マキノの庭のミツバチ日記(79)

よくある質問から(その3)

「よくある質問」で前回紹介できなかった分を追加しました。

Q13「ニホンミツバチを飼いたいが?」
*私は飼育のハウ・ツーは不得手ですが、浅い経験の範囲で答えます。ニホンミツバチは飼いやすいのでお勧めです。ミツバチがいる環境ならば、巣箱を用意すれば勝手に入ることもありますが、近年は数が減っているようでなかなか入らないとの声も聞きます。まずは近辺で巣箱を置いて飼っている方に話を聞くことをお勧めします。分蜂の時には分けてもらえることがあるかも。飼育の本を紹介するとしたら、私が愛読した『ニホンミツバチが日本の農業を救う』(久志冨士男著、高文研)、そして実践的で多様な視点のある本としては『僕の日本みつばち飼育記』 (安江三岐彦著、合同出版)でしょうか。ネットなら沢山出ています。飼う際は飼育届(滋賀県は農業農村振興事務所)を忘れずに。

Q14「ニホンミツバチ巣箱はどのようなものがよい?」、「教えてください、ミツ バチの住みやすい巣箱を作りたいです。場所は富士山の雑木林・・・。」
*ニホンミツバチ用の巣箱もいろんなタイプがあります。多いのは桝(マス)形の枠を積んだ重箱型。自然界の木の洞に近いのが丸洞型、巣枠を収めて取り出せるようにした縦型と横型巣箱など。また飼う人のポリシーやニーズによっても様々。神経質でシャイ?なニホンミツバチの生活にあまり干渉しない静観主義か、蜂蜜収穫が主目的か、あるいは巣の中の行動や生態を観たいかで巣箱もそれに適したものが選ばれます。また養蜂で一般的なセイヨウミツバチ用のラングストロス式の横箱で巣枠間の距離を縮めて使っている方もいます。寒冷地では巣箱の板は厚いものがいいでしょう。ネットでも「ニホンミツバチ」の検索で、色々紹介されています。私のハチ友の井上さんが作って譲ってくださった巣箱は、厚さ2 センチの板からなる頑丈なもので、掃除しやすく観察窓もある重箱型で、気に入って使っています(この日記にも写真を時々出してきました)。ミツバチまもり隊で作っているのは臼井健二さん仕様(**)を参考にしてアレンジしたもので(写真)、作りやすく安価です。

Q15「ミツバチを飼いたいけど周りへの影響が心配ですが」
*どのような場所での飼育を考えておられるのか、飼育場所(サイト)とロケーション、その近隣の人間関係など環境の具体的な条件が分からないとお答えが難しいです。まず隣の人家とある程度離れている必要があります。ミツバチは巣箱と餌場(花畑など)を直行するし、空からダイビングみたいにして静かに巣にもどってきます。あたりを無目的にうろつくことはあまりありません。1 箱 2 箱なら気にならないほどです。ただ、排泄物を巣の近くの白い洗濯物などに着けることがよくあります。一番心配なのは春の分蜂時の「乱舞」の時で、初めてそれに出くわすと、一般の方はパニックになるかもしれません(乱舞はたいてい 20 分 以内で静かになりますが、蜂球がどこに作られるか、生活上困る場所の場合もありえます)。また、飼育サイトにはある程度の広さ、庭木や花壇がある領域が必要です。そうすると騒ぎもその範囲で収まる場合が多いです。また、近所の人には日ごろニホンミツバチの大人しい性質など話して理解していただける素地を作っておくのも必要でしょう。(尼川タイサク)

注(**)、 『日本蜜蜂巣箱』 http://www.ultraman.gr.jp/perma/nihonmitubtisubakotukurikata.pdf

マキノの庭のミツバチ日記(78)

よくある質問から(その2)

前の号からの続きで、よくある質問をあげてみます(*はとりあえずの回答やコ メント)。まずは蜂蜜についての前回の続きから。

Q7「ニホンミツバチとセイヨウミツバチでの蜂蜜の違いはありますか?」
*作る蜂蜜の量と味が違います。養蜂家の扱うセイヨウミツバチは特定の花(例えばレンゲとかアカシアとか)の花蜜を集める傾向があります。花によっては色と匂い、蜜を出す構造などに特徴があり、同種の花だと蜜の採取作業に習熟できて働きバチには能率的だと説明されています。一方、ニホンミツバチの蜂蜜は様々な花から集められるので百花蜜と言われます。その味は深みがあり格別に良いと私は思います。ただ採れる量がセイヨウミツバチに比べ三分の一程度と少ないので貴重です。

