マキノの庭のミツバチ日記(90)

ミツバチと蚊と炭酸ガス

時には雨に中断されながらもこのところ好天が続き、庭のミツバチの巣箱はどれも働きバチが活発な動きを見せるようになった。一時は出入りが少なく、花粉の運び入れも稀になっていたある巣箱では、女王バチの不調かと心配したのだが、ここも活気づいてきて、戻って来る働きバチのどれもが次々花粉を運ぶ有様に、安堵の胸をなでおろした。

しかし真夏が近づくと毎年同じ悩みが生じる。庭のミツバチの巣箱を見回りに行く度に、待ちかまえた蚊(カ)の群れに刺されて逃げ返る有様だ。それで、庭に出る時にはハッカ油を身にスプレーすることにした。

カもハイテク満載?といわれるほどいろんな機能をもつ。超音波を出して人の血管の位置を探索し、ついで口針から麻酔液と血液凝固を防ぐものを密かに注入して気づかれないうちに吸血する。カは人の汗の中の乳酸などに反応し複雑な臭いをかぎ分ける。炭酸ガスにもいたって敏感。触角(アンテナ)の化学感覚器で炭酸ガスを感じ取り、人を探して吸血する。また最近の研究では、ある種のカは危うく人から叩かれそうになったとき、その人の固有の体臭を覚えることができ、次にはその人を避けるという実験報告(Current Biology 誌 2018 年)もある。ミツバチに比べて5分の1以下の小さな脳を持つのであるが、そのような学習もできるなかなかの曲者だ。

分類学上ではカはハエ目でミツバチがハチ目に属し、比較的近い位置にありながら社会性などで生き方が違う両者だが、学習能力、高い感覚機能と素早い運動機能などいくらか共通点もある。炭酸ガスを高感度で感じる能力はミツバチの触角にもあって、重要な働きをする。しかしミツバチの場合は、カの場合のような獲物探しのために用いるのではない。ミツバチの巣は、木の洞(うろ)のような狭い空間に大勢がひしめき合うので(飼育巣箱も同じ)、呼吸する上でミツバチ自身が巣内の炭酸ガス濃度をモニターするのは絶対必要だ。人もそうだがミツバチも空中の炭酸ガスがある高い濃度を超えると気絶してしまう。だが、その恐れのありそうな時、ミツバチは大勢を動員し羽を振るって巣内の換気をする。

生物実験などで昆虫を一時的に麻酔する際にも炭酸ガスはよく使われる。写真1 は私の手作りの麻酔器で、ビールを泡立てるのに使う小型のソーダサイホン(右手のサーバー)を利用したもの。捕虫網で捕らえたハチなどに網の上からカップ (左手にある)をかぶせ炭酸ガスをチューブから導き入れて手早く麻酔できる。

昆虫は本当に臭いや炭酸ガスをどの程度感知できるのだろうか。それを知ることのできる簡単な装置が私の隠居部屋にも 1 セットある(写真2)。その測定器で得られたニホンミツバチでの炭酸ガス感受の記録図(触角電位図、EAG ともいう) の一例を写真3に示した。この場合は2ml の炭酸ガスをチューブを通じて触角に吹きかけて、そこの神経に生じる下向きの一過性の電圧変化(電気信号)を記録している。触角に向かってちょっと息を吹きかけただけでも応答が出るほどの敏感さだ。

なお、臭い応答検出セットは比較的簡単なものだが、分蜂群キャッチによく使われる誘引剤やフェロモン類似物質などへの応答も測定できる。ミツバチの能力を探るというこうした楽しみ方もある。(尼川タイサク)

マキノの庭のミツバチ日記(89)

流蜜の初夏のころ

5 月から 6 月にかけての当地マキノ(高島市)は、私が一年の内で最も気に入っている。お天気が続いて湖水は温み、水田には稲の青苗がきれいに並び、その間を浸す水は青空を映しだす水鏡となる。あたりははじけたような新緑に染まり、様々の花が咲き乱れる。この時期、花が豊かに蜜を出すいわゆる流蜜(りゅうみつ)の時を迎えて、巣箱のミツバチたちは元気に採蜜に動く。

ミツバチの運んでくる花蜜や花粉がどのあたりのどんな花から採ってきたものか、日ごろ気になっていた。それで、庭や近くの植え込み、あるいはよく行く散歩道などに蜜源となる花がないか探す癖がついている。この時期では、ミツバチが実際に来て花から採餌しているのを見かけたのは、アザミ、ノバラ、クローバー(シロツメクサ)、イモカタバミ、そしてタンポポに似ているが背の高いブタナ(フランス語の「ブタのサラダ」の直訳とか?これも侵入外来種)などである。

