マキノの庭のミツバチ日記(95)

ネオニコ散布の季節

8 月5日朝6時過ぎ、やや甲高い機械音を振りまきながらラジコン・ヘリが高濃度の殺虫剤を納めたタンクを抱えてすぐ近くの水田に回ってきた(写真1)。茨城県で有人ヘリが農薬散布の途中で落ちたのは先月末だったか。当市でも 10 年ほど前にラジコン・ヘリが散布用農薬を積んだまま墜落したことがあったので、気が許せない。その時の墜落機が持っていた危険な農薬は回収と後始末で大変だったと聞いている。

私がニホンミツバチを飼っている庭に接する水田については、今年も空中散布対象からはずされたのは有難い。だが、ヘリでの農薬散布は広範囲に及びドリフト (空中浮遊の霧状物質)の影響も無視できない。ニホンミツバチの行動範囲は広いので、被曝リスクが心配。ヘリは人家の近くでもお構いなしに噴霧している(写 真2)。傍の県道に犬を連れた老人が歩いてきたが、オレンジ色の制服の人に止められて引き返していった。

「当日は風向きに注意しますが洗濯物や車両などにかからないようにご注意願います。養蜂をされている方につきましては、散布日程をご確認いただくとともに、巣箱等の管理に注意していただきますようお願いします」と配布ビラにあった。ということはやはり高濃度のネオニコ・ミストが飛んでくるのだ。こんなに気軽に書いているところを見ると、たぶん、やっている人たち自身もこのネオニコの人体毒性には知らされていないのだろう。近ごろでは子供(特に胎児や新生児)の発達毒性の危険性が研究者によって公表されてきているのだが。

ニホンミツバチは農薬特にネオニコ系に対し、特に感受性が高く、薄い濃度でも害を受けるという。今朝散布されたのは、そのネオニコ系農薬の内でも比較的安全と言われていたジノテフラン(商品名はスタークル)だが、それに対してニホンミツバチは最も弱いという。散布過程で生じたドリフトはしばらく空間に滞留する。特にこの日のように無風に近い状態のことを考えると不安になる。

この朝はミツバチが心配で5時に起きた。熱帯夜の夜明けであったが気温は 27 度近くまで下がっていた。ハチたちは巣箱の内に戻っていると思ったが、実際に見に行くと、まだ少数だが箱の外側に止まっている。それを巣箱内に追い込んで巣門を樹脂の網でふさいだ。ハチは通れないが空気の出入りはできる。早朝の採餌から帰ってきたものもいたが見切り発車。締め出された 30 頭ほどの働きバチはしばらく騒いでいたがその内静かになった。さらに麻袋を巣箱にかぶせて、ドリフトが来た場合に備えた。菜園のトマトは採れる分だけ取り込んだ。

近くの水田への空中散布が終わったのが 7 時少し前。だがいつもに比べて短時間で済んだようだ。しばらくは風向きなどをみながら巣箱封鎖の解除のタイミングを待った。8 時過ぎになり思い切って巣門を開いた。今日に限って旅行に出る予定が前から決まっていて、ハチたちのその後を見守ることが出来ず、後ろ髪を引かれつつ家を出た。(尼川タイサク)

マキノの庭のミツバチ日記(94)

アリの侵入を防ぐ水城

アリの勤勉さは驚くほど。台所はもちろん、家の奥の書斎の机にまで探検者のアリ 1 匹がうろついていたりする。巣までどうやって帰れるのかと、お節介ながらも心配になるほど。昨年の台風の日に、ミツバチの巣箱を補強すべくつっかえ棒をしておいたら、そこを伝わってアリ数十匹が列を作って巣箱への侵入を試みていたこともあった。この場合はアリたちが大雨から避難しようとしたのかもしれないが。

先日、ニホンミツバチ巣箱の入口付近のテラスに、アリの道がいつの間にか開通し物流が盛んになろうとしているのを発見。これはいけないと、台座を新しいものに交換した。古い方には虫の死骸やなにかの卵があり、アリはそこに来ていた。過去にも、アリの侵入が激しくなってミツバチが逃去したことがあった。直ぐにアリ退治を考えたが、市販の薬はネオニコなど殺虫剤が含まれているのが多いので私は使うのを避けることにしている。

