マキノの庭のミツバチ日記(20)

空を掃く朝

朝、庭に出ると箒(ほうき)を持ち出して、地面を掃くのではなくて空を掃くことが日課になった。というのも、5月中頃からミツバチの群れが我が庭に住むようになったからである。勤勉な働きバチが朝の仕事に出かけようとするとき、まさにそのコース上に、見えないワナが仕掛けられている。クモの仕業だ。クモの糸については、極細であっても鋼鉄よりも強い(断面積あたりで耐える力を測ると)という実験がなされている。その見えない強力なワナが、木立や建物、物干しなどを利用して至るところの空間に仕掛けられている。ミツバチを保護する立場からするとさすがにこれはまずい。そこで、私の朝一番の仕事のひとつは箒で家の周りの空を掃きまくって、邪悪な意図を未然にくじくことだ(クモさん、ごめんサーイ!)。もう一つの仕事は、テレビの今日の天気予報をミツバチに代わって調べること。

先日、滅亡に至った巣箱の群れ(キンリョウヘン・グループと名付けておこう)のことを記した。だがその一方で活発に勢力を増しつつある一群れが身近にいることを無視するわけにはいかない。それはキンリョウヘン・グループがやって来る数日前のことだったが、琵琶湖対岸の地に住むBee仲間のIさんらが、ニホンミツバチ一群れの住む巣箱1個を、それまで蜂空白地だった我が家に持ち込んでくださった。その群れのルーツは山梨県から移入したものだそうだ。アカリンダニの寄生に強い群れで、手作りの巣箱(写真)もその地の技術導入がなされている、とIさんは言う。こうして、新手の一家が裏庭に住み着くことになった。

この巣箱は木製の重箱型2段組みで、正面下部の横板には高さ7ミリほどの入口(巣門)があり、この板全体は端を蝶番で止められており、扉のように開閉できるので、掃除や中の巣板の観察に便利である。横板中央には鉛筆が通りそうな大きさの丸い穴が開けられている。この穴の意味が不明(ファイバースコープ用?)だが、見ているとハチが結構楽しげにここを潜り抜けている。さらなる工夫として、巣箱の底板部分だけでも引き出して掃除できるようになっている。天井にはスノコ状の隔離板の上に樹脂の網が敷かれ、そこに紙にくるまれたメントール(ハッカ)の結晶が10グラムほど置かれている。これはアカリンダニを抑制するためのもの。一番上に板の蓋が置かれるが、そこにも一部に網が貼られ、通気がしやすいようになっている。小さな隠し窓が2段目の箱枠に取り付けられているので、内側の巣の様子をのぞき見ることができて便利だ。

巣箱が運び込まれたときは、分蜂群捕獲のときから20日経過しているということであったが、いまや巣板も大きく、先端が底に達しそうになり、もう1段の箱枠を入れて増設したのは最近のこと。ついでに台座も入れ替えた。一人では難しかったが、幸いにもミツバチまもり隊の隊長小織さんに手伝ってもらえた。新調のパーツはIさんがあらかじめ用意してくれていたので、取替え作業がスムーズに運んだ。ということで現在は3段の箱になっている。この一家はすごく活発で勢いよく増えているので、先が楽しみだ。(タイサク)


マキノの庭のミツバチ日記(19)

王国の落城

前に書いたように、キンリョウヘンを脇に置いた箱にミツバチが自発的に入ってくれて、大歓迎で受け入れたのは忘れもしない5月17日だった。だが、早くも2週間たたないうちに、不幸の影が訪れてきた。飛び方の妙な働きバチがいる。よく見るとKウイング(羽が4枚に開いてKの字に似た形)のものもいる。その内、巣箱の前に降りて徘徊するものが2、3頭。これはアカリンダニにやられたのかもしれないと思って焦る。2、3日前には見られなかった現象だ。急にこんなことになったのか。早速に徘徊バチを数頭捕まえ冷凍30分の後、顕微鏡で見ながら開胸検査。胸部左右に1対ある太さが約0.1ミリの気管の内にアカリンダニが潜んでいるのを見出した。調べたハチはどれもそんな有様だ。気管の中が汚れ黒ずんでおり産みつけられた卵までもあるので、年季の入った感染のようだ。

