マキノの庭のミツバチ日記(16)

働きバチはよく眠る

昼間、花蜜や花粉を探して飛び回る働き者のミツバチは夜も寝ないという話をよく聞く。だが、働きバチについていえば、実は夜にはよく眠るらしい。あたりが暗くなると巣箱の出入りがなくなり、静かになる。のぞき窓から見ていると、たしかにじっとしているものが多いが、体を動かしたり、触角を動かしたりするものもいる。

ミツバチははたして眠るのだろうかと、いろんな人が研究をしてきた。ガラス張りの巣箱での暗視カメラ(赤外線を使い暗闇でも見える)による観察では、真夜中でも働いている蜂がいるそうだ。それは主に内勤をする若い蜂たちで、巣作りや外勤のミツバチが集めてきた花蜜の濃縮、室温維持、子育てなどにあたっている。

ところで、眠るのと休むのとを区別できるのだろうか。人の場合は、意識を無くした睡眠状態の脳を脳波計でもって調べることができる。睡眠状態には段階があるが、それは脳波のアルファ波の減少やデルタ波の出現の割合などで判定されている。ミツバチ(この場合はセイヨウミツバチ)を調べるのに脳波をとるのはむずかしいので、ミツバチの脳の視覚に関与する神経細胞にごく細い電極をあてて、神経の電気的活動状態をモニターした研究がある。それによると、夜が更けるにつれ神経の活動が弱まり、真夜中には最低のレベルに落ち着く。朝になると再び活動がしだいに盛んになる。

働きバチの首の筋肉にも針状の電極をあてて筋肉の活動をモニターする方法(筋電図法)もとられている。人の場合でも、オトガイ(あご)筋電図が睡眠の深さを見るのに使われている。ミツバチでも夜になるにつれ首の筋肉の緊張がゆるくなりやがてがっくりと頭を垂れるという(まるで人みたいだ!)。また、腹部も腹這い状態になり、触角の立て方も変わり次第にだらしなく垂れさがるとか。

若バチは熟年の蜂とは異なって、サーカジアンリズム(概日リズム、活動周期がほぼ24時間)がまだ確立していない。眠り方のちがう若バチと熟年バチでうまく役割分担しているのだろう。だから、昼間に大活躍して今や眠りこけている外勤姉さんたちにかわって、若バチたちが巣箱不夜城のなかで夜勤につく。むろん2、3時間ほど働いて疲れたら適当に短時間の休みをとる。

昨年の夏のことだが、夜12時を過ぎて私がそろそろ眠ろうかと思ったとき、窓ガラスに1頭のミツバチの訪問客があった。ジリジリと音をさせながら盛んに飛び回っていた。今頃なんだろう、えらく宵っ張りな蜂だと思って見たことが2、3日続けてあった。今思うに、あれは若手のミツバチが近くの巣箱からやってきたのかもしれない。そういえば飛び方もたどたどしかった。(タイサク)
<このミツバチ日記も、秋ごろまでしばらくスリープ(お休み)します>

眠る働きバチ(挿絵)


マキノの庭のミツバチ日記(15)

アカリンダニ対策~巣箱のモデルチェンジ、ついでに採蜜

日曜日の朝、琵琶湖の対岸に住むベテラン蜂飼いのIさんたち二人が来てくれた。少し前のことだが、寄生ダニのことが気になって我が庭の巣箱のミツバチを捕まえて顕微鏡で調べてみた。すると1頭の体の呼吸器(気管)に数匹のアカリンダニ(*)が寄生しているのが見つかった。近年、この寄生ダニが長野県や山梨県、当地滋賀県など各地でニホンミツバチの群れを次々と絶滅させ問題になっている。それで、何らかの手を打とうとこの二人に救援をお願いしていた。今日は、巣箱の天板と底部をアカリンダニ脅威に対応したニューモデルに取り換えることにした。木製のパーツはいずれもIさんの労作。