Q8「蜂蜜の入ったままのワックス(巣)ごと食べてもいいのですか?」
*この質問はたまにあります。蜜をたっぷり収めた巣板(写真)の一部を切り出して売られている場合もあります。この巣板の素材はミツバチが体内から分泌した自然のワックス(ロウ)なので、食べても大丈夫。このまま口に入れて噛めば舌上に流れ出る蜂蜜の本来の素敵な味が堪能できます。残ったロウのかすは吐き出せばいいのです。

Q9「ミツバチの寿命はどのくらい?」
*女王バチの寿命は 3 ないし 4 年、働きバチはずっと短く 40 日くらいです(ただし越冬の時期は延びていて 3 か月くらい)。

Q10「寒い冬をどうやって過ごす?」
*巣の中では働きバチが集まって玉みたいになり「押しくらまんじゅう」みたいにこすりあい、胸の筋肉を震わせて熱を出すなど暖房装置になります。その場合食べた蜂蜜の糖のエネルギーが筋肉において熱に変えられますので、蜂蜜は冬場の貴重な燃料でもあります。

Q11「女王バチが雄から得た精子を 2、3 年も保存できるのはどうして?冷凍じゃないですよね。」
*精子や卵子は DNA の運び屋で比較的単純な細胞構造をもつので、人でも液体窒素中で冷凍保存ができます。ミツバチの場合はもちろん冷凍ではありません。ミツバチと同じ膜翅目のアリの女王はなんと 10 年も生き、精子を保存できるとか。ミツバチの女王は最初の交尾で得た精子を受精嚢(のう)に保存し、一生の間にすこしずつ使います。精子は動きを止められ代謝の低い状態になっているそうです。また、精子自体が強い抗酸化作用をもち、それに適合したエネルギー代謝系(活性酸素を発生しない解糖系)が採用されているそうですが、まだ詳しいことは分かっていません。

Q12「ミツバチ減少の原因の一つといわれる農薬ネオニコチノイドは世界中で問題になっているそうですが、なぜ日本ではそんなに取り上げられないの?」
*ヨーロッパ(EU)や米国などでは以前から問題になり、全面禁止や規制を進める国が次々出ていますが、残念ながら国内では関心が低い現状です。この問題は農業生産や農政に複雑に関わる面が大きく、製薬大企業と農産物生産・流通の巨大機構も絡んでいますので、マスコミ報道も慎重(よく言えば?)になっているのではないでしょうか。でもネオニコ問題は国民の健康、特に子供の発達にも影響しかねないので、無視できないと思います。

まだありますが、この辺で終わりに。なお、ミツバチ(とりわけニホンミツバチ) 愛好家としての回答やコメントですので、偏りがあるかもしれません。(尼川タイ サク)

マキノの庭のミツバチ日記(77)

よくある質問から(その1)

去年は、庭の巣箱を見学に来た人たちに説明したり、30 名ほどの会に呼ばれてミツバチの話をしたりする機会が何度かあった。話をすると必ずのように様々な質問がくる。それらの質問が結構面白い。よくあった質問を以下にあげてみる(*はとりあえずの回答やコメント)。

Q1「ミツバチは刺すので怖い?」
*スズメバチやアシナガバチは刺すことがよくありますね。でも巣への接近や悪さを人から仕掛けない限りは大丈夫。ミツバチ、特にニホンミツバチは、めったに人を刺しません。優しい気持ちで接すると相手も穏やか、つまりあなた次第です。ただ、冬場は気が立っているのでご用心。私が巣箱を掃除しようと手を出したとき目が合って(?)、刺されたことがあります。

Q2「ミツバチは仲間同士で喧嘩しないの?」、「家庭(巣)内暴力は?」
*同じ巣の仲間同士ではふだんはとても親密。働きバチ同士が喧嘩しているのを見たことがないです。ただし、春の王女姉妹同士の女王座獲得の争いや秋の雄バチ追い出しは別です。

Q3「女王バチになれるのはどんなハチ?」
*蜂児(幼虫)の時のローヤルゼリーの与え方で、女王になるか働きバチになるかが決められます。王台という特別育児室の蜂児には羽化するまで、普通室の蜂児(大多数)には初めの 3 日間のみ(後は蜂蜜と花粉)、与えられます。前者は遺伝子がスイッチ・オンで女王モードへ導きます。おや、誰ですか?ゼリー買いに走ろうとする女性は。もう遅過ぎですし、人には保証できません!