庭のクローバーの花畑の中に、熱心に採蜜中の数頭のニホンミツバチに出会った (写真1)。花は、一本の花の柄(花梗)の上に数十個の白い小花が集まって毬状になっている。これに昆虫が来て受粉が起こると、小花は周辺部から順次下方に向きを変えて垂れ下がっていき、その部分は薄茶色にあせた装いに変わる。写真 1では、ミツバチの斜め下方に小花が半分近く垂れ下がって薄茶色になっているのが見える(ハチの右手の花などもそうなっている)。おかげでハチにとっても吸蜜すべき花が区別しやすくなっている。このような受粉による花の変化は他にも知られている。ニホンミツバチの分蜂群を捕獲するのに使われるキンリョウヘンも、受粉後に花の一部が赤色を帯び、誘引物質の分泌量も大幅に減ることが菅原博士(神戸大)により報告されている。

クローバーの花は潤沢に花蜜を分泌するのでミツバチにとっては良い蜜源であり、一方、ミツバチは受粉を手際よくやってくれるので、クローバーにとっても良い客である。まさに持ちつ持たれつの良い共生関係だ。このクローバーの群は妻 Y が巣箱に近い草むらにタネを播いてハチの手助けするつもりだったようだが、花が咲いてもなかなかやってこなくてヤキモキしていた。この度やっと来てもらえて Y も安心したようだ。

今、どこにでも華やかに咲き出ているのはノバラだ。おや、ここにも居たのかと思うほど頻繁に目につく。その発する臭いも芳しい。隣家の庭にも丈の高いノバラの木の茂みがある。我が庭のニホンミツバチの群もその中に飛び込んで一仕事をしては、意気揚々として自分の巣箱に戻っていく。

見ていると、大から小までの様々の訪花昆虫がノバラの茂みに集って入り乱れている。わずか体長 5 ミリほどのアブがホバリングしながら花の品定めをし、ミツバチは時間を惜しむようにせかせかと飛びまわっては、次々に花蜜を集め花粉を大事そうに両脇に抱え込む(写真2)。大型のハチであるマルハナバチやクマバチは、威圧するようなブンブン音でもって周りの小ぶりのハチたちを追い払っては独り占めを狙う。甲虫のハナムグリなどが花弁に取り付いているのもよく見かける。悪質と思えるのはコガネムシだ。葉や花弁をバリバリと噛み切りすごい勢いで食い荒らす。もっと行儀よくできないものだろうか。(尼川タイサク)

マキノの庭のミツバチ日記(88)

ニホンミツバチの蜜搾り

先々週はセイヨウミツバチの蜂蜜搾りに見学に行ったが、今日は自分のところのニホンミツバチの巣箱を開けて蜜絞りを実行することに。朝は 7 時決行を決めていたので、いつもより早く目覚める。気のせいか脈が早く血圧も高めになっている。やはり気持ちが躍動してくるのか。

ちょうど、娘が休暇で家に帰ってきているので写真係をしてもらった。ひどい虫嫌いだったが彼女もこれで立ち合いは3度目。ミツバチ(だけ?)は大丈夫、となった。私と妻は、長袖、ズボン、面布にゴム手袋を着用し、ハッカ油の噴霧液も手足に軽く付けておくなど、万全の防御態勢をとった。ミツバチが活躍する前に「朝飯前」でやり終えることを目標にする。準備と手順のシミュレーションは前日にほぼ終えていた。最近、蜜搾りをしたハチ友から、ハチを怒らせ激しい反撃に会い刺されたなどの話を聞いていたので、少し臆病な気分になっていた。

いざ始めると、箱枠を抑えている木ネジがドライバーでうまく回らない。無理をするとネジの皿がつぶれてしまい取り外せなくなるので、ちょっと焦った。なんとかそれを乗り越え、天板を外す段になってスパーテルが手元にないことに気付いた。でも前回までのようなうろたえた結果での怒号(?)の応酬はなく、箱開けはスムーズにいった。箱枠と次の箱枠の隙間に細い金属ワイヤーを通して水平に引き切ることで、無事に最上部にある箱枠(中に巣板が詰まる)を切り離すことが出来た。この間、巣箱の住人(住虫)たちの羽音はすごかったが、思ったほど攻撃的ではなく、じきに落ち着いてくれた。この巣箱の元の飼い主からは気が荒いと聞いていたのでやや拍子抜け。一番上の箱枠を外して手に持ってみると結構重い(写真1)。