まず、重箱型巣箱の底部を取り換えた。新しい底部には蝶番(ちょうつがい)で扉がつけられ、そこを開けると巣くずなどを楽に掃除出来るし、手鏡を入れて下から巣の様子も観察出来る(写真1)。次に、今の重箱型巣箱4段を3段に切り詰めることにした。巣箱最上部には、網を張った「スノコ」の部屋が新たに加えられた(写真2)。ここに薄荷(メントール)の入った紙袋を置いて、上に天板をかぶせれば完成。メントールの臭いがダニをけん制してくれるといわれている。ただし、今のところ被害の兆候は出てないので、しばらくは様子を見るということにし、今回はその薬剤を入れるのは見送った。これでアカリンダニへの対応らしき準備が一応できたことになりちょっと安心した。

写真1、巣箱の新しい底部(写真1、巣箱の新しい底部)

写真2、巣箱の天井部にスノコを設置(写真2、巣箱の天井部にスノコを設置)

ついでに、取り去る1段分の箱枠から採蜜することになった。手順は、まず重箱最上段と次段の箱枠の隙間に釣り糸みたいな針金をさし入れて、反対側に引き切り、箱の中の蜜ロウで出来た巣の部分を輪切りにする。最上段の箱枠を取り出すと、内側には重なり合った巣板9枚のきれいな断面が見られた(写真3)。その面をみると蜂蜜の入り具合がよくわかる。空き部屋が目立つのは、少し前に3回も分蜂したばかりなので、貯蔵していた蜂蜜が働き蜂によって持ち出されたのかもしれない。

写真3、取り出した箱枠(写真3、取り出した箱枠)

蜂蜜の採取は、箱枠から巣板を切り出し、金ザルにリード紙を敷いたものの上に小片に割って置いておく(写真4)。巣板から蜂蜜が自然に少しずつリード紙で濾されて、下の容器にたまっていくのを待つという気長なやり方だ。この季節だと、1日半ぐらいで完了する。今回の蜂蜜は、粘性があった去年に比べ少しさらっとしている。滋賀県各地の巣箱の絶滅が伝えられる中、我が庭のミツバチたちは何とか冬を越し生き延びてくれた。そのミツバチたちがくれた貴重な蜂蜜は、一サジすくって口に含むと、ニホンミツバチ独特の心地よい香りと、酸味かかった強い甘みがしみじみと伝わってきた。(タイサク)

写真4、巣板を切り出して金ザルへ(写真4、巣板を切り出して金ザルへ)

 
* アカリンダニの写真は前号「マキノの庭のミツバチ日記(14)」に掲載


マキノの庭のミツバチ日記(14)

ミツバチ体内に見つかったアカリンダニ

ニホンミツバチの大敵アカリンダニ

滋賀県の各地で、寄生ダニによるとみられるニホンミツバチのコロニーの絶滅が去年から盛んに起きている。私の庭のミツバチの群れは元気そのもので異常は認められないが、念のため自分の手で調べてみることにした。

ネットにあった検査方法に従って計10頭を解剖し手持ちの顕微鏡で調べてみた。健康な蜂の気管は、空気がスムーズに通れるように内側に何もなく、らせん形のスプリングのような管状で、内部は透き通ったようにきれいに見える。検体9頭については、気管がきれいであり異様なものを発見できなかったが、残り1頭は気管の内側が黒ずんで汚く見え、ダニみたいなもの3匹が見つかった。やはり隠れていたのかと愕然とした。感染したハチがある程度巣箱に潜んでいる可能性があるので、警戒を強めることにした。

その後、同じ市内でニホンミツバチを飼っている方が、調べてほしいと10頭ほどミツバチを届けてきた。そこも少し前に分蜂が起こり新コロニーを得たと聞いていた。その巣箱の周りに点々と蜂の死骸が多数散乱し、生きているのはあたりを徘徊しているとのこと。翅(はね)がKの字の形をしているかどうかは聞きそびれたが、まさにアカリンダニの症状といわれるものに一致する。そのうちの5頭の体をそれぞれ切開して顕微鏡で調べてみた。探すまでもなく5頭すべての胸部の気管にアカリンダニがいた。ある蜜蜂の太い気管の内には、成虫や幼虫に加えて卵がぎっしり詰まったところもあった。