城郭の堀割のように巣箱の周りに溝を作ればアリは泳いで渡れない(もっとも、アリの仲間には、切羽詰まれば達者に泳ぐアリがいる)。かつて写真で水盤の上に巣箱を置いたのを見たことがあるが、水面が広いと湿気が強くなるのが気になる。そこで、プランター2 つを買ってきて巣箱の下に並べ、水をはることにした(写真)。また、ボウフラが湧かないようにサラダ油を滴下した。巣箱近くの草木が箱に触っている部分からもアリが渡ってくることがあるので、事前に刈り取っておいた。

アリも集団行動がすごい昆虫だ。昔、兵庫県の山奥で体験したことがあった。それは学童保育の行事で夏のキャンプに付き添って参加したときのこと。雨の上がった夜になって 30 名ほどで夕食のごちそうを広げていた時、明かりを目当てに来たのか突然に現れた無数の羽アリの大集団で宴は大混乱。降りてきたアリで食べ物は覆われ、たちまち黒々となってしまった。でも、これはアリの結婚飛行ということは大人たちには分かったので、直ぐに落ち着きを取り戻した。参加していた子供たちには自然の営みを知る良い経験だったようだ。

ある本によると、アリの結婚飛行は壮大なものがあるらしく、アフリカではクリケットの国際大会が中断に追い込まれた例もあるとか。アリは地域に共存する種 (しゅ)が多い。日没から夜明けまでの時間を分けて、在来の8種それぞれの婚活時間に割り当てがあり(シェアーして)混乱を避けているという観察例が報告されている。割り当てられた時間が来る前に巣を出ようとする焦った若バチを押しとどめる門番の面白い写真もあった。他種との交尾を避けるこの社会的な行動は、エネルギーを浪費し子孫が出来ないという生物学的無駄を避けるためのもので、「生殖隔離」と説明されていた。

アリは小さな体ながらも集団行動と群知能はすごい。分類上同じハチ目(膜翅目) のミツバチにも劣らないかも。このように手ごわい一族のアリの襲撃も、今度の水城のおかげでくい止めることが出来た。(尼川タイサク)

マキノの庭のミツバチ日記(93)

梅雨時に出会った「晴れない」ニュース

遅い梅雨入りになって 2 週間以上になる。庭の草木が茂り、アジサイの花が空間に出しゃばってきて、ミツバチの飛行ルートが脅かされる(写真)。たいていのミツバチは、空の高いところからダイビングするかのようにして巣に戻っている。ミツバチは額アジサイの花に採餌に来るということを聞くこともあったが、ここでは全くその気配はない。それでもどこからか花粉を調達して帰ってくる。

雨が降り続くと箱の中の湿度も高くなり不快指数(ハチにもあるとして?)も上がっているのではと心配になる。空に晴れ間が現れると寸刻を惜しむかのように働きバチが出入りし、また雨が多少降っていても勇敢な働きバチは飛び出していく。だが、さすがにまとまった雨が続く限りは、大勢での籠城を強いられている。 以前のことだが、飼っていたニホンミツバチが長雨の後で逃去(コロニーが丸ごと逃げること)したことがあった。それで梅雨はいつも気になる季節である。

何日も続く雨模様で私自身も外に出るのが億劫になるこのごろだ。それでネットをブラウズしていてさらに気持ちの晴れないニュースに出会ってしまった。それは「abt 助成先情報」に出ていた記事。abt(アクト・ビヨンド・トラスト)は環境問題に取り組む個人や団体に助成を行っていて、「ミツバチまもり隊」の小織隊長も 2015 年度の「広報・社会訴求部門」で助成を受けている。私が見た記事とは、ミツバチ減少の主因に挙げられている農薬ネオニコの人体影響についての最近の研究成果を紹介したものだ。

その研究グループが化学分析を行った報告によると、もはや国内でも食品を通して広範に人の体がネオニコに汚染されているらしい。母体や幼児(新生児を含む) の尿からネオニコ(あるいはその代謝物)が検出された。興味深いのは、ボラン ティアを募りネオニコチノイドを使用していない有機食材を 5 日間および 30 日 間摂取してもらった調査。結果は、日数の経過に応じて体内のネオニコチノイド 低減が顕著だったという。