さらに巣箱の内の様子を見るため、前扉を開けて携帯を突っ込んで動画を撮影した。箱の隅に白く巣板が見える。ハチの数がかなり減っているように思えた。ダニを抑えるメントール(ハッカ)を入れておいたが遅すぎたかも。この一群が我が家に飛来する前、元の巣にいるときにすでにダニ感染が進んでいたのかもしれない。しかしそれでもまだ外勤から戻ってくるハチがいて、この群れは細々と命をつないでいるようである。

終末近い巣箱からよろめくように飛び出し空に向かう働きバチは、それでも力を振りしぼり仲間が待つ花蜜を求めて飛ぶつもりなのか。いや、本能に突き動かされながら行動しているだけなのか、などと巣箱のそばに立って想いをめぐらす。疲れ切った様子で帰ってきたハチにも、「よく戻ってきた。君の最後のフライトか。」と声をかけたくなり、過度の感情移入に気づいて苦笑してしまう。私も立派に(?)老人になってからは、能力(ちから)衰えたものへの共感をもち易くなった。

しかし、ついに王国の終わりを確認する時が来た。巣箱を開けると、80ほどのハチの死体と30ほどの頼りなげな働きバチを残し、王国は見る影もなかった。わずかに掌ほどの2枚の巣板が、栄華の名残をとどめていた(写真)。多数の巣房(巣を構成する六角形の小部屋、差し渡しが5ミリほど)に貯められていたはずの蜜は全て吸い出された跡がある。花粉は床に積もるように落とされていた。働き手が蜜を運べなくなり、多くの残留バチが餓死したのであろう。蜜を求めてか、巣房に頭を突っ込んだまま死んでいるハチもいた。8匹ほどの幼虫が巣房に残されているのも見てとれたが、女王の姿は確認できなかった。

さて、このように気落ちする悲劇的な結末だったが、ミツバチ日記はこれにて終わりということにはならない。次回は裏庭に居を構える別のミツバチ一家について、その動向に目を向けることに。(タイサク)


マキノの庭のミツバチ日記(18)

蘭の花(キンリョウヘン)がミツバチを呼んだ(その2)

(前号からつづく)
一夜が明けて、我が庭の箱へ来たミツバチ集団(写真はキンリョウヘンを取り去る前の巣箱)は、だいぶ落ち着いたように見える。働きバチが黄色の花粉を運び込むのが度々見られるようになったので、女王が産卵を開始したらしい。花蜜とちがってタンパク質を多く含む花粉は産卵のために欠くことのできない糧である。ということでまずは一安心。ところが、隣家Kさんの庭の巣箱では、残念なことに出入りが途絶え中は空っぽ。もともと小さな集団だったから本隊を追って逃げたのかもしれない。

マキノ町の内でニホンミツバチ飼育をやる人がほとんどいなくなっている。最近まで飼っていたがやめたという人もいる。タンポポ、菜の花、桜、ツツジと、季節の花の主役はどんどん変わり行く日々だが、ミツバチの姿を花の周辺に見出す機会がごくまれになった。花々だけが一面に咲き誇るのを目にしても、私には不気味な光景に思えてくることがある。しかし1、2か月前のことだが、10頭ほどのニホンミツバチが庭のビワやサクランボの花に来て花蜜を採っているのを目にしたことがあった。動き回るミツバチたちを見るのは本当に久々のこと。そのハチの帰る方向を見定めようと木の下に立ち尽くしたおかげで、彼女らはほぼ西の方向を目指して帰り、また逆にそちらから新手が来るのが分かった。これは勘みたいなものだが、近くの廃屋のある一帯が怪しげに思えた。実際、その家のそばに、こぼれ種から広がった貧しい菜の花畑の中に、ニホンミツバチを見かけることがあったから。近くに隠れ住むハチたちの群れから、分蜂(巣別れ)になってキンリョウヘン目当てで来てくれたのでは、と勝手な想像を広げた。