この箱枠の内の巣板と巣板の隙間に、まだ少しばかり働きバチが残っていた。この居残り組を追い出して、取り出した箱枠を運び出し、蜜を含んだ巣板を切り出す作業に入る(写真2)。そうして得た巣板を小片に割ってリード紙を敷いた金ザルに入れ、下に置いたホウロウ桶に蜜が垂れてくるのを待つのはいつものやり方で、遠心分離機は使わない。白い蜜ブタがかかった濃い貯蔵蜜のあるところは、あらかじめ刃物で覆いをはぎ取っておかねばならない(写真3)。

トロトロの蜂蜜で潤んだ巣板のひとかけらをつまんで口に含んでみた。これぞニホンミツバチの蜜だ!と、思わず表情が緩む。味でもセイヨウミツバチのものとは違う独特の味覚が湧く。芳醇にしてさわやかな美味が口内に広がる。初夏に入ったこの時期に採った蜂蜜は香りよくさらっとした味だ。秋になると蜜もさらに濃厚になるが、嫌いなのはソバの花が咲くころの蜜。人により好き嫌いがあるが臭いになじめないものを感じる。クリの花からのものも同じくゴメンだ。ただ、物の本によると、ソバの花に由来する蜂蜜は抗酸化作用が強いので愛飲する人も多いとのこと。去年の秋に採った蜂蜜は、セイタカアワダチソウに由来の臭いがあり困惑したのだった。

有名な歌人の若山牧水は宮崎県日向市(現在)の出身。彼の短歌に「焼酎に蜂蜜を混ずればうまい酒となる、酒となる、春の外光」というのがある。とても上手な歌とは(素人の私には)思えないが、彼の出身地にかつて住んだことのある者としては、この歌はちょっと気になる。この飲み方、真似してみようかナ。(尼川タイサク)

マキノの庭のミツバチ日記(87)

ミツバチの結婚飛行(あるいは婚活?)

この春、我が庭で捕らえたニホンミツバチ分蜂群は「養子」に出した。引き取っていただいた小織さんから、最近のコロニーの様子のレポートがきた。そこには、巣門を出ていく女王バチをたまたま見かけたとある。すぐに戻ってきたがこれは結婚飛行なのだろうかと尋ねられた。私は見たことがないので答えられなかった。

そこでミツバチのことを少し調べてみた。ミツバチの巣の中では、適齢の娘女王バチと雄バチがいても互いに無関心で、同じ親女王から生まれた兄妹(あるいは姉弟)同士の近親結婚は避けられている。羽化した女王バチは、普通は 1 週間以内に結婚飛行に出るといわれる。飛行時間はまちまちだが、数分から 1 時間くらい。ミツバチ「婚活会場」は、あちこちの巣から出てきた雄バチの群が集まる木立のある所など。この辺で言えば神社の森などであろうか。我がハチ友の井上さんは、辛抱強い観察の結果、ニホンミツバチの結婚飛行の貴重な動画や写真をモノにしている(写真は結婚飛行から戻ってきた女王バチ。井上さん提供)。

交尾には高速で飛ぶことが絶対必要。飛行時の風圧により雄のペニスが体外に出されセットされるということを書いている本もある。高速で飛ぶ女王は女王物質を振りまき、これが性フェロモンとして雄を惹きつけ興奮させ追尾させる。レースの勝者の雄は空中で雌を捕らえ交尾に至る。この時、雄の交尾器がはじけて精子が送り出されるとともに、雄は恍惚の内に(であってほしい?)一生を終える。

交尾後にはオスの交尾器の一部が栓のように女王の尾部に残る(写真では、何らかの理由で落ちたのかもしれない)。さらに他の雄が割り込んできてそれを外し自分のを着ける。そのようにして通常は 10 頭前後の雄と交尾する。父親の異なる大量の精子を確保することで、遺伝子の多様性を維持するとともに近親結婚の確率を低める意味があるそうだ。女王の体の貯精のう(精子を貯める袋)での収量が足りなければ翌日も出撃する。多量の精子は女王の一生(2、3 年)の間に体内で保存され適宜使われる。ミツバチの場合、婚活と言うよりも、近ごろ世間で耳にする「妊活」と言う語が近いかも。女王バチにとっては、精子をいただけば雄は不要の存在となる。