研究の結果、日本人は胎児期からネオニコの曝露を受けている可能性が高くなった。さらにマウスを用いた実験では、母マウスと胎児を結ぶ血液循環のバリアー (胎盤関門)がネオニコ代謝物の突破を許し母子間の移行が起きているという。

国際誌 Plos One の最新刊(7 月号)にも上記の研究者グループによる研究論文が載っている。

以前、2013 年に欧州食品安全機関(EFSA)が 2 種のネオニコ摂取による子供の脳神経発達障害の可能性を警告した。さらに許容1日摂取量の見直しを勧告し、発達神経毒性の研究への緊急の取り組みを呼び掛けていた。ネオニコが人体内の神経のn-アセチルコリン受容体を阻害することはこの農薬の開発当初から分かっていた。他方、この受容体を持つ神経が胚ないし胎児の頃の神経ネットワーク 形成の役割を担うことは 80 年代頃から明らかになってきていた。今やネオニコが発達障害などで未来を担う子供達に影響する可能性が現実味を帯びてきた。恐ろしいことではないだろうか。

以前からミツバチが身をもってネオニコの害を教えてくれていたのだろうが、人間の社会はそれをあまりまじめには受け止めてはこなかった。今回のように科学的証拠が出ても、為政者や関連する大企業、マスコミの大部分が無視または肝心な部分をぼかすということが続くのだろうか。(尼川タイサク)

マキノの庭のミツバチ日記(92)

夏分蜂を首尾よく捕獲

ミツバチの群にも天気予報士がいるのでは?と思うくらいのグッド・タイミングで、庭のニホンミツバチが夏分蜂(夏期の「のれん分け」)を決行した。と言うのは梅雨に入ってここ 10 日ほど天気が悪く雨の日が多かったから。あと 2、3 日は天気がもちそうなので、おそらく絶好の引っ越し日和だろう。この巣箱の個体数が順調に増えていたので、夏分蜂があるかもと思っていた。まさに今朝、8 時半ころに時騒ぎみたいだが活発な動きがあったので、注意して見ていたのだった。

勢いよく出てきたハチがまた巣内に戻り始めたので中止かと思ったが、再び活発になり巣門のあたりは塊が出来ては崩れまた出来てといった具合で、そこから天へ向かって供給されていく(写真1)。写真は動画の 1 コマなので迫力が伝わらないのは残念!

空中をさまよう無数の点々となった分蜂群引っ越し組は、すぐ傍の高い松の木には関心なく、今日はサクランボとイチジクの木の間を行ったり来たり。それぞれがたてる羽音もうるさいくらいのにぎやかさ。群れの一部は他所(よそ)の敷地に向かうようなそぶりを見せ、固唾(かたず)を飲んで行方を見守っていた私と妻Yは落胆のため息を漏らした。だがその傾向は幸いにも主流とはならず。

大部分のマイクロ・エンジェルたち(ミツバチのこと)は庭の菜園の上を大きな渦を巻くようにしてさんざん動きまわっていたが、そのうち巣を飛び出てから 20分も経たないうちに、停泊地が明らかになった。そのスリリングな時間をじっと待ったかいがあって、私らが「もしや!」と期待していた庭のイチジクの木の太い枝のあたりに集結していった。ちょうどデジタルカメラのオート・フォーカスが合っていくようにして、ついに鮮明な一塊のきれいな形で蜂球が姿を現した(写真 2 )。

実は、昨日のうちにYがイチジクの木の小枝と葉の密集していた部分をいくらか払い取り、下生えも刈り取って風通ししやすくしていた。その意図せぬ作業がミツバチにはアクセスしやすい場を作ったのだろうか。蜂球は目の高さで捕獲しやすいところにあった。まさに捕獲にはおあつらえ向きの位置だ。いよいよ私の出番。大きめのポリ袋を広げその縁(ふち)で一気に塊を内側に落とし込んで、そのまま近くに置いた空の巣箱に中のものをはたきこんだ。袋の中に残ってしまったものたちも、巣箱の傍に袋を広げておくと、次々に這い出ては、巣門から中に引き寄せられるようにして入っていった(写真3)。もし女王バチを捕まえそこなっていたら、箱の中の連中も逃げ出していくので、確保したかどうか心配だった。 だが、女王もどうやらうまく巣箱に収まったらしい。まだ元のイチジクの枝にこぶし 2 個分くらいが居残っていたが、しばらくしてほぐれて、その巣箱に飛んで入っていった。