キンリョウヘンは小さな花をたくさんつける。その花の一つ一つは、犬があくびをして出した大きな舌のような唇弁が目立つ。花蜜はないが花外蜜腺(花以外のところで蜜が分泌される)をもつ。しかしミツバチはそれを利用できない。花粉は塊でハチの背中にくっつくのでこれもダメ。なんとも喰えない蘭だ!キンリョウヘンがハチをどのようにして集めるのだろうか。それにはどんな意味があるのだろうか?その点について詳しく書かれた本(*)があったのを思い出して読み直した。この分野の最先端を行く研究者によるスリリングで面白い記述と写真が満載されている。独創的な実験も読んでいて楽しい。キンリョウヘンは、集合フェロモンみたいな誘引作用を持つ2成分を出してハチを呼び寄せる戦略をとっているらしい。だが、その上を行く2刀流の使い手が、NHKの科学番組『ワイルドライフ』などで紹介されたハナカマキリ。このハンターは、花の形と色に似せた姿で昆虫を呼び寄せ捕食する。加えて、キンリョウヘンの花と同じ2成分を発散してミツバチを誘いこみ捕食するという。昆虫と花の間に繰り広げられる駆け引きの世界を知るにつけ、想像も及ばないような自然の巧妙さと奥深さをいまさらのように感じた。(タイサク)
(* 菅原道夫著『比較ミツバチ学 ニホンミツバチとセイヨウミツバチ』東海大学出版部)


マキノの庭のミツバチ日記 (17)

蘭の花(キンリョウヘン)がミツバチを呼んだ(その1)

5月らしい晴天。朝9時ごろ庭に出る。空(から)の巣箱の横に置いたキンリョウヘン(金稜辺)の鉢のあたりを、3頭ほどミツバチが飛びまわっているのに気付いた。キンリョウヘンの花は、ニホンミツバチをその匂いで呼び寄せ集合させることが知られている。来ているのは確かにニホンミツバチだ。何頭かは箱の中に入っていく。やがて居なくなったと思ったら、新たに飛来するハチもいる。この巣箱は昨年使わなくなり放置していたものだ。それを分蜂後の新居候補として検分に来ているのだろうか?じっと観察していると、南西の方向から来ているように見える。そんな状況が2時間ほど続いた。ひょっとしてここに居つくつもりかと期待をもった私は、蜜ろうを持ち出してハチが巣箱入口(巣門)を見つけやすいように入口付近に塗りつけてやった。午後1時頃になると飛来数が増え、15頭ほどが入口付近を興奮気味?に飛び回り、巣門に入ったり出たり。3時ころまでは出入りがあったものの、夕方近くには退去したのか巣門は静かになった。新居の決定はダンスによる多数決原理で決まるといわれているので、我が庭の箱は投票で敗れたのか?とその日はあきらめ気分になった。

翌朝、やっぱり気になって巣箱を見に行く。すると、居ないと思っていたミツバチ数頭が巣門あたりで動いているではないか。そして、午後2時半ころには数十の働きバチが巣の前で飛び交うにぎやかさになった。女王蜂が到着したのだろうか?ニホンミツバチが我が家の庭にやってきて自発的に巣箱に入るなんて、こんなことは初めてだ。その場では女王蜂を確認できなかったけれど、このまま居ついて欲しいと切に願いつつ、この貴重な瞬間を動画で撮りまくった。

この日の午後、さらに驚きが続いた。隣のK家の庭に置かせてもらっている巣箱を見回りに行くと、箱のそばに置いた鉢植えのキンリョウヘンの花房がたわわになるほどにニホンミツバチが集合しているではないか。「ミツバチ一家の集合写真(?)」を本などで見たことはあったが、実際にブドウの房のようになっているのを目のあたりにしたのは初めて(写真)。数は500くらいとひどく少ない。この塊はやがて巣箱の壁面に移動した。だが巣箱の門に行く気配がないのが妙に思えた。というのも、先ほど我が庭の箱に入った群れは、キンリョウヘンにも関心を示していたが、すぐ近くの巣箱の門にも臆した様子もなく偵察に入ったりしていたから。ガイドのために蜜ろうと蜂蜜を混ぜたものを巣門付近に塗りつけたところ、30分ほどしてそれに惹かれるものが現れ、陽が落ちるころには、ほとんどのハチが次々に巣箱の内に入っていった。今日のこのことで、改めてキンリョウヘンの威力に驚いた。また、めったに出会わない自然界の妙技に感動!(タイサク)


マキノの庭のミツバチ日記(16)