Q4「なぜミツバチは遠くに行っても自分の巣に戻れるの?」
*近ごろの研究で、ミツバチの持つ高度の認知能力や記憶力が帰巣を支えていることが分かってきました。ミツバチの脳の中にできた「地図」のイメージに頼るとの論文も出ています。

Q5「私の家にハチが勝手に巣を作った。どうしよう!」
*ミツバチが棲み着くというトラブルはよく聞きます。私が関わったケースでは、民家の屋根裏にハチが棲み着いて、数条の蜜液が壁伝いに垂れたり就寝中にハチに刺されたりということも。その時は依頼したハチ飼いグループが駆けつけて無事に取り除きました。その家の天井裏にニホンミツバチの立派な巣が出来ていましたが、暑さのためか一部の巣板が欠け落ちていました(写真)。一方、ある人は 自宅の庭にいつの間にかミツバチが集まって一抱えの蜂玉ができ、不安を感じたといいます。役所に相談したら「ほっとけばその内に消えます」との回答。ハチは 7 日目に居なくなったとのことでした。出て行った後には、プラスチック状のものが残ったとのこと。たぶん野生のニホンミツバチだったのでしょう。確かに「ほっておくとどこかに去る」のは正しいです。だが都会人にとっては受け入れがたい答えかもしれません。7 日間も居座ったのは、よい新居を見つけられず仕 方なく巣板(置き土産となった)を作ったのかも。

Q6「蜂蜜が好きで毎日大量に食べているが大丈夫か?」
*蜂蜜は糖尿病の患者には良いという人もいますが私には真偽は分かりません。蜂蜜にはブドウ糖が大量に入っていますので、食べ過ぎると肥満になるかもしれ ませんね。最近、神経毒の農薬ネオニコチノイドが極微量に残留するということが報道されていました。今のところ健康に問題ない程度とのことでしたが。

他にもまだありますがそれは次号、今日はここまで。(尼川タイサク)

マキノの庭のミツバチ日記(76)

コタツ読書で旅した二つの世界

年末年始は一時的に雪が降り積もっていたがその後は一休みとなったこのころ、ミツバチはほとんどの時間に巣にこもっている。晴天の小春日和には出入りがあり時騒ぎもあって、私はちょっと安心。冬枯れで暇になってきた近ごろはコタツに入って本を読むのが楽しみだ。

手元の 1 冊は、書店でたまたま見つけた J.スウィフト著『ガリバー旅行記』(山田蘭訳・角川文庫)。航海中に難破して小人の王国に流れ着いたガリバーの話はおなじみで、高島市のJR近江高島駅の東側には、小人の国の軍船をヒモで捕らえたガリバーの大きな像が立っている。だがこの文庫本は世に出ている子供向きの絵本などとは違う。

初めのところで、小人の国の人々とガリバーの交流が始まる場面を読んでいて、わが庭にいるミツバチたちから見たら私はガリバーみたいに見えるかも、などと想像して楽しかった。だが読み進めると、本の中の小人の世界はパワハラあり、忖度(そんたく)あり、陰謀画策ありのドロドロの世界。著者の生きた 18 世紀ころの英国社会が風刺されているようだ。加えてガリバーの奇想天外な行動(下ネタ?)に、こんな本だったのかと改めて驚いた。

もう一冊は、原野健一博士による『ミツバチの世界へ旅する』(東海大学出版部) というもの。本の帯に「もう一つの社会を作る巧みなシステム。その核心に迫る!」とある。現役ミツバチ研究者の手によるセイヨウミツバチの行動全般に及ぶ解説で、特に行動を成り立たせるシステムについて詳しい。研究者としての成長過程や発見に至るスリルや喜びなども記されていて、読み物としての工夫もなされている。