この後、巣箱を放置しておいたがハチの群はその中で落ち着いて静かになった。本日の捕り物は大成功!と言いたいが、実は捕獲の際に袋を閉じるときに 1 年ぶりにハチに刺されてしまった。ゴム手袋の甲の部分が通気をよくする為に布になっているのを軽視した結果の報いだった。すぐに手当てしたのでわずかに腫れが出たくらいで済んだ。(尼川タイサク)

マキノの庭のミツバチ日記(91)

ビワの実の豊作はミツバチのおかげ

今年は庭のサクランボが不作だったが、それを補うかのようにビワがたくさん実をつけてくれた。あちこちに実が数個ずつ寄り集まり柔らかな橙色が輝いて美しい。朝早くからヒヨドリなどの鳥が 10 羽ほど集団で実をついばみ、またカラスも狙いを定めるかのように飛びまわる。オオスズメバチも甘いのが気に入ってやって来るようだ。一昨年の降雪が厳しいときは積もった雪の重みで小枝が折れ花が枯れるなどで被害が出た。ビワは寒さに弱いので九州や四国などの温暖な地方で生産されている。このマキノの地あたりでビワの生産農家はなく、ビワを高級果実という人もいる。

4 月初めに、庭にただ一本あるビワに袋掛けをした。妻 Y は九州天草のミカン(ポンカン)農家の出だが、昔はビワもいくらか生産していたとかで、ビワの木の扱いには慣れている。袋掛けを言い出したのも彼女だ。私も脚立に上って危なっかしいながらも 100 ほど袋を付けた。まだ実が青く小指の先ほどの小さいときに摘果する。枝先に一塊にある 3 ないし 4 個ずつを一つの市販の紙袋に入れて、口を針金でもってねじって塞いでおくのだ。これで、ビワの実同士が風で擦れたり鳥につつかれる心配がない。ただし作業が面倒なことと実の色がすこし薄いのが欠点。写真1にあるように紙袋が目立つ赤橙色なので、家の前を通る人たちには珍しいのか覗き込みながら通る人もいる。外国からの観光客も写真など取っていき、中には質問する人も。

青梅もそうだが、青く未熟なビワの実やその種子にはシアン化合物アミグダリンが含まれる場合があり、これが体内に入ると猛毒である青酸を発生させると聞く。何十個も食べると健康に害を及ぼす可能性が有るが通常の食べ方では問題にならない。

実も梅雨頃になり色濃く熟れてくると良い香りを出し甘みも増す。わずかにある酸味がうまみを引き立てる。年一度の収穫はやはり楽しみだ(写真2)。近所の人にもいくらかはお裾分けする。ジャムにすると風味が落ちるので作らないがシロップ漬けはいいとかで、Y はたくさん作ってはガラス小ビンに分けて保存し悦に入る。

昨年、初冬にかかる 11 月頃に庭木のビワの白い花が満開になり、甘い香りがハチを誘っていたことを書いた(ミツバチ日記 71)。そのミツバチたちのサービスが実を結ぶことになった。今は亡き働きバチたちの努力をしのんで、出来上がった果実の味をしみじみ楽しむことにした。

セイヨウミツバチの養蜂家はこの初冬の時期にはミツバチを休ませたいらしく、冬を迎えるためにはハチの過重労働を誘うビワの木を嫌うところもあるらしい。私の家の近くにはビワの木があまりない。むしろ蜜源としてはわずかに頼れるところなので、とても有難い存在だ。(尼川タイサク)

マキノの庭のミツバチ日記(90)

ミツバチと蚊と炭酸ガス

時には雨に中断されながらもこのところ好天が続き、庭のミツバチの巣箱はどれも働きバチが活発な動きを見せるようになった。一時は出入りが少なく、花粉の運び入れも稀になっていたある巣箱では、女王バチの不調かと心配したのだが、ここも活気づいてきて、戻って来る働きバチのどれもが次々花粉を運ぶ有様に、安堵の胸をなでおろした。

しかし真夏が近づくと毎年同じ悩みが生じる。庭のミツバチの巣箱を見回りに行く度に、待ちかまえた蚊(カ)の群れに刺されて逃げ返る有様だ。それで、庭に出る時にはハッカ油を身にスプレーすることにした。