働きバチはよく眠る

昼間、花蜜や花粉を探して飛び回る働き者のミツバチは夜も寝ないという話をよく聞く。だが、働きバチについていえば、実は夜にはよく眠るらしい。あたりが暗くなると巣箱の出入りがなくなり、静かになる。のぞき窓から見ていると、たしかにじっとしているものが多いが、体を動かしたり、触角を動かしたりするものもいる。

ミツバチははたして眠るのだろうかと、いろんな人が研究をしてきた。ガラス張りの巣箱での暗視カメラ(赤外線を使い暗闇でも見える)による観察では、真夜中でも働いている蜂がいるそうだ。それは主に内勤をする若い蜂たちで、巣作りや外勤のミツバチが集めてきた花蜜の濃縮、室温維持、子育てなどにあたっている。

ところで、眠るのと休むのとを区別できるのだろうか。人の場合は、意識を無くした睡眠状態の脳を脳波計でもって調べることができる。睡眠状態には段階があるが、それは脳波のアルファ波の減少やデルタ波の出現の割合などで判定されている。ミツバチ(この場合はセイヨウミツバチ)を調べるのに脳波をとるのはむずかしいので、ミツバチの脳の視覚に関与する神経細胞にごく細い電極をあてて、神経の電気的活動状態をモニターした研究がある。それによると、夜が更けるにつれ神経の活動が弱まり、真夜中には最低のレベルに落ち着く。朝になると再び活動がしだいに盛んになる。

働きバチの首の筋肉にも針状の電極をあてて筋肉の活動をモニターする方法(筋電図法)もとられている。人の場合でも、オトガイ(あご)筋電図が睡眠の深さを見るのに使われている。ミツバチでも夜になるにつれ首の筋肉の緊張がゆるくなりやがてがっくりと頭を垂れるという(まるで人みたいだ!)。また、腹部も腹這い状態になり、触角の立て方も変わり次第にだらしなく垂れさがるとか。

若バチは熟年の蜂とは異なって、サーカジアンリズム(概日リズム、活動周期がほぼ24時間)がまだ確立していない。眠り方のちがう若バチと熟年バチでうまく役割分担しているのだろう。だから、昼間に大活躍して今や眠りこけている外勤姉さんたちにかわって、若バチたちが巣箱不夜城のなかで夜勤につく。むろん2、3時間ほど働いて疲れたら適当に短時間の休みをとる。

昨年の夏のことだが、夜12時を過ぎて私がそろそろ眠ろうかと思ったとき、窓ガラスに1頭のミツバチの訪問客があった。ジリジリと音をさせながら盛んに飛び回っていた。今頃なんだろう、えらく宵っ張りな蜂だと思って見たことが2、3日続けてあった。今思うに、あれは若手のミツバチが近くの巣箱からやってきたのかもしれない。そういえば飛び方もたどたどしかった。(タイサク)
<このミツバチ日記も、秋ごろまでしばらくスリープ(お休み)します>

眠る働きバチ(挿絵)


マキノの庭のミツバチ日記(15)

アカリンダニ対策~巣箱のモデルチェンジ、ついでに採蜜

日曜日の朝、琵琶湖の対岸に住むベテラン蜂飼いのIさんたち二人が来てくれた。少し前のことだが、寄生ダニのことが気になって我が庭の巣箱のミツバチを捕まえて顕微鏡で調べてみた。すると1頭の体の呼吸器(気管)に数匹のアカリンダニ(*)が寄生しているのが見つかった。近年、この寄生ダニが長野県や山梨県、当地滋賀県など各地でニホンミツバチの群れを次々と絶滅させ問題になっている。それで、何らかの手を打とうとこの二人に救援をお願いしていた。今日は、巣箱の天板と底部をアカリンダニ脅威に対応したニューモデルに取り換えることにした。木製のパーツはいずれもIさんの労作。

まず、重箱型巣箱の底部を取り換えた。新しい底部には蝶番(ちょうつがい)で扉がつけられ、そこを開けると巣くずなどを楽に掃除出来るし、手鏡を入れて下から巣の様子も観察出来る(写真1)。次に、今の重箱型巣箱4段を3段に切り詰めることにした。巣箱最上部には、網を張った「スノコ」の部屋が新たに加えられた(写真2)。ここに薄荷(メントール)の入った紙袋を置いて、上に天板をかぶせれば完成。メントールの臭いがダニをけん制してくれるといわれている。ただし、今のところ被害の兆候は出てないので、しばらくは様子を見るということにし、今回はその薬剤を入れるのは見送った。これでアカリンダニへの対応らしき準備が一応できたことになりちょっと安心した。