「リーダーを持たない不思議な社会」の項では、人間の世界のようなトップダウンの指示系統がなくても、メンバー同士の協調が生まれる巧妙な仕組み(自己組織化)があるという。その仕組みは色々だが一つは匂いによるコロニー識別が重要な柱だ。ミツバチ個体同士が接触することで体表のワックス中の臭い物質を交換し、メンバー全体に同じ匂いが固有の指標として均一に行き渡るようにしているらしい。またミツバチが巣板に触れることも同様の意味をもつ。他所のコロニ ーから盗蜜に来た盗人蜂が門番に見過ごされることが現実にあり、私も不思議に思っていたが、その場合も、この匂いへの何らかの操作があるのかもしれない。だが答えはまだ先のようだ。

フェロモンや体臭(そのほか振動や音など)の複雑な信号系のシステムでまとめあげられたミツバチの社会は、ガリバーが相手をした人間臭プンプンのミニアチュア社会とはまたひどく異なる。生物進化を反映した独特の合理的な造りになっていることが、読んでいて汲み取れる。

他のところで私が興味を惹かれたのは、「女王蜂の脳内物質」と「ミツバチの燃料調節」のあたり。ダンスコミュニケーションにまつわる不正確性もよく整理されて分かり良い。それぞれは私個人も深く知りたい内容だが、それについてのコメントはまたの機会にでも。

原著論文リストと図版のデータが豊富であり統計上の有意差表示がわずらわしいほどに出ているのは、読者に学部生・院生など未来の研究者向けを意識してのことだろう。だがこの単行本は、一般のミツバチの愛好家にとっても最新の研究にアクセスする良いガイダンスの役を持つと思う。いろいろ勉強になる点が多かった。(尼川タイサク)

マキノの庭のミツバチ日記(75)

ミツバチからの年賀状

大陸からの寒波襲来で凍えるような寒い年末年始になった。暮れの 28 日の朝には 5 センチほどの積雪で、その後は 3 日間降り続いた。最低気温は 0 度前後に。そうこうしているうち新年を迎えた。

日ごろ世話をして面倒をみている庭のニホンミツバチたちから年賀状が届いた・・・てなわけないか!ということで、ミツバチの「気持ち」を勝手に代弁しつつ、大家さん(私)に宛てた数行の年賀状を考えてやることにした(イラストは本文とは一応無関係)。

『昨年中は大変お世話になりました・・・』(ん!まったくね。でもこちらもいろいろ楽しませてもらった)。

昨年のことで印象深かったのは、分蜂(巣別れ)が 1 日に 2 回もあったこと。捕獲ではてんてこまいしちゃった。えっ?捕まえずにそのまま逃がしてくれればもっと幸せだったかも?そいつは悪かったねー。でもいまさら仕方ない。

天候が悪いこともしばしばで、よく巣箱の心配もしたっけ!7 月の豪雨に 8 月の酷暑。気温 30 度を大きく超える日が続き、巣箱の天板に冷却のための保冷剤のパックを置く毎日だった。秋になって巣箱の住人に見られた生育の幾分かの遅れは、この酷暑も一因ではないかと私は疑っている。そして極めつけは 9 月の超大型台風だった。マキノ町でも大木やコンクリート電柱が相次いで倒れるような暴風だったが、巣箱は運良く持ち堪えてくれた。その後だったか巣箱の群の一つが逃げ出していったのは。残った 1 群が今、年を越すまでに至っている。だがこの群も、生育の遅れや異臭騒ぎ(実はセイタカアワダチソウのハーブ臭)など、いろいろ心配させてくれた。

ミツバチたちの大敵、農薬ネオニコチノイドも心配の種だった。ラジコンヘリによる散布は 8 月初めにあり、巣箱を霧状のドリフト(浮遊物)から守るのに神経を使った。残留効果も高いといわれる農薬なので気が抜けない。採取した蜂蜜サンプルをネオニコ残留検査に出した。結果は、人に問題になる濃度以下ということだったが。この検査ではミツバチへの影響に関しての情報が得られず、なんともいえないもどかしさが残った。

でも世界に目を向ければ進歩したところもあった。EU(欧州連合)はネオニコ 3 種の完全使用禁止(一部例外あり)を各国代表の投票で決定した。世界の趨勢に逆行するようにネオニコ規制緩和の続いた日本国内では目立った進歩はない。だが自治体のいくつかで、ネオニコ禁止や斑点米の基準の緩和を求める意見書が議会で採択されているのは希望がもてる。