カもハイテク満載?といわれるほどいろんな機能をもつ。超音波を出して人の血管の位置を探索し、ついで口針から麻酔液と血液凝固を防ぐものを密かに注入して気づかれないうちに吸血する。カは人の汗の中の乳酸などに反応し複雑な臭いをかぎ分ける。炭酸ガスにもいたって敏感。触角(アンテナ)の化学感覚器で炭酸ガスを感じ取り、人を探して吸血する。また最近の研究では、ある種のカは危うく人から叩かれそうになったとき、その人の固有の体臭を覚えることができ、次にはその人を避けるという実験報告(Current Biology 誌 2018 年)もある。ミツバチに比べて5分の1以下の小さな脳を持つのであるが、そのような学習もできるなかなかの曲者だ。

分類学上ではカはハエ目でミツバチがハチ目に属し、比較的近い位置にありながら社会性などで生き方が違う両者だが、学習能力、高い感覚機能と素早い運動機能などいくらか共通点もある。炭酸ガスを高感度で感じる能力はミツバチの触角にもあって、重要な働きをする。しかしミツバチの場合は、カの場合のような獲物探しのために用いるのではない。ミツバチの巣は、木の洞(うろ)のような狭い空間に大勢がひしめき合うので(飼育巣箱も同じ)、呼吸する上でミツバチ自身が巣内の炭酸ガス濃度をモニターするのは絶対必要だ。人もそうだがミツバチも空中の炭酸ガスがある高い濃度を超えると気絶してしまう。だが、その恐れのありそうな時、ミツバチは大勢を動員し羽を振るって巣内の換気をする。

生物実験などで昆虫を一時的に麻酔する際にも炭酸ガスはよく使われる。写真1 は私の手作りの麻酔器で、ビールを泡立てるのに使う小型のソーダサイホン(右手のサーバー)を利用したもの。捕虫網で捕らえたハチなどに網の上からカップ (左手にある)をかぶせ炭酸ガスをチューブから導き入れて手早く麻酔できる。

昆虫は本当に臭いや炭酸ガスをどの程度感知できるのだろうか。それを知ることのできる簡単な装置が私の隠居部屋にも 1 セットある(写真2)。その測定器で得られたニホンミツバチでの炭酸ガス感受の記録図(触角電位図、EAG ともいう) の一例を写真3に示した。この場合は2ml の炭酸ガスをチューブを通じて触角に吹きかけて、そこの神経に生じる下向きの一過性の電圧変化(電気信号)を記録している。触角に向かってちょっと息を吹きかけただけでも応答が出るほどの敏感さだ。

なお、臭い応答検出セットは比較的簡単なものだが、分蜂群キャッチによく使われる誘引剤やフェロモン類似物質などへの応答も測定できる。ミツバチの能力を探るというこうした楽しみ方もある。(尼川タイサク)

マキノの庭のミツバチ日記(89)

流蜜の初夏のころ

5 月から 6 月にかけての当地マキノ(高島市)は、私が一年の内で最も気に入っている。お天気が続いて湖水は温み、水田には稲の青苗がきれいに並び、その間を浸す水は青空を映しだす水鏡となる。あたりははじけたような新緑に染まり、様々の花が咲き乱れる。この時期、花が豊かに蜜を出すいわゆる流蜜(りゅうみつ)の時を迎えて、巣箱のミツバチたちは元気に採蜜に動く。

ミツバチの運んでくる花蜜や花粉がどのあたりのどんな花から採ってきたものか、日ごろ気になっていた。それで、庭や近くの植え込み、あるいはよく行く散歩道などに蜜源となる花がないか探す癖がついている。この時期では、ミツバチが実際に来て花から採餌しているのを見かけたのは、アザミ、ノバラ、クローバー(シロツメクサ)、イモカタバミ、そしてタンポポに似ているが背の高いブタナ(フランス語の「ブタのサラダ」の直訳とか?これも侵入外来種)などである。