幾分かグロテスクだがメタボでちょっとユーモラスな感じのダニ成虫のお姿を、ワンショットでモノにした(写真はオス。スケールの最少の目盛は10ミクロンに相当)。なかなかのエイリアンぶりだ。その体長が1ミリの十分の一(100ミクロン)くらいだからいかにも小さい。これがミツバチの気管の中にもぐりこみ、体液を吸い取り、交尾までして、卵もそこに溜めるという。ミツバチにとっては超迷惑な「ミクロの侵略者」ということになる。ヒトでいえば肺炎を起こし呼吸困難になるようなもの。そうなると飛行運動も、また体温を上げる筋肉の激しい活動もできなくなる。冬にコロニーの絶滅が多いのは、呼吸が制限されて保温が出来ず、そのあげく凍死に到ると考えられている。

アカリンダニは外国から入ってきたとされているが、具体的には分かっていないらしい。最近の滋賀県でのミツバチ死滅の下手人はこのアカリンダニかもしれない。だが、農薬ネオニコチノイドに曝露したミツバチでは免疫機能が低下し、ダニやウイルスへの抵抗力が落ちるというイタリアでの実験結果が発表されており、その辺の解明も待たれる。(タイサク)


マキノの庭のミツバチ日記(13)

ほぐれ始めた蜂球

分蜂群にみごと逃げられた(その2)

3回目の分蜂の群れを何とかしてキャッチしようと、チャンス到来を待った。初回の分蜂から1週間近く経ったある日、朝から良い天気、気温も少しずつ上がって分蜂日和になってきたので、庭先にイスを出し監視を続けた。すると午後2時頃に、またも巣箱から蜂が湧き出して分蜂開始。飛び出した蜂たちは、当面の引っ越し資金として蜂蜜をそれぞれたっぷり持ち出している。蜂蜜は代謝で蜂たちのエネルギー源になるが、その一方、体内で巣の建築素材の蜜ロウなどにも作り変えられる。

巣箱から飛び出してきた働き蜂の一頭が、腹に蜂蜜を詰めすぎたのか、ヨタヨタ飛んできて私の肩にチョコンと止まって休んで行った。ミツバチ嬢に肩を貸してやったのはこれで何度目になるだろうか。分蜂開始から10分ほど後には、庭の松の木の高所に仮の宿り(蜂球)が作られ鎮まった。止まった枝まで10メートルほどの高さがあり、悔しいがちょっと手が出ない。

夕方近くになり、このまま木の上で一夜を過ごすのだろうかと見守っていたら、4時半頃に蜂球の外側が少しほぐれるようになり、次第に周りを飛び回るハチが増えた(写真)。蜂球は5分もしないうちに崩れて散り散りになりながらも、流れる霧のように移動し、近くの山の方に向かって飛び去った。ばらばらの無秩序のようでいながら全体としてみごとにまとまって素早く移動していった。あまりの手際よい集団行動に脱帽。虫ながら、たいしたものだ!

実は、前日あたりから、松の木の下に置いた待ち箱(分蜂群捕獲のための空の巣箱)への探索バチの訪問がしばしば目撃されていたので、ひょっとして群れがそこに入ってくれるかと淡い期待を抱いた。が、結局は空振りだった。探索バチが我が庭のこのとびきり上等の住宅物件(※「個人の感想です」)の査定に来たものの、元の巣に近すぎて「落選」となったのかもしれない。かなり期待していた客が冷やかしだと分かった時の不動産店主の気持ちをつい想像してしまった。