この時期には小鳥特にツバメなどの敵が待ち構えていることも。ふつうは護衛の働きバチたちが女王に付いて行くので無防備ではない。だがもし捕食されるとコロニーは存続の危機に陥る。だが、逆にツバメが護衛のハチ部隊に追いまわされるのを見たと井上さんは話してくれた。目や耳に多数の刺針を撃ち込まれたツバメの死体があったという記述もある。

庭の巣箱から結婚飛行に出るミツバチ新米女王のことを思うたびに、ちゃんとお婿さんに出会えますようにとつぶやいたりする。というのも、近年、ミツバチコロニー数の激減が心配される現実があるから。この結婚飛行という独特の行動(といってもアリや白アリにもあるらしいが)は、もちろんミツバチが社会性昆虫の特質をもって生きていく上で必要不可欠なシステムである。ミツバチは昔から、おそらくは何百万年あるいは何千万年以上も前から、毎年これを着実に繰り返してきたのだろう。だが、人類が招き寄せた環境の悪化がこのシステムにも及び、ミツバチの絶滅に導くことがあっては申し訳ないことである。(尼川タイサク)

マキノの庭のミツバチ日記(86)

セイヨウミツバチの蜜搾り(しぼり)を見学

高島市南部の N さんのお宅は、古くからある集落の一角に建つお屋敷。その庭はセイヨウミツバチの巣箱が 3 台ほど置かれている。N さんはミツバチまもり隊の会員でもある。すぐ脇の空き地にはレンゲやタイムの小花が咲き乱れてミツバチを呼び込んでいる。今日は、そこで飼われている巣箱のうち一つで蜜搾りをするので来ませんかと誘われて、お邪魔することになった。私の他にも N さんの友人夫婦一組が招待されていた。私はセイヨウミツバチの蜜搾りは初体験ではないが、もう 50 年以上前のことなのでほぼ仕方を忘れている。それに、私が扱ってきたニホンミツバチとどう違うかということも興味があった。

巣箱は上下 2 段に積まれていて、その内側には巣板が 8 枚並べて収められている。巣板は木の枠に囲まれた板状の蜜ロウからなり、その両面に六角形の小部屋(巣房)が無数に穿(うが)たれている。この時期、蜜は主に上の箱に貯まるようになっている。今日は天気が良いのでハチもご機嫌良いとか。巣箱の上ブタを開けて巣板を取り出しても、くん煙器からの煙のせいもあってか、あまり騒がないでいる(写真1)。巣板表面に群がって張り付いているハチを振り落とし、まだ残ったハチは刷毛で払い落す。

その巣板 1 枚を持ち上げると、それぞれの巣房にびっしりと蜂蜜が入り結構重たいものもある。 十分に濃縮出来た蜂蜜の巣房は、その表面を「蜜ブタ」と言う薄いフタで覆われ封入されている。この巣板を作業場に運び出して、それぞれの巣板から蜜ブタをナイフで薄く剥ぎ取る作業に入った(写真2)。私も途中から任されたが、N さんほどうまくはいかない。失敗しながらもなんとか続けた。

蜜を取り出すのに必要なのが分離作業。ドラム缶の中に回転軸を入れたようなものが遠心分離機だ(写真3)。次のステップは、その回転軸に巣板を取り付けてハンドルを使って回転させ、遠心力で蜂蜜だけを槽の内壁に飛ばして集める作業になった。手回しでその回転速度を適度に保つのが難しいとのこと。遠心力が強すぎると巣板を破ってしまう。

最後に、遠心機の底から突き出た蛇口から、琥珀(こはく)色の液体がドロリと出てきた。巣くずなどは金網の目の粗いのと細かいものの 2 段階でふるい分けられ、非常に濃くてきれいに澄んだ蜂蜜が最後に得られる。スプーンを突っ込んで回すと粘りついてくるような純粋の濃い蜂蜜だ。採れる蜜の量がニホンミツバチより何倍もあるような印象。

ニホンミツバチの蜜搾りの場合は巣板自体がもろいので、巣板をいくらか砕いてザルに入れリード紙で漉(こ)して蜜を垂れ流しさせボウルなどに集めるだけ。簡単だが気温が低いと時間がかかる場合もある。

嬉しいことには、ビンに入れた貴重な搾りたて蜂蜜をお土産にいただいた。試しに指先ですくって舐めると、レンゲだろうか花の匂いがする。濃い舌触りが素晴らしい。今日は大変良い体験ができた。(尼川タイサク)