庭のクローバーの花畑の中に、熱心に採蜜中の数頭のニホンミツバチに出会った (写真1)。花は、一本の花の柄(花梗)の上に数十個の白い小花が集まって毬状になっている。これに昆虫が来て受粉が起こると、小花は周辺部から順次下方に向きを変えて垂れ下がっていき、その部分は薄茶色にあせた装いに変わる。写真 1では、ミツバチの斜め下方に小花が半分近く垂れ下がって薄茶色になっているのが見える(ハチの右手の花などもそうなっている)。おかげでハチにとっても吸蜜すべき花が区別しやすくなっている。このような受粉による花の変化は他にも知られている。ニホンミツバチの分蜂群を捕獲するのに使われるキンリョウヘンも、受粉後に花の一部が赤色を帯び、誘引物質の分泌量も大幅に減ることが菅原博士(神戸大)により報告されている。

クローバーの花は潤沢に花蜜を分泌するのでミツバチにとっては良い蜜源であり、一方、ミツバチは受粉を手際よくやってくれるので、クローバーにとっても良い客である。まさに持ちつ持たれつの良い共生関係だ。このクローバーの群は妻 Y が巣箱に近い草むらにタネを播いてハチの手助けするつもりだったようだが、花が咲いてもなかなかやってこなくてヤキモキしていた。この度やっと来てもらえて Y も安心したようだ。

今、どこにでも華やかに咲き出ているのはノバラだ。おや、ここにも居たのかと思うほど頻繁に目につく。その発する臭いも芳しい。隣家の庭にも丈の高いノバラの木の茂みがある。我が庭のニホンミツバチの群もその中に飛び込んで一仕事をしては、意気揚々として自分の巣箱に戻っていく。

見ていると、大から小までの様々の訪花昆虫がノバラの茂みに集って入り乱れている。わずか体長 5 ミリほどのアブがホバリングしながら花の品定めをし、ミツバチは時間を惜しむようにせかせかと飛びまわっては、次々に花蜜を集め花粉を大事そうに両脇に抱え込む(写真2)。大型のハチであるマルハナバチやクマバチは、威圧するようなブンブン音でもって周りの小ぶりのハチたちを追い払っては独り占めを狙う。甲虫のハナムグリなどが花弁に取り付いているのもよく見かける。悪質と思えるのはコガネムシだ。葉や花弁をバリバリと噛み切りすごい勢いで食い荒らす。もっと行儀よくできないものだろうか。(尼川タイサク)

マキノの庭のミツバチ日記(88)

ニホンミツバチの蜜搾り

先々週はセイヨウミツバチの蜂蜜搾りに見学に行ったが、今日は自分のところのニホンミツバチの巣箱を開けて蜜絞りを実行することに。朝は 7 時決行を決めていたので、いつもより早く目覚める。気のせいか脈が早く血圧も高めになっている。やはり気持ちが躍動してくるのか。

ちょうど、娘が休暇で家に帰ってきているので写真係をしてもらった。ひどい虫嫌いだったが彼女もこれで立ち合いは3度目。ミツバチ(だけ?)は大丈夫、となった。私と妻は、長袖、ズボン、面布にゴム手袋を着用し、ハッカ油の噴霧液も手足に軽く付けておくなど、万全の防御態勢をとった。ミツバチが活躍する前に「朝飯前」でやり終えることを目標にする。準備と手順のシミュレーションは前日にほぼ終えていた。最近、蜜搾りをしたハチ友から、ハチを怒らせ激しい反撃に会い刺されたなどの話を聞いていたので、少し臆病な気分になっていた。

いざ始めると、箱枠を抑えている木ネジがドライバーでうまく回らない。無理をするとネジの皿がつぶれてしまい取り外せなくなるので、ちょっと焦った。なんとかそれを乗り越え、天板を外す段になってスパーテルが手元にないことに気付いた。でも前回までのようなうろたえた結果での怒号(?)の応酬はなく、箱開けはスムーズにいった。箱枠と次の箱枠の隙間に細い金属ワイヤーを通して水平に引き切ることで、無事に最上部にある箱枠(中に巣板が詰まる)を切り離すことが出来た。この間、巣箱の住人(住虫)たちの羽音はすごかったが、思ったほど攻撃的ではなく、じきに落ち着いてくれた。この巣箱の元の飼い主からは気が荒いと聞いていたのでやや拍子抜け。一番上の箱枠を外して手に持ってみると結構重い(写真1)。