写真1、巣箱の新しい底部(写真1、巣箱の新しい底部)

写真2、巣箱の天井部にスノコを設置(写真2、巣箱の天井部にスノコを設置)

ついでに、取り去る1段分の箱枠から採蜜することになった。手順は、まず重箱最上段と次段の箱枠の隙間に釣り糸みたいな針金をさし入れて、反対側に引き切り、箱の中の蜜ロウで出来た巣の部分を輪切りにする。最上段の箱枠を取り出すと、内側には重なり合った巣板9枚のきれいな断面が見られた(写真3)。その面をみると蜂蜜の入り具合がよくわかる。空き部屋が目立つのは、少し前に3回も分蜂したばかりなので、貯蔵していた蜂蜜が働き蜂によって持ち出されたのかもしれない。

写真3、取り出した箱枠(写真3、取り出した箱枠)

蜂蜜の採取は、箱枠から巣板を切り出し、金ザルにリード紙を敷いたものの上に小片に割って置いておく(写真4)。巣板から蜂蜜が自然に少しずつリード紙で濾されて、下の容器にたまっていくのを待つという気長なやり方だ。この季節だと、1日半ぐらいで完了する。今回の蜂蜜は、粘性があった去年に比べ少しさらっとしている。滋賀県各地の巣箱の絶滅が伝えられる中、我が庭のミツバチたちは何とか冬を越し生き延びてくれた。そのミツバチたちがくれた貴重な蜂蜜は、一サジすくって口に含むと、ニホンミツバチ独特の心地よい香りと、酸味かかった強い甘みがしみじみと伝わってきた。(タイサク)

写真4、巣板を切り出して金ザルへ(写真4、巣板を切り出して金ザルへ)

 
* アカリンダニの写真は前号「マキノの庭のミツバチ日記(14)」に掲載


マキノの庭のミツバチ日記(14)

ミツバチ体内に見つかったアカリンダニ

ニホンミツバチの大敵アカリンダニ

滋賀県の各地で、寄生ダニによるとみられるニホンミツバチのコロニーの絶滅が去年から盛んに起きている。私の庭のミツバチの群れは元気そのもので異常は認められないが、念のため自分の手で調べてみることにした。

ネットにあった検査方法に従って計10頭を解剖し手持ちの顕微鏡で調べてみた。健康な蜂の気管は、空気がスムーズに通れるように内側に何もなく、らせん形のスプリングのような管状で、内部は透き通ったようにきれいに見える。検体9頭については、気管がきれいであり異様なものを発見できなかったが、残り1頭は気管の内側が黒ずんで汚く見え、ダニみたいなもの3匹が見つかった。やはり隠れていたのかと愕然とした。感染したハチがある程度巣箱に潜んでいる可能性があるので、警戒を強めることにした。

その後、同じ市内でニホンミツバチを飼っている方が、調べてほしいと10頭ほどミツバチを届けてきた。そこも少し前に分蜂が起こり新コロニーを得たと聞いていた。その巣箱の周りに点々と蜂の死骸が多数散乱し、生きているのはあたりを徘徊しているとのこと。翅(はね)がKの字の形をしているかどうかは聞きそびれたが、まさにアカリンダニの症状といわれるものに一致する。そのうちの5頭の体をそれぞれ切開して顕微鏡で調べてみた。探すまでもなく5頭すべての胸部の気管にアカリンダニがいた。ある蜜蜂の太い気管の内には、成虫や幼虫に加えて卵がぎっしり詰まったところもあった。

幾分かグロテスクだがメタボでちょっとユーモラスな感じのダニ成虫のお姿を、ワンショットでモノにした(写真はオス。スケールの最少の目盛は10ミクロンに相当)。なかなかのエイリアンぶりだ。その体長が1ミリの十分の一(100ミクロン)くらいだからいかにも小さい。これがミツバチの気管の中にもぐりこみ、体液を吸い取り、交尾までして、卵もそこに溜めるという。ミツバチにとっては超迷惑な「ミクロの侵略者」ということになる。ヒトでいえば肺炎を起こし呼吸困難になるようなもの。そうなると飛行運動も、また体温を上げる筋肉の激しい活動もできなくなる。冬にコロニーの絶滅が多いのは、呼吸が制限されて保温が出来ず、そのあげく凍死に到ると考えられている。