『今年も昨年に変わりませずよろしくお願いします。庭のニホンミツバチより』 (こちらもよろしくね。でもさしあたりは、この冬を無事に乗り切ってほしい)。

今年の課題なり抱負はどうか。ミツバチにはそういう「未来」の概念は全くないかもしれない。私個人で言えば、まずはこの高島市の地にニホンミツバチをもっと増やしたい。去年の春に我が庭の巣箱から分蜂した内の 2 群を他所に分与した その 1 つは、残念なことに秋ごろに熊に襲われ失われてしまった。残る 1 つは無事で今もコロニーを保っていると聞く。

ミツバチを守ることが人間にも住みやすい世界を作ることになると思ってここしばらくやってきた。その世界を見るべく一歩でも近づきたいのだが、目標があまりにも遠くに感じられる。今年もミツバチまもり隊の会員の皆さんとせいぜい頑張りますか!(尼川タイサク)

マキノの庭のミツバチ日記(74)

ミツバチは優れた建築家(その3)

先週はここマキノの平地でも初雪が降り、少しだが積もった。前の日にウレタン製の厚手の板を巣箱側面や天井に貼り付けるなどしてとりあえずの防寒対策をしていたのでなんとか間に合った。ミツバチもこの寒い時期に家があることに有難味を感じているだろうか?だがミツバチにとっての家は、私たち人でのイメージとだいぶ違う。

巣の中でミツバチ成虫が通常いる場所は、たいがいは巣板の表面か巣板と巣板の間の狭い空間だ。それぞれの巣房(六角形の小穴)は貯蔵庫か育児ベッドになる。前回の「ミツバチ日記(73)」に巣板のでき方の新説を紹介した。そこで出てきたファスナー様構造がくっきりと見える写真を最近になって見つけ出した(写真1)。 魚の白い骨みたいに見えるのがそれ。10 月頃撮った庭のニホンミツバチの巣箱のものだ。観察用のガラス窓に直(じか)に増設中のファスナー模様が記されてあり、その白さは使われたロウが新しいことを思わせる。元からある巣板を窓側に拡張してきている。なんと巣房の断面図で見える部分に琥珀(コハク)色の溜まり(たまり)があるのは蜂蜜のようだ。蜜を沢山の巣房に分け入れて表面積を広げることで水分の蒸発量を増やす。それが蜂蜜濃縮の一つの方法だ。

スズメバチなどハチ類はたいていが水平に作った巣板を何段か積んでいる。数年前のことだが、知人の家の天井裏からキイロスズメバチによる不法占拠後に残された巣を取り出したことがあった(写真2、最上部は一部破損)。その巣板は最大で直径約 25 センチの平らな円盤状で、上側にのみ多数の六角形の巣房がひしめき合って並んでいる。しかも円盤は 3 枚ほどあり柱で支えられた「3 階建て集合住宅」だ。だがミツバチの場合は巣板を横でなく縦にしており、巣房は水平方向に突き出る形でしかも表裏の両面にあってとても効率的だ。巣全体としては、巣板を 8 ないし 10 枚ほどを平行に並べている(写真1にも縦になった巣板がいくつか並んで見える)。

巣板が縦方向だとミツバチにとって面倒なこともある。尻振り(8 の字)ダンスでの情報のやり取りでは、方角を示す基準となる太陽の方向を重力方向へ読み替える必要がある(「ミツバチ日記(39)」)。もっとも、ミツバチの近縁の仲間でダンス用の踊り場を屋上に水平に作る種では、太陽光が射し込む方向を直接に方角の基準に出来るのでダンスは簡単だ。

巣板は薄いロウで出来ているので、ダンスの際に出る 250 ヘルツくらいの振動を遠くにまで伝えるには絶好の素材でもある。それがドイツのタウツ博士が言う「電話回線」で、仲間をダンスの場へと誘い出す仕掛けという(*)。

人間社会では以前からスクラップアンドビルド(非能率的な設備や組織を破壊して、新しい能率的なものに立て直すこと)というのが流行っていたが、ミツバチもかなり自由に巣の増設や取り壊しをやるようだ。12 月に入った今や、既存の巣板も一部はかじられて整理されている。新たに出来たスペースに皆で身を寄せ合って、「押しくらまんじゅう」で暖めあう。これが冬ごもりの標準的な体制だ。(尼 川タイサク)

注(*)、J.タウツ著 丸野内訳『ミツバチの世界』丸善。

マキノの庭のミツバチ日記(73)

ミツバチは優れた建築家(その2)