この箱枠の内の巣板と巣板の隙間に、まだ少しばかり働きバチが残っていた。この居残り組を追い出して、取り出した箱枠を運び出し、蜜を含んだ巣板を切り出す作業に入る(写真2)。そうして得た巣板を小片に割ってリード紙を敷いた金ザルに入れ、下に置いたホウロウ桶に蜜が垂れてくるのを待つのはいつものやり方で、遠心分離機は使わない。白い蜜ブタがかかった濃い貯蔵蜜のあるところは、あらかじめ刃物で覆いをはぎ取っておかねばならない(写真3)。

トロトロの蜂蜜で潤んだ巣板のひとかけらをつまんで口に含んでみた。これぞニホンミツバチの蜜だ!と、思わず表情が緩む。味でもセイヨウミツバチのものとは違う独特の味覚が湧く。芳醇にしてさわやかな美味が口内に広がる。初夏に入ったこの時期に採った蜂蜜は香りよくさらっとした味だ。秋になると蜜もさらに濃厚になるが、嫌いなのはソバの花が咲くころの蜜。人により好き嫌いがあるが臭いになじめないものを感じる。クリの花からのものも同じくゴメンだ。ただ、物の本によると、ソバの花に由来する蜂蜜は抗酸化作用が強いので愛飲する人も多いとのこと。去年の秋に採った蜂蜜は、セイタカアワダチソウに由来の臭いがあり困惑したのだった。

有名な歌人の若山牧水は宮崎県日向市(現在)の出身。彼の短歌に「焼酎に蜂蜜を混ずればうまい酒となる、酒となる、春の外光」というのがある。とても上手な歌とは(素人の私には)思えないが、彼の出身地にかつて住んだことのある者としては、この歌はちょっと気になる。この飲み方、真似してみようかナ。(尼川タイサク)

マキノの庭のミツバチ日記(87)

ミツバチの結婚飛行(あるいは婚活?)

この春、我が庭で捕らえたニホンミツバチ分蜂群は「養子」に出した。引き取っていただいた小織さんから、最近のコロニーの様子のレポートがきた。そこには、巣門を出ていく女王バチをたまたま見かけたとある。すぐに戻ってきたがこれは結婚飛行なのだろうかと尋ねられた。私は見たことがないので答えられなかった。

そこでミツバチのことを少し調べてみた。ミツバチの巣の中では、適齢の娘女王バチと雄バチがいても互いに無関心で、同じ親女王から生まれた兄妹(あるいは姉弟)同士の近親結婚は避けられている。羽化した女王バチは、普通は 1 週間以内に結婚飛行に出るといわれる。飛行時間はまちまちだが、数分から 1 時間くらい。ミツバチ「婚活会場」は、あちこちの巣から出てきた雄バチの群が集まる木立のある所など。この辺で言えば神社の森などであろうか。我がハチ友の井上さんは、辛抱強い観察の結果、ニホンミツバチの結婚飛行の貴重な動画や写真をモノにしている(写真は結婚飛行から戻ってきた女王バチ。井上さん提供)。

交尾には高速で飛ぶことが絶対必要。飛行時の風圧により雄のペニスが体外に出されセットされるということを書いている本もある。高速で飛ぶ女王は女王物質を振りまき、これが性フェロモンとして雄を惹きつけ興奮させ追尾させる。レースの勝者の雄は空中で雌を捕らえ交尾に至る。この時、雄の交尾器がはじけて精子が送り出されるとともに、雄は恍惚の内に(であってほしい?)一生を終える。

交尾後にはオスの交尾器の一部が栓のように女王の尾部に残る(写真では、何らかの理由で落ちたのかもしれない)。さらに他の雄が割り込んできてそれを外し自分のを着ける。そのようにして通常は 10 頭前後の雄と交尾する。父親の異なる大量の精子を確保することで、遺伝子の多様性を維持するとともに近親結婚の確率を低める意味があるそうだ。女王の体の貯精のう(精子を貯める袋)での収量が足りなければ翌日も出撃する。多量の精子は女王の一生(2、3 年)の間に体内で保存され適宜使われる。ミツバチの場合、婚活と言うよりも、近ごろ世間で耳にする「妊活」と言う語が近いかも。女王バチにとっては、精子をいただけば雄は不要の存在となる。