アカリンダニは外国から入ってきたとされているが、具体的には分かっていないらしい。最近の滋賀県でのミツバチ死滅の下手人はこのアカリンダニかもしれない。だが、農薬ネオニコチノイドに曝露したミツバチでは免疫機能が低下し、ダニやウイルスへの抵抗力が落ちるというイタリアでの実験結果が発表されており、その辺の解明も待たれる。(タイサク)


マキノの庭のミツバチ日記(13)

ほぐれ始めた蜂球

分蜂群にみごと逃げられた(その2)

3回目の分蜂の群れを何とかしてキャッチしようと、チャンス到来を待った。初回の分蜂から1週間近く経ったある日、朝から良い天気、気温も少しずつ上がって分蜂日和になってきたので、庭先にイスを出し監視を続けた。すると午後2時頃に、またも巣箱から蜂が湧き出して分蜂開始。飛び出した蜂たちは、当面の引っ越し資金として蜂蜜をそれぞれたっぷり持ち出している。蜂蜜は代謝で蜂たちのエネルギー源になるが、その一方、体内で巣の建築素材の蜜ロウなどにも作り変えられる。

巣箱から飛び出してきた働き蜂の一頭が、腹に蜂蜜を詰めすぎたのか、ヨタヨタ飛んできて私の肩にチョコンと止まって休んで行った。ミツバチ嬢に肩を貸してやったのはこれで何度目になるだろうか。分蜂開始から10分ほど後には、庭の松の木の高所に仮の宿り(蜂球)が作られ鎮まった。止まった枝まで10メートルほどの高さがあり、悔しいがちょっと手が出ない。

夕方近くになり、このまま木の上で一夜を過ごすのだろうかと見守っていたら、4時半頃に蜂球の外側が少しほぐれるようになり、次第に周りを飛び回るハチが増えた(写真)。蜂球は5分もしないうちに崩れて散り散りになりながらも、流れる霧のように移動し、近くの山の方に向かって飛び去った。ばらばらの無秩序のようでいながら全体としてみごとにまとまって素早く移動していった。あまりの手際よい集団行動に脱帽。虫ながら、たいしたものだ!

実は、前日あたりから、松の木の下に置いた待ち箱(分蜂群捕獲のための空の巣箱)への探索バチの訪問がしばしば目撃されていたので、ひょっとして群れがそこに入ってくれるかと淡い期待を抱いた。が、結局は空振りだった。探索バチが我が庭のこのとびきり上等の住宅物件(※「個人の感想です」)の査定に来たものの、元の巣に近すぎて「落選」となったのかもしれない。かなり期待していた客が冷やかしだと分かった時の不動産店主の気持ちをつい想像してしまった。

今春の分蜂捕獲作戦は1勝2敗の結果に終わった。しかし、冬越しした元の巣箱から出て行った蜂の群れの量を試みに概算してみると、総体積で10L(リットル)分くらい(そして女王3頭)にもなるだろう。逃がしたのは残念な気もするが、難関の冬を乗り越えて、このマキノの地に健康な群れを新たに送り出すことができたのだと思うと、気持も幾分か安らいだ。(タイサク)


マキノの庭のミツバチ日記(12)

作りかけの巣板

分蜂群にみごと逃げられた(その1)

2回目の分蜂のことは前回に書いたが、その分蜂の最中に、1回目の分蜂で捕まえて巣箱に収まっていた蜂群が、なにかの影響を受けたのか、巣門のあたりに数百頭の群れで出てきていた。この動きは一時的で、やがて落ち着いたように見えた。しかし翌日の朝から、その箱での蜂の出入りがおかしい。入口にスーッと入っていかないで、内側をうかがうようなそぶりが目立つようになり心配だった。