今春の分蜂捕獲作戦は1勝2敗の結果に終わった。しかし、冬越しした元の巣箱から出て行った蜂の群れの量を試みに概算してみると、総体積で10L(リットル)分くらい(そして女王3頭)にもなるだろう。逃がしたのは残念な気もするが、難関の冬を乗り越えて、このマキノの地に健康な群れを新たに送り出すことができたのだと思うと、気持も幾分か安らいだ。(タイサク)


マキノの庭のミツバチ日記(12)

作りかけの巣板

分蜂群にみごと逃げられた(その1)

2回目の分蜂のことは前回に書いたが、その分蜂の最中に、1回目の分蜂で捕まえて巣箱に収まっていた蜂群が、なにかの影響を受けたのか、巣門のあたりに数百頭の群れで出てきていた。この動きは一時的で、やがて落ち着いたように見えた。しかし翌日の朝から、その箱での蜂の出入りがおかしい。入口にスーッと入っていかないで、内側をうかがうようなそぶりが目立つようになり心配だった。

ついに出入りがごくわずかになったところで点検のために巣箱を開けたところ、蜂が一頭もいない空っぽの状態。ただ、箱の内側の天板の真ん中に、作りかけのきれいな巣板が1枚残されていた。それは小判のような楕円形で、上端は天板の中央に固定されそのまま下方に垂れ下がっていた。ちょっと見るとウエハースの菓子みたい。その素材の蜜ロウは働き蜂が自ら分泌しこねあげたものだろう。全体はシート状の美しいハニカム構造(六角形が連なった蜂の巣の作り)になっている(写真)。

そのそれぞれの小さな六角形の巣穴(蜂の子も入るので巣房という)の中に、プロペラのような三ツ星がのぞいている。これは、裏側に表と同じように作られたシートの六角形の一部(頂点付近)が透けて見えていることによる。つまりそれぞれの巣房は底部に三つ叉(Y 字型)の支えをもつ構造になっている。このように、幾何学的に精巧に、また力学的にも強度をもって作られているのには驚嘆させられる。蜂たちはたった3日でここまで作ったのだ。ところで、このパターンは、高級車メルセデス・ベンツのボディに輝くエンブレム(スリーポインテッドスター)を想い出させる(もっとも、エンブレムのほうは外周が六角形ではなくて円になっているが)。

確保したはずの分蜂群とのあっけない別れに呆然としてしまったが、気を取り直してこの精巧な「建築物」をカメラに納めた。もし逃げずに巣作りを続けてくれたなら、小判が団扇(ウチワ)くらいにまで大きくなり、また、両隣にも同じように巣板が重なって作られ、最後には10枚並びの立派な巣が出来ていたかもしれない。それをフォローできずに終わったのは残念。

しばらくはこの「逃去」のことが頭から離れなかった。いつの間に群れごと出たのだろうか。夜逃げしたというのも考えにくい。ひょっとしたら、前日に起きた2回目分蜂の騒ぎが刺激になり、便乗して出て行ったのかもしれない。双方の巣箱をごく近くに置いたのが失敗だったかも。(タイサク)


マキノの庭のミツバチ日記(11)

巣箱に収まった分蜂群

巣別れの蜂群をキャッチ(その2)

ふつう、分蜂(巣別れ)は1回で済むものではない。「巣別れ」あるいは「暖簾(のれん)分け」といっても、ミツバチの場合は、まず母親女王バチが約半数の働きバチと雄バチを従えて出ていき、娘女王バチが古巣を引き継ぐ。しかし、次の女王候補(次女)が揺りかごである王台から出てきそうになると、先に生まれた女王(長女)は、かなりの数の手勢を引き連れて巣から出ていく(第2分蜂)。巣箱の政権(?)は次女に移る。働きバチの数や貯蔵蜂蜜などに余裕があればさらに第3分蜂、第4分蜂と続くことがある。