この時期には小鳥特にツバメなどの敵が待ち構えていることも。ふつうは護衛の働きバチたちが女王に付いて行くので無防備ではない。だがもし捕食されるとコロニーは存続の危機に陥る。だが、逆にツバメが護衛のハチ部隊に追いまわされるのを見たと井上さんは話してくれた。目や耳に多数の刺針を撃ち込まれたツバメの死体があったという記述もある。

庭の巣箱から結婚飛行に出るミツバチ新米女王のことを思うたびに、ちゃんとお婿さんに出会えますようにとつぶやいたりする。というのも、近年、ミツバチコロニー数の激減が心配される現実があるから。この結婚飛行という独特の行動(といってもアリや白アリにもあるらしいが)は、もちろんミツバチが社会性昆虫の特質をもって生きていく上で必要不可欠なシステムである。ミツバチは昔から、おそらくは何百万年あるいは何千万年以上も前から、毎年これを着実に繰り返してきたのだろう。だが、人類が招き寄せた環境の悪化がこのシステムにも及び、ミツバチの絶滅に導くことがあっては申し訳ないことである。(尼川タイサク)

マキノの庭のミツバチ日記(86)

セイヨウミツバチの蜜搾り(しぼり)を見学

高島市南部の N さんのお宅は、古くからある集落の一角に建つお屋敷。その庭はセイヨウミツバチの巣箱が 3 台ほど置かれている。N さんはミツバチまもり隊の会員でもある。すぐ脇の空き地にはレンゲやタイムの小花が咲き乱れてミツバチを呼び込んでいる。今日は、そこで飼われている巣箱のうち一つで蜜搾りをするので来ませんかと誘われて、お邪魔することになった。私の他にも N さんの友人夫婦一組が招待されていた。私はセイヨウミツバチの蜜搾りは初体験ではないが、もう 50 年以上前のことなのでほぼ仕方を忘れている。それに、私が扱ってきたニホンミツバチとどう違うかということも興味があった。

巣箱は上下 2 段に積まれていて、その内側には巣板が 8 枚並べて収められている。巣板は木の枠に囲まれた板状の蜜ロウからなり、その両面に六角形の小部屋(巣房)が無数に穿(うが)たれている。この時期、蜜は主に上の箱に貯まるようになっている。今日は天気が良いのでハチもご機嫌良いとか。巣箱の上ブタを開けて巣板を取り出しても、くん煙器からの煙のせいもあってか、あまり騒がないでいる(写真1)。巣板表面に群がって張り付いているハチを振り落とし、まだ残ったハチは刷毛で払い落す。

その巣板 1 枚を持ち上げると、それぞれの巣房にびっしりと蜂蜜が入り結構重たいものもある。 十分に濃縮出来た蜂蜜の巣房は、その表面を「蜜ブタ」と言う薄いフタで覆われ封入されている。この巣板を作業場に運び出して、それぞれの巣板から蜜ブタをナイフで薄く剥ぎ取る作業に入った(写真2)。私も途中から任されたが、N さんほどうまくはいかない。失敗しながらもなんとか続けた。

蜜を取り出すのに必要なのが分離作業。ドラム缶の中に回転軸を入れたようなものが遠心分離機だ(写真3)。次のステップは、その回転軸に巣板を取り付けてハンドルを使って回転させ、遠心力で蜂蜜だけを槽の内壁に飛ばして集める作業になった。手回しでその回転速度を適度に保つのが難しいとのこと。遠心力が強すぎると巣板を破ってしまう。

最後に、遠心機の底から突き出た蛇口から、琥珀(こはく)色の液体がドロリと出てきた。巣くずなどは金網の目の粗いのと細かいものの 2 段階でふるい分けられ、非常に濃くてきれいに澄んだ蜂蜜が最後に得られる。スプーンを突っ込んで回すと粘りついてくるような純粋の濃い蜂蜜だ。採れる蜜の量がニホンミツバチより何倍もあるような印象。

ニホンミツバチの蜜搾りの場合は巣板自体がもろいので、巣板をいくらか砕いてザルに入れリード紙で漉(こ)して蜜を垂れ流しさせボウルなどに集めるだけ。簡単だが気温が低いと時間がかかる場合もある。

嬉しいことには、ビンに入れた貴重な搾りたて蜂蜜をお土産にいただいた。試しに指先ですくって舐めると、レンゲだろうか花の匂いがする。濃い舌触りが素晴らしい。今日は大変良い体験ができた。(尼川タイサク)