニホンミツバチにとっては夏場の貴重な花粉源である。この時期、ヒマワリやキンカンがあればとても良い蜜源にもなる。これらの蜜源・花粉源をうまく分け合って仲間同士の争いをなんとか避けられないものだろうか。動物でも暮らしを全うするのはなかなか楽ではないなーと、ミツバチの日々の様子を見て思うことが多い。(タイサク)
 

セレマ今津駅前会館出店コーナー

8月18日(金)10:00~13:00 出店します。

販売品目は以下の予定です。
・高島市産はちみつ(百花蜜)
・ミツバチまもり隊オリジナルTシャツ
・みつばちチャーム(ドリーム・だんだん)
・みつばちストラップ(ぐりーんらいと)
・ハニカム刺繍ブローチ(Hedgehog needlework)
・ガーデンハックルベリーコンフィチュール(コンフィチュール樹樹)
・ニコちゃんクッキー(ふぁみーゆ)
・「マキノの庭のミツバチの国」(尼川タイサク著)

ご来場お待ちしております!

マキノの庭のミツバチ日記(27)

稲の花の咲くころ

米の花を見たのは初めてだった。散歩の途中、青々とした水田の稲穂にふと目を
やったとき、白い点のようなものがちらほら見えた。これが米の花というものか!
写真を撮るためカメラを取りに家に戻った。引き返した時、その花はすでに閉じ
られていた。他の穂を探すと、あった、あった(写真)。籾(もみ)からはみ出て
見える白いのが雄蕊(おしべ)。ひょっとしてミツバチが来ているかとあたりを見
回したが、残念ながら見つけられなかった。

米の花は昆虫の助けの要らない風媒花で、7月下旬から8月初旬にかけて開花す
る。開花と言っても花弁(はなびら)はなく、籾(もみ)のカプセルから雄蕊の
数本がこぼれ出て見える。雌蕊(めしべ)はちょっと分かりにくい。これらが見
えるのはほんの2時間程度。花の命は短いといわれるが、米の場合は一瞬と言っ
てもいいほど。しかし、雄蕊からまき散らされた花粉が雌蕊につかまり受精すれ
ば、花としてはお仕事完了。

米作りの歴史は害虫との闘いの歴史でもあるといわれる。ホソカメムシはせっか
く実った穂の米粒を吸う害虫で、吸われた米粒は変色し斑点米と呼ばれる。0.2%
以上の被害があると米全体の品質低下とみなされ、経済価値も下がる。化学防除
の進んだ現在では、出穂(しゅっすい)時期に合わせて、ホソカメムシを退治す
るためにネオニコ系殺虫剤が水田に散布される。

青穂を目当てに来るのは害虫ばかりではない。先ほどの花粉を集めるのがミツバ
チ。夏の時期は頼りの花が不足しがち。しかし稲の花からは、花蜜は出ないがタ
ンパク源として花粉が収穫できる。ある研究者がミツバチの持ち帰った花粉を調
べたところ、その内の多くが米の花粉に由来していたという(*)。貴重なエサで
ある花粉の中に、浸透性そして残留性の高い殺虫剤が含まれている場合があるこ
とを、ミツバチは知らない。

ウチのハチたちは今どんな花粉を運んでいるのだろうかと気になった。働きバチ
がせっかく持ち帰った花粉であるが、「悪い、悪いナ」といいながら、後肢の花粉
バスケットから団子状にパックされたものを横取りして調べてみた。実際に顕微
鏡で観察してみると、花粉それぞれは丸いボール状で、小さな口のような穴が一
つ付いているのが見えた。それは米の花粉資料集の写真そのものに似ているが確
定できなかった。(タイサク)
〔* ドキュメンタリー映画『ミツバチからのメッセージ』より〕

 

マキノの庭のミツバチ日記(26)

ネオニコ散布ヘリがやってきた

朝6時過ぎ、バリバリという音とともにラジコン・ヘリが農薬散布に来た。地域の農業組合から配布のチラシには、米作りに重要なのでご協力をと記されていた。稲の害虫カメムシなどの駆除が主な目的らしい。しかし、最近明らかになってきているネオニコ系農薬が抱える問題点には一切触れられていない。

「ミツバチまもり隊」の活動も3年に及び、その成果も出始めた。高島市に申し入れていた散布予告放送が実現した。先のチラシに養蜂家への注意書きが載ったのも前にはなかったこと。私の庭に隣接する水田2面については、ここ3年ほどだが、持ち主のご厚意でネオニコを撒かないところまで進んでいる。

散布では風向きが気になる。今朝は北からの風なので、これはまずい。もろに我が家と巣箱に向いてくる。過去にも、散布の後にミツバチの調子が悪くなりコロニー絶滅に至った経験をしているので神経質になる。巣箱を他に移すことを考えたが、ニホンミツバチの巣の本体をなす蜜ロウは熱に弱く、気温の高い時に動かすと巣が落下(巣落ち)する恐れがあり、とりやめた。せめてもの処置として、散布空間を飛んで被曝(ひばく)するのを避けるため、金網を巣門にあてて巣箱の出入りを止めた。

ラジコン・ヘリで散布されるのは殺虫剤スタークル(ネオニコ系)と殺菌剤ビームエイトの混合液。スタークルの濃度は原液の8倍希釈。地上での通常の散布だと250~1000倍希釈だから、すごい濃厚液だ。それがヘリの両脇に取り付けられたタンクから下方に噴射され、一部は霧状になりドリフト(浮遊物)として滞留したり周辺に拡散したりする。さらに、殺菌剤と殺虫剤の混合液は相乗効果が出て、特にハチには悪いという大変気になる報告を読んだことがあった。

ヘリ散布はおよそ50分の作業で終わった。いつものことだが、ヘリからの散布でドリフトが残るのが当面は案じられる。この散布作業の間にも、田のすぐ近くのホテルには散歩の人影があり、その裏の浜辺はキャンプや湖水浴の人たちがたむろしている。人家の近くもお構いなしの散布にはハラハラさせられる(写真)。

私の次の悩みはジレンマからのもの。つまり巣箱の鎖国をいつ解くかで悩んだ。巣門締め切りで巣箱の外に締め出されていたミツバチ数十頭が落ち着かない様子。門番バチが、盛んにチェックしに来てつきまとう。箱の内の大勢も不満(?)を抱いているのかも。穏やかでない雰囲気を感じてしまう。たとえ私が説明を試み、「外の花蜜は毒饅頭なのかもしれない(ちょっと古い表現!)。しばらく待ってネ。」と言ったとしても分かってはもらえないのが辛い。

8時過ぎ、我が連れ合いの「それはミツバチ虐待じゃ」という一声に、ついに門戸開放へと動いた。虐待と言われると、私も弱い。風もすこし吹いてきてドリフトをいくらか押し流したようなので決断。巣門から遮蔽物を取り除いてやると、待ちかねたように働きバチが次々と出てきて、少なくとも見かけはさわやかそうな青空に向かって飛んで行った。

散布により稲などの作物に浸透し、葉から出る水や花粉に潜んで効力を長く維持するのがネオニコ殺虫剤だ。たとえ当面のドリフトを逃れたとしても、その魔手を逃れきれるとは限らない。晴れぬ思いで彼女らを見送った。(タイサク)