最初の分蜂から3日後、晴れた日の朝11時に、元の巣箱で2回目の分蜂(第2分蜂)が始まった。蜂球がまたも隣の家の庭木に出来た。この前と同じ杏子だが、蜂球はすこし高いところにある。同じ木の少し離れた枝に2つの塊が出来たが、20分もしないうちに1つにまとまった。定住できる新住居が決まるまでは、偵察バチが集めた物件情報をもとに蜂球内で選定が進み、多数決みたいにして最適の候補地がしぼられるといわれる。その待機時間が2日というふうに長い時もあれば、30分程度のこともある。

琵琶湖の対岸の町にいるBee組ベテランたちにも電話で知らせたところ、捕獲に行ってもよいということになった。到着までに蜂が逃げはしないかとジリジリして気をもみながら待った。そのうち、1時間半ほどかけて必殺捕獲人(?)らが車で駆けつけてくれた。蜂球は少し高い枝に止まっていたので、脚立を使う作業を余儀なくされた。枝に憩う獲物は、程なく彼らの手におち、無事巣箱の中へ保護された(写真)。

その確保された蜂の群れは、巣箱ごと湖の向こうへ持ち帰ってもらった。もともと我が家の庭のニホンミツバチは、去年の初夏に湖の対岸の地から分与していただいたものであった。その地方では、聞くところによると、昨秋、ニホンミツバチ絶滅の悲劇に襲われたらしい。主な原因は寄生ダニによる感染の蔓延らしい。そういう事情があったので、この第2分蜂群は、元の地へ失地回復のフロンティアとしてお返しすることに前から決めていた。それでめでたく里帰りが実現することになった。(タイサク)


マキノの庭のミツバチ日記(10)

分蜂(1回目)

巣別れの蜂群をキャッチ(その1)

蜂飼いにとって悩ましい季節が今年もやってきた。庭のミツバチに春の分蜂(巣別れ)が起きるのは、いつも5月の始め、ゴールデンウイークの頃だったが、今年は1週間早かった。その日、朝にはまだ小雨が残ったが、午後2時過ぎに巣門(巣箱の入口)がにぎやかに。初めは、いつものように多数の若バチが巣の前で飛行訓練をする「時騒ぎ」かと思ったが、さらに蜂たちの動きが激しくなり、巣門付近に群れが凝集し、内側からも次々と押し出してくる。湧き出すと言った方がいいか。

私は、これぞ待望の分蜂の到来かとばかり、分蜂群の捕獲グッズ一式を引き出して準備をした。このグッズは、ワラ帽子に網をかけた「面布」というもの、厚手の手袋、白い長そでのシャツ、そして捕獲用に改造したポリごみ袋などからなる。

やがて空中に飛び出てくるものが数知れず。先駆けの蜂なのか、それぞれが勝手に「止まり木」を探すようにあちこち飛びまわる動きがまず見てとれた。それが群れ全体に波及したかのように広がって、裏庭と隣の庭をカバーする範囲に及んだ。ウヮーン、ワーン、とにぎやかな音もする。

同じ町の蜂飼い(Bee組とでも言っておこうか)の二人を助っ人として来てもらった。その間にも隣の家の庭木のあたりに蜂の密度が高くなり、そのうち杏子(あんず)の木に集合場を得たのか、人の肩の高さほどある枝の一部にコブができ、みるみる膨らむように見える。つい先ほどのカオスというか混沌とした状態から、今や一つの終着点に向かって群れが収束していくのがいかにも不思議なことに思える。集合フェロモンなどシグナルが発せられているのだろうか、あたりにうろつく蜂達も次第にこのコブに吸引されていき、やがて女王バチも鎮座したのか塊(蜂球という)は落ち着きを見せた(写真)。

お隣の家は留守だが待ち箱の一つを以前から置かしてもらっており、立ち入りも認めてもらっていたので、早速に捕獲作戦開始。Bee組二人がポリ袋に蜂の塊ごと落とし込み、持っていった空の巣箱に振り落してフタをした。夜になって、巣箱をそっと我が裏庭に移動させ、興奮の1日が終わった。(タイサク)