ミツバチが作る六角形の連なった美しい蜂の巣(ハニカム)はどのようにして出来るのか?前回は次の 2 説を紹介した。1、素材である蜜ロウのもつ表面張力などの物理的性質が主な要因で、六角形の筒として安定するという説。2、ハチは触角などを使い穴の形や深さを計測しながら組み上げていく説。

最近、2 の説に加担する説が発表された。山口大学など 3 大学 4 人の共同によるもの(Plos One 誌、2018 年)で、著者らはコンピュータ実験から「付着・掘削(くっさく)モデル」というのを提案している。

この新説では、ハチの群れによる単純な行動の積み重ねが、あの精緻(せいち) なハニカム構造の土台を作り出すという。つまり、巣箱の天板などに自ら分泌したロウを塗り付ける「付着専門」と、付いているロウを削ぎ落す「掘削専門」の二手の働きバチたちによる競い合いを想定している。私がここで下手な文章で理論の筋を説明するよりも、論文に参考資料としてあるアニメーションを見れば理解の手助けになるだろう(*)。

巣箱天井の基礎部分のでき方がこの説のポイントになる。まずは働きバチのあるものたちがロウ粒を分泌しそれを天板にくっつける。その一方で、別のハチがロウを端から剥ぎに来るのがいる。そうこうするうち出来てきたY字型のロウ片が出発点。その隣にまたY字型のロウ片が並べられ、またその横にY字片といった具合に繰り返しが進む。そのようにして服のファスナーの並びみたいなものができる。コンピュータ上で現れたこの構造は現実の巣の天井部分によく見られるものに酷似し、また巣板の断面(写真)に見られる霜柱のような形でもある。

以上、巣箱天井の平面に見られる土台部分(ファスナー構造とでも言おうか)の形成をまず見てきた。次に小さな建築家たちは重力方向つまり下に向かってロウの粒をつないで伸ばしていき六角形の巣房をもつ立体的な巣板を完成させる、といった筋書きになる。まるで流行の3Dプリンターみたいな働き方だ!

働きバチらは明確な意図をもってあるいは設計図をもって家造りをしているのだろうか。たぶんそうではないだろう。働きバチによる漫然としたロウ粒供給と剥がしの単純な作業が重なっていき、全体にバランスが取れて方向性をもった造成が起こることがこの説の基本になる。誰かの指図があるわけではないのに形がひとりでに出来上がることは生物集団の場合には多分にあり得る。我々人類の3Dプリンターは細部まで完全に指定された設計図に厳密に従っている。精緻な構造物作成で現れたミツバチと人間での違いが面白い。

この論文で述べられているような偶然の要素を持ちながら自ずと構造物が出来あがることを「自己組織化」と呼ぶことがある。これはシロアリの塚の形成など生命現象に(あるいは自然界全般にも!)あちこちで顔を出すキーワードである。ミツバチの社会形成にこれを適用する研究まであるという。

しかし、このハニカム作りの新理論は前に一歩踏み出したばかりのように思える。前回書いた巣板の「両面印刷」のズレ(透かして見ればわかる表と裏のズレ)もまだ説明されていない。ハニカムの謎が深まった面もあるように私には思える。 (尼川タイサク)

注(*)、ネットで Plos One のホームページに行き、検索欄に e36214 と入力すれば、この論文が読めて無料ダウンロードもできる。ユーチューブ動画は https://www.youtube.com/watch?v=w2Y1DNxY3Ss

マキノの庭のミツバチ日記(72)

ミツバチは優れた建築家(その1)

庭のニホンミツバチの巣箱を観察窓から覗く(のぞく)と、巣板の表面では働きバチが忙しそうに行き来し、小さい六角形の穴(蜜や花粉を貯めるほか蜂児も入るので巣房という)に頭を突っ込んでは何やらしている。厳しく長い冬を迎えるための蜂蜜などの貯蔵に余念がないのだろう。巣房の内にキラリと光るものが見えるのは蜂蜜なのか。

ミツバチの暮らしを支える巣そのものは昔からその構造ゆえにいろんな人の関心を惹いてきた。ミツバチの巣(ハニカム honeycomb)は六角形の巣房の集合からなる構造物だ(honey+comb でハニカム、comb はクシ状のものをいう)。この精巧で複雑そうな構造がどのように作られるのかというのが昔から謎としてある。