マキノの庭のミツバチ日記(85)

キンリョウヘン式トラップの威力を目の当たりに

庭でビワの木の実に袋掛けをしていたとき、傍らの妻 Y が、ブーンという羽音を聞いたように思うという。そこで、捕獲用トラップ(分蜂、つまり「のれん分け」、で元の巣を出てきたハチの群れを誘い込むためのもの)が置いてある庭先に急いだ。すると、トラップ内のキンリョウヘン(蘭の一種)の花に黒々と何か集っているように見えた。どこからか飛来したニホンミツバチの分蜂群が来ていたのだ (写真1)。はやる心を抑えてハチの塊を観察。女王バチを探しているうち、幸運にもせかせかと忙しそうに動き回る女王バチの姿を確認できた。働きバチより少し大きく腹部が黒くて長いので探し出しやすい(写真2、白矢印)。

この連中が蘭の花にいつまでも留まっていては困るので、蘭全体を軽く叩いて振動を与え続けると、ハチは少しずつ上方に移動していき、上に置いた巣箱の中に入っていった。ハチがほとんどいなくなった蘭は植木鉢ごと取り去って、巣箱をトラップの三脚から取り外し、持ってきた巣箱台座(基台)を箱の底に据えて、首尾よく群れをキャッチ。

ハチ友の井上さんから前にもらっていた新作の仕掛け(トラップ)であった(ミツバチ日記 83 記載)が、その鮮やかな分蜂群捕獲の様を目の当たりにして、あらためて驚かされた。分蜂で巣立ったニホンミツバチをその特有の香りで惹きつけるというキンリョウヘンの鉢の上に、待ち箱(底板をはずしている)を置いていたのだった。

今回捕らえた家族集団(コロニー)は個体数がちょっと見た感じではそう多くない。ミツバチの分蜂では、まず母親女王が巣の働きバチの約半数(プラスいくらかの雄バチ)を連れて出て行く第一分蜂が起き、ついで娘女王で長女が残りの半数、さらに分蜂が続くと次女・・・といった具合に、次第にお供の手勢が少なくなる。この群れも恐らくは第二ないし第三分蜂などであろう。

実は、前の日にもちょっとしたハチの騒ぎがあった。例のトラップの蘭の花のあたりに、止まったり激しく飛び回ったりする 10 頭ほどのニホンミツバチを目撃した。一方で、あたりを興奮したようにでたらめに飛ぶハチが数頭。これは分蜂群が来る前の先遣隊みたいなものかと大いに喜び、本隊の到着を期待した。だが、その騒乱は 40 分もするうちに収まり、誰もいなくなった。肩透かしというか「ぬか喜び」に終わって、残念な気分が少し残っていたが、また来るかもという淡い期待はあった。それが、翌日に来たのだった。先遣隊が巣にもどって報告し、今日になって審議の結論が出て、後は迷わずに皆で「粛々と」やってきた、と言うのは少し出来すぎた話かもしれないけど。

妻から日ごろ「ミツバチ溺愛(できあい)隊」と揶揄(やゆ)される私だったので、ミツバチが越冬に失敗して庭にいなくなってからは落ち込んでいた。それが、有難いことに先月に井上さんが琵琶湖対岸からわざわざニホンミツバチのコロニーの入った巣箱を届けて下さった。おかげで、「空の巣症候群」(これが本当の?) は解消していたが、分蜂群を捕まえたいという欲求は消えていなかった。

今回捕獲できたコロニーは、同じく「空の巣症候群」みたいだった小織さん(ミツバチまもり隊)に譲ることにした。小ぶりの集団なので先行きがちょっと心配だが、女王は活発そうなので何とかやっていけるだろう。(尼川タイサク)

マキノの庭のミツバチ日記(84)

ボーイスカウトたちの来訪でワークショップ

地域のボーイスカウトからミツバチまもり隊へ、ミツバチの見学を含むイベントをしてみたいと依頼があった。実は、私のところでは少し前に飼っていたミツバチが絶滅していたが、日記に哀れっぽく経過を書いていたせいか、あるハチ友の方からニホンミツバチ一箱を貸与して下さったばかりのところだった。そこで、まもり隊隊長の小織さんと相談し実施に踏み切ることにした。