ついに出入りがごくわずかになったところで点検のために巣箱を開けたところ、蜂が一頭もいない空っぽの状態。ただ、箱の内側の天板の真ん中に、作りかけのきれいな巣板が1枚残されていた。それは小判のような楕円形で、上端は天板の中央に固定されそのまま下方に垂れ下がっていた。ちょっと見るとウエハースの菓子みたい。その素材の蜜ロウは働き蜂が自ら分泌しこねあげたものだろう。全体はシート状の美しいハニカム構造(六角形が連なった蜂の巣の作り)になっている(写真)。

そのそれぞれの小さな六角形の巣穴(蜂の子も入るので巣房という)の中に、プロペラのような三ツ星がのぞいている。これは、裏側に表と同じように作られたシートの六角形の一部(頂点付近)が透けて見えていることによる。つまりそれぞれの巣房は底部に三つ叉(Y 字型)の支えをもつ構造になっている。このように、幾何学的に精巧に、また力学的にも強度をもって作られているのには驚嘆させられる。蜂たちはたった3日でここまで作ったのだ。ところで、このパターンは、高級車メルセデス・ベンツのボディに輝くエンブレム(スリーポインテッドスター)を想い出させる(もっとも、エンブレムのほうは外周が六角形ではなくて円になっているが)。

確保したはずの分蜂群とのあっけない別れに呆然としてしまったが、気を取り直してこの精巧な「建築物」をカメラに納めた。もし逃げずに巣作りを続けてくれたなら、小判が団扇(ウチワ)くらいにまで大きくなり、また、両隣にも同じように巣板が重なって作られ、最後には10枚並びの立派な巣が出来ていたかもしれない。それをフォローできずに終わったのは残念。

しばらくはこの「逃去」のことが頭から離れなかった。いつの間に群れごと出たのだろうか。夜逃げしたというのも考えにくい。ひょっとしたら、前日に起きた2回目分蜂の騒ぎが刺激になり、便乗して出て行ったのかもしれない。双方の巣箱をごく近くに置いたのが失敗だったかも。(タイサク)


マキノの庭のミツバチ日記(11)

巣箱に収まった分蜂群

巣別れの蜂群をキャッチ(その2)

ふつう、分蜂(巣別れ)は1回で済むものではない。「巣別れ」あるいは「暖簾(のれん)分け」といっても、ミツバチの場合は、まず母親女王バチが約半数の働きバチと雄バチを従えて出ていき、娘女王バチが古巣を引き継ぐ。しかし、次の女王候補(次女)が揺りかごである王台から出てきそうになると、先に生まれた女王(長女)は、かなりの数の手勢を引き連れて巣から出ていく(第2分蜂)。巣箱の政権(?)は次女に移る。働きバチの数や貯蔵蜂蜜などに余裕があればさらに第3分蜂、第4分蜂と続くことがある。

最初の分蜂から3日後、晴れた日の朝11時に、元の巣箱で2回目の分蜂(第2分蜂)が始まった。蜂球がまたも隣の家の庭木に出来た。この前と同じ杏子だが、蜂球はすこし高いところにある。同じ木の少し離れた枝に2つの塊が出来たが、20分もしないうちに1つにまとまった。定住できる新住居が決まるまでは、偵察バチが集めた物件情報をもとに蜂球内で選定が進み、多数決みたいにして最適の候補地がしぼられるといわれる。その待機時間が2日というふうに長い時もあれば、30分程度のこともある。

琵琶湖の対岸の町にいるBee組ベテランたちにも電話で知らせたところ、捕獲に行ってもよいということになった。到着までに蜂が逃げはしないかとジリジリして気をもみながら待った。そのうち、1時間半ほどかけて必殺捕獲人(?)らが車で駆けつけてくれた。蜂球は少し高い枝に止まっていたので、脚立を使う作業を余儀なくされた。枝に憩う獲物は、程なく彼らの手におち、無事巣箱の中へ保護された(写真)。

その確保された蜂の群れは、巣箱ごと湖の向こうへ持ち帰ってもらった。もともと我が家の庭のニホンミツバチは、去年の初夏に湖の対岸の地から分与していただいたものであった。その地方では、聞くところによると、昨秋、ニホンミツバチ絶滅の悲劇に襲われたらしい。主な原因は寄生ダニによる感染の蔓延らしい。そういう事情があったので、この第2分蜂群は、元の地へ失地回復のフロンティアとしてお返しすることに前から決めていた。それでめでたく里帰りが実現することになった。(タイサク)