マキノの庭のミツバチ日記(9)

庭先にも「メリー・スプリング」

朝、巣箱入口で掃除中の働きバチを見ていると、蜜ロウでできた巣屑のかけらのほかに白い粒をたまに出すようになった。それぞれ1ミリ以下と小粒だが触ると 堅い。2週間ほど前からそれを目にするようになり気になっていた。この白い粒をピンセットで取り上げて顕微鏡で拡大して観察すると、表面がキラキラしていて一見すると石のかけらのように見える(写真)。いったいこれは何なのか。手っ取り早い化学検知器(つまりわが舌の先)で舐めてみたら「ブドウ糖」みたいな甘みが感じられ糖類のようだ。働きバチたちが外勤(ふつうは20日くらい)で稼いでくる花蜜の総量は、1頭あたり小サジ1杯分に満たない程のわずかな量だ。苦労して集めた貴重な甘い食料をなぜ出すのか、いぶかしく思った。

巣から排出された糖の粒(拡大)

思いをめぐらしているうちに、巣内に貯めておいた蜂蜜の一部が冬の低温にさらされて結晶化したのだろうという考えにたどり着いた。蜂蜜が含む主な糖類はショ糖、果糖、ブドウ糖だが、その中でブドウ糖は特に析出(結晶化)しやすい。たとえ結晶になってもミツバチの出す唾液でゆっくり溶かすことができるはず。だが、花蜜が十分に手に入るようになった今の時期、それは面倒で時間の無駄になることかもしれない。おそらく邪魔な屑ものにすぎないので排出しているのだろう。巣の中でハチたちは、花粉と蜜の大量貯蔵とこれからとても忙しくなる育児用の部屋を増築するため、リフォームの突貫工事にかかっているのかもしれない。

春を迎えて(巣門付近)

午後になり暖かくなる頃には、50頭ほどが巣の入口や近くではしゃぐような「時騒ぎ」をやっている(写真)。見るからにたどたどしい飛び方を見せるのは若バチの群れのようだ。しかしともかくも、この冬を巣箱の一家はよくぞ生き残って待望の春を迎えてくれた。おもわず「おめでとーさん・・・!」と言いたくなる。「沈黙の・・・」ではなくてブンブンと聞こえる「にぎやかな春」(メリー・スプリング)がいよいよ到来したのだ。(タイサク)
<連載してきたこの日記は、ハチ達の行動が活発になる巣別れの時期までしばらくお休みします。>


マキノの庭のミツバチ日記(8)

イラスト ハチ合わせ?

ミツバチ同士の鉢(はち)合わせ?

晴れた日の朝、働きバチが3頭ほど巣の入口で器用に巣屑を外へ出していた。羽を震わせ屑をとばす。不十分だと思ったのか、さらに近寄って後ろ向きになって風を起こし遠くに吹きやる。午後になって、気温が上がり14度を超えると、働きバチたちは今度は巣箱と餌場を頻繁に行きかい、空中にできた「見えない大通り」がラッシュ時みたいになってきた。

それを見て思い立ち、巣箱付近でのニホンミツバチの飛行速度をビデオ記録から割出してみた。すると概算で毎秒6メートル程度で飛ぶことが分かった。往きのハチと帰りのハチ同士が真っ向から鉢合わせしそうになると、お互いの接近する速度は足し算して毎秒12メートル(時速42キロ)ほどになる。これはすごいスピードだ。心配性の身としては、もし正面衝突でもしたら種々のセンサーの詰まったアンテナや複眼が傷つくのではと気になる。どうやって衝突を避けているのだろうか?仮に3メートル向こうに秒速12メートルの速度で接近してくるハチを認めたとして、衝突回避に羽の舵をいじる時間的余裕は4分の1秒(3÷12)、つまり0.25秒とわずか。この短い時間内に相手の位置確認と方向調整をしているとしたら、それはすごい能力だ。