下見に来られた指導員の方との打ち合わせを行った 1 週間後の当日、小学 3 年生か少し上くらいだろうか、女子 1 名を含む 7 名のボーイスカウト(カブスカウト) がやってきた。まず 1 列に並んできちんと挨拶をするのには驚いた。指導員の方 3 名が付きっきりなのでこちらは比較的安心。

我が家の裏庭に集まってもらい、始めにミツバチについての一般的注意と行動の特徴を簡単に説明。ついで実地で巣箱の構造の説明(写真1)。そこで「入口はどこ?」という質問が出るとは思わなかった。箱正面の幅 7 ミリ程度の隙間を示す。「ハチがなぜ箱に入って来るの」と、他の子どもからもよい質問。今の時期はハチ家族の数が増え、巣が狭くなり巣別れが起こりやすく、引っ越し先として狭い空間が好まれることを話す。

実際に行き来するハチを見て子供らは驚いた風。巣箱の内側の群れの様子も覗いてもらった。野山が近いこの辺の子供であってもミツバチを見る機会があまりないのか。ハチを見て「かわいー!」との声がでた。昆虫に親しんで欲しいと願って企画した者にとっては嬉しい反応。雄バチを捕まえて雄の尾部には針がないことを示す。ハチの門番が人気を集めた。

一通り巣箱での観察を終えると、皆でクイズと紙芝居(動画**)の鑑賞。小織さんがうまくリードする(写真2)。クイズは子供たちに好評で、質問も次々に出て盛り上がった。ハチの病気についての質問のところでは、農薬や寄生ダニの話に及んだ。紙芝居はちょうどその農薬を扱ったもの。既に見たという子もいたが、皆で最後まで静かに見入っていた。蜂蜜(地元で販売されている既製品)も味見程度だったがそれぞれにサジを配ってなめてもらった。

最後に、蜜ロウでキャンドルを作る実技に移る。携帯ガスコンロに鍋をかざして蜜ロウのブロックを溶かして、液状になったらガラスのカップに流し込む。そして芯を真中に据えて、冷えれば出来上がり(写真3)。

風もなくさわやかな晴天に恵まれ、予定した行事は無事に終了。こちらも思わず微笑んでしまうような可愛らしい仕草の元気な子供たちと、楽しいひと時をもつことができた。彼らがここで作って持ち帰ったキャンドルは、それぞれのご家庭でどのような灯影(ほかげ)を演出してくれるのだろうか。その感想も聞きたいところだ。(尼川タイサク)

(動画**)
紙芝居『こころにたねを』
文・絵 楠秋生
https://youtu.be/BsysauOVkr8

マキノの庭のミツバチ日記(83)

「待ち箱」を置いて一から始める

前回の日記にも書いたが、庭の巣箱中のニホンミツバチたちは、ほんのひと塊が巣板の間に見える程度の小勢に落ちてしまっていた。この様子だとそのうちに消滅は必至。コロニーが大きくなり分蜂(巣別れ)に向かって期待が高まる時期だが、今年は裏目に出た。

4 月に入っても、季節外れの感じがする雪やアラレが降る日があり、気温が摂氏零度近くまで下がった。ミツバチも小勢では体温を保つのが難しい。この寒さではとても生きてはいないだろうと思っていたら、寒風によろめきながらも外から帰って来る働きバチが 2、3 頭いた。その健気な生き残りのハチたちは仲間のために花蜜を持ち帰っているのであろう。自分一人で蜜を飲んでそのままどこかに姿をくらますようなことはしない。蜜は群れの仲間で分け合うし餓死するときは平等に死ぬ。

4月上旬も過ぎるころ巣箱の出入りがほとんど見られなくなった。私もさすがにこのコロニーを見限ることにし、重箱型巣箱の各段を切り離し解体して中を調べることにした。蜂蜜はほとんどなく蜂児もいない。50 頭ほどの働きバチが箱の隅に固まっているのみ。女王バチを欠いたいわゆる「無王群」だ。3 月初め頃はまだハチ数が十分あったように見えたのだが、次世代を産みだすことがうまくいかなかったようだ。この1群は冬越しに失敗していたことになる。

この巣箱の群の履歴を思い出してみると、たしかにいろいろあった。昨秋の台風襲来時には群れ全体で逃げ出すそぶりを見せていたのを、スプレーで水をかけて脱出を阻止したのだった。その後も、若バチの発達の遅れを気にするなど何かと心配させられた「問題児」であった。

コロニーとしての生命を終えた巣の生き残りのハチはもはや生きものではないなどと言う人もいる。けれども、彼女ら働きバチの健気な振る舞いを目にしてきた私としては、このまま箱をつぶして生き残りを飛散させるのも忍びない。一旦は箱を元のように置いておくことも考えたが、結局は低温麻酔で勇士たちを安楽死させることを選んだ。

だが、分蜂の起きるこの春の盛りに何もしない法はない。気を取り直して、数個の「待ち箱」(分蜂群を誘い入れるための空の巣箱)や分蜂群捕獲の仕掛け(トラ ップ)を庭のあちらこちらに置くことにした。待ち箱の内面には蜜ロウと蜂蜜が塗ってある。ハチ友の井上さんからもらった新作の仕掛け(トラップ)2組を庭に置くことにした(写真1)。分蜂で巣立ったニホンミツバチをその特有の香りで惹きつけるというキンリョウヘン(蘭の一種)の鉢をトラップの下部にセットする。その上に底板をはずした待ち箱を置く。キンリョウヘンの香りが箱の中に充満し、やってきた群れを誘い込む仕組み。もし群れが入れば箱ごと取り外して底板を取り付ければ立派な飼育用巣箱になる。

ただ、キンリョウヘンの花が咲くタイミングを合わせるのが難しい。冬中、暖かい部屋において花芽が出るようにしておいたので、何とか花が開きそう。過去にも分蜂群が他所から来て待ち箱に入ったことは数度あった。最近も、近くの道端に咲いたこぼれ種から咲き出た菜の花に、どこからきたのか数頭のニホンミツバチが採蜜しているのを見かけている(写真2)。確率は低いが望み無きにしもあらず。こうして、また飽きもせずにウィズ・ビー・ライフがリセットとなった。(尼川タイサク)

マキノの庭のミツバチ日記(82)

春なのに消滅の危機

3 月 24 日朝、近くの山々に雪がかぶっている。先週は平地にも少しだが積もった。最高気温も摂氏 7 度前後で、風速も毎秒 5 メートルくらい。寒くて風が強いとミツバチはなかなか巣箱から出てこない。今頃には増えているはずの若バチもそれほどには目立たないし活動的でもない。長いことつぼみをつけたままであった庭のサクランボの木にやっと白い花が咲き、それが満開になって麗しい匂いで誘いをかけているというのにこの有様。

昨年、そのサクランボの木は今と同じ頃に花が満開になり、その時は数十頭のハチがすぐに漁りに来ていた。今は、ヒヨドリがその満開のサクランボの木に居座り、我が物顔に花を丸ごと食べまくる。妻 Y が腹に据えかねたように飛び出して行って盗蜜者を追い払うが鳥はまたすぐに戻って来る。

今年は暖冬と言われながらも冬将軍はこの地にまだまだ未練が残るような気配だった。翌日の 25 日も気温は明け方に氷点下になり霜が降りた。満開になっていたサクランボの花も一部は前よりも色褪せて見える。だが昼には天気が穏やかに。晴れ間がときどき現れては消える。気温は 12 度くらいに上がった。昨日まで手持無沙汰のように立ち尽くしたサクランボの木は、昼近くになってブンブンと心地よい羽音をたてるにぎやかな客の 20 頭ほどを迎えることになった(写真1)。

そのうちに気が付いたのは、どうも庭のニホンミツバチの巣箱での出入りがぼつぼつで低調な感じ。おかしいと思って巣箱の底にスマホを入れて写真を撮ったら、中のハチたちはほんのひと塊が巣板の間に見えるのみ。いつのまにか勢力が落ちてしまっていた。ミツバチは「超個体」と言われるように、分業をこなす多くの家族からなる有機的集団があって初めて一個体のようにして生き続けられる。今のこの劣勢の様子だと消滅は時間の問題かも。春を迎えコロニーが大きくなり分蜂(巣別れ)に向かうはずのこの時期だが、事態は思ったより深刻だ。我が家にたった 1 個だけ残った巣箱を失うことには無念の思いが湧く。たいへん残念だが現実を受け入れざるを得ない。

働きバチの寿命は普段は 1 か月ちょっとだが、冬場に限って 3 か月ほどに延びるといわれる。昨年暮れごろから無理して働いてきた子育て役の働きバチが老齢で次第に姿を消し、若バチの世話ができていないのかもしれない。一方で、翅に異常をきたし飛べなくなって巣箱から脱落していく老齢のハチも少数ながらいる。これらは寄生ダニ(アカリンダニ)の影響があるのかもしれない。また、女王バチの出産も不調で次世代の再生産がはかどらなかった可能性もある。個体数激減の原因を突き止めるためには巣箱から中の巣板まで外して巣房を点検してみなければ分からない。