暗闇を自由に飛びまわるコウモリは、超音波を発しソナーみたいにあたりを知ることができる能力を備えている。それを発見した米国のグリフィン博士によると、ごくたまにではあるが、コウモリ同士での正面衝突があるという。ソナーを備え高度の脳神経系をもっていても、空間記憶に頼るあまり油断から失敗するとのこと(グリフィン著、桑原万寿太郎訳『動物に心があるか?』)。

コウモリほどではないが、ミツバチにも頭の中に出来た「記憶の地図」を頼って飛行することがあると報告されている(プロナス誌2005年)。ということで、庭のミツバチの巣箱の横に座り込んで、衝突事故らしいものがないかと観察してみた。まだひどい混雑はないが、春が早く来すぎて寝ボケ眼で飛んでいるハチもいるかもしれないと憶測したからだ。しかしニアーミスすら目撃できなかった。ひとまず安心。

ミツバチは飛行能力だけでなく識別・記憶・学習など高いレベルの行動もやはり脳神経中枢によって支えられている。心配なことは、農薬のほか家庭用としても広く使われるようになったネオニコ系殺虫剤が、信じられないほど微量であってもミツバチの脳の神経機構に害作用を及ぼすことが分かってきたことである。死に至らないまでも、空間記憶を失い巣に戻れない働きバチ(ボケミツバチ?)が増えるとコロニーの消滅につながるとの研究報告もある。ミツバチは有史以前から人類との付き合いが深く、優れた能力をもつ友人ともいえる。そのミツバチが、人の所業のとばっちりで衰退しかねない現状は、私にはとても気がかりだ。(タイサク)


マキノの庭のミツバチ日記(7)

偏光板で空を見る

ミツバチ、空を見る

急に冷え込んだ夜の間に15センチほど雪が積もった。しかし翌日は一転して暖かくなり、早くも働きバチが花粉を運び込むのが見られた。だが、春の天気は変わりやすい。みるみる一群の雲が青空を端から食いつくしていく時もある。だが、働きバチはそれでも動じず仕事を続けていた。

ミツバチは、空に見える太陽の方向を基準にして方角を知ることができる。これは「太陽コンパス(羅針盤)」と言われるナビゲーションの一種だ。しかし、太陽が隠れている場合でも、また陽の落ちた後でも、青空が一部分でも見えれば、そこからくる光(偏光)の情報をもとに方角が分かる(「偏光コンパス」と言われることがある)。人の世界でも、この偏光を読み取る装置が航空機の方位探知用の補助装置として利用されている。

日本晴れのように雲一つない大空を見上げるのは気持ちが良いものだ。そんな時、私たちの目に見える空は青一色だが、ミツバチたち昆虫の多くはもっと複雑な空模様(偏光の模様)を熱心に読みとっている。その情報を読んで方角を知ることに生活が懸かっている動物には、ミツバチのような昆虫の他にタコ、魚に鳥など100種ほどがいる。残念ながら人間は偏光の世界を認知する点では落ちこぼれの部類に入る。ミツバチが見る壮大な天空模様はどのようなものか。想像をたくましくするよりほかはない。ただ、ある種のフイルム(偏光板という。写真の円盤)を通して見ることで、偏光のもつ角度情報を知ることはできる。

最近ではソーラーパネルの設置が盛んになり、マキノの私の家の近所にもあちらこちらに建てられている(写真)。この大きな光る建造物による環境変化は、ミツバチに何らかの影響を与えないだろうか?都会の巨大ビルには壁面が鏡のようになっているのがある。それほどピカピカではないにしても、手持ちの偏光板でパネル群を見てみると、やはりそこから空を映してしっかりと偏光が出ているのが分かる。ミツバチ達もこれにはちょっと当惑するのではないか。もしも彼女らにインタビューすることができたら、「紛らわしくなって大迷惑ですわ」とかいうのかもしれない。(タイサク)

マキノのソーラーパネル