だがまだ威勢よく羽音を響かせて外勤に向かうものや巣に帰還するのが少数ながらいる。それ等がいるかぎりは巣箱に手をつける気が起こらない。せめて短い余生を過ごしてもらうことにした。巣箱に住民がいなくなる日は近いかも。Y は「せめて最後は腹一杯食わせてあげよう」と言いつつ小皿に入れた蜂蜜をまるで「炊き出し」みたいに巣門へ差し出していた(写真2)。(尼川タイサク)

マキノの庭のミツバチ日記(81)

ミツバチにもマスクが要るかも

冬ごもりの虫が地上に出てくるという「啓蟄(けいちつ)の日」も過ぎて 3 月 8 日が来た。この日は「国際女性デー」の日であるが、語呂合わせで「ミツバチの日」とも言うらしい(ついでに言うと 8 月 3 日は蜂蜜の日)。庭のニホンミツバチの巣箱はすでに防寒具も取り去られた姿となっていたが、この日には台座部分を新しいものに取り換えることにした。古い方には巣屑が溜っており、雨で湿ってこびりついていて、巣板を蝕むスムシを呼び込みかねない有様だった。

巣の下方を覗くと、こぶし大ほどに小さくなっているがハチの群は生き残っているようだ。働きバチの出入りはにぎやかとは言えない。それでも昼過ぎの少し暖かい頃には若いハチが出てきて飛行訓練をしていた。一方、私の目の前の石に止 まって、人目もはばからず(?)トイレをしては巣箱に帰っていくハチもいた。

閑散とした早春の庭にも春が寄ってきている。庭木のサクランボにはつぼみがはち切れそうになり開花への期待が高まる。とはいえ、若バチを迎える環境は芳しいものではない。このあたりでも環境悪化が進んでいる。まず蜜源となる花が少なくなった。巣箱からは少し離れているが道路沿いにあった山茶花の並木が、200メートルほどに渡って刈り取られているのには愕然とした。昨年秋の台風の後には、被害を受けた県道沿いの百日紅の並木がごっそりと伐採されて整理されていたのは知っていたが、同じ運命をたどったのだろうか?ここは冬の時期に頼りにしている数少ない蜜源だったからとても残念。レンゲ畑も毎年姿を消してきてい る。

冬の間澄んでいた空気にも濁りが見られるようになった。毎年、3 月から 5 月にかけての大気汚染の主犯は黄砂、花粉、PM2.5 だが、今やそれらが出そろった。最近話題に上がるのが PM2.5 という大気中の微小粒子状物質。大気中を漂う微小物質の内、粒子の直径が 2.5 マイクロメートル(マイクロは 100 万分の 1)以下のものをいう。大きさで比較すると人の髪の毛の太さの 30 分の1以下なので肉眼では見られない。

中国では石炭が暖房燃料の主力になっていて大量の発生源の一つだという。中国のお隣の韓国では、飛来した高濃度の PM2.5 で非常事態に。韓国メディアは 3 月 4 日、PM2.5 の緊急低減措置がソウル首都圏で初めて 4 日連続で発令されたと報じた。白く濁って見えるソウル市街地とマスク姿の人々の報道写真はインパクトがあった。その厄介な浮遊物は偏西風に乗って日本にも及ぶ。ここ数年、この滋賀県にも大陸から時々張り出してきた汚染帯に巻き込まれるようになった。私も最近では咳き込んだりタンが切れなかったりしていて、花粉症よりも PM2.5 の影響を疑っている。気管から肺に入っていく PM2.5 が呼吸器や循環器の奥に侵入して脅威を与えることは最近広く知られるようになった。

ミツバチがマスクを着けた姿(イラスト)は変?たしかに昆虫は人のような肺呼吸ではなくて気管系で呼吸するので、口の辺りをマスクで覆ってもナンセンスだ。胸と腹の両側に小穴のように開口している気門に装着することが必要(そんなマスクは今のところないが)。人について害が言われている PM2.5 だが、ミツバチについても害がない訳はないと思う。誰かその辺のことを研究している人がいるのだろうか?今はミツバチにもなにかと多難な時代だが、たとえ細々とでも生き延びて勢力回復に至ってほしい。(尼川タイサク)