以前、我が家のニホンミツバチの巣箱で、その住人たちの逃げ出た後には掌の大きさくらいの巣板が残されていたことがあった(写真)。ほぼ 3 日の間にこれだけのものを作り上げていた。それを手に取ってみたら、軽いがしっかりした造りである。巣房のほとんどが水平方向にではなくやや下向きに突き出しているのがニホンミツバチの特徴(セイヨウミツバチでは逆に少し上向き)になっている。巣板の壁面では働きバチたちが上向き(セイヨウミツバチは下向き)の姿勢を取る傾向があるので、蜂蜜濃縮や蜂児の世話など作業をしやすいと、ニホンミツバチに詳しい久志さん(故人)は解説している。ハチの巣が実用面でも使い勝手がよいように微妙にデザインの手が加えられているのには驚かされる。

1 枚の巣板はその両側の面に巣房の群のパターンをもついわば「両面印刷」である。写真でも見られるように、巣板にあるそれぞれの小さな六角形の巣房の中に、プロペラのような三ツ星がのぞいている。これは、裏側に表と同じように作られたシートの六角形の一部(頂点付近)が透けて見えていることによる。つまりそれぞれの巣房は底部に三つ叉(Y 字型)の支えをもつ構造になっていて丈夫な隔壁をもつ。このように、幾何学的に精巧に、また力学的にも強度をもって作られ、機能的でコストも安上りな「建築物」をミツバチがいとも簡単に作っているのには驚嘆させられる。

ミツバチがハニカムを作る方法には主に 2 つの考え方がある。

1、働きバチは自ら分泌した蜜ロウ(ワックス)でカップ状の円筒を身の回りに作る。ハチの発する体温でロウが熱い状態では、円筒が周りの(お隣りさんたちが作った)円筒とくっついて引き合い、六角形の筒としてそれぞれが並びあって安定するという説(ロウのもつ塑性と表面張力による物理的性質が主因とみる)。
2、ハチはそれぞれが技術能力の高いエンジニアで、穴の形や深さを計測しながら単純な作業で組み上げていく説(隣り合った技術者同士で協力する)。ミツバチ建築家は自らの触角を物差しのように使うらしく、その先端を切り落とすと巣房がふぞろいになるという実験がある。

だが、1については、ロウを流動化させるほどの高い温度にならないとか、隣との干渉が必ずしもなくても単独で六角柱になるなどの反論があり、あまり説得力がない。2については具体的な説明を全く欠いている。どちらもこれという決め手がなかった。だが、最近になって、2を支持する面白い数理的な説明が発表されているが、それは次回(その2)に。(尼川タイサク)

マキノの庭のミツバチ日記(71)

ミツバチを惹きつける赤い花白い花

11 月も中旬になり、最低気温が 10 度を下回るようになり、秋が深まってきた。この頃、庭のニホンミツバチの巣箱に久しぶりの時騒ぎがあった。働きバチ後継者として若手が出て飛行訓練をしているのだ。体のサイズも一回り大きくなったように思える。

先月 10 月に巣箱に異常を感じて調べた際は、無力な若バチが多くいて、このコロニーの将来が案じられた。箱の最上部を取り出して中のハチを振り落としたら、地上に 200 頭以上の若いハチが落ちた。その連中は飛び上がりもせず地上をうろつくばかり。そこへ、数は少ないがチャキチャキの働きバチ姉貴が登場し若バチたちを誘導するかのような行動を見せた。彼女らは、地表から巣門に至る崖(といってもコンクリート・ブロック 1 個ほどだが)の 15 センチほどの高さを率先して登って見せたり、遅れている者のお尻を押したりして、若者たちを首尾よく巣門の中へ導いていった。最後の 1 頭が巣内に消えると、ギャラリー(私と他 2 名にすぎなかったが)から歓声が起こった。

その時の大勢の保育園児みたいに頼りない若バチ連中が、働きバチとして冬を越す重責を担うことができるのかと、私は心配してきた。それだけに、この時騒ぎの光景を目にすることが出来て一安心。さらに翌日には、侵入したキイロスズメバチを熱死させて巣門から放り出すところを目撃するに及んで、コロニーが活力を取り戻したことを祝福する気持ちにもなった。

そのミツバチにとっての主要な蜜源になっていたセイタカアワダチソウだが、最近は勢いがなくなり、黄色い穂先はシャンプーの白い泡のように文字通り泡だった姿に変身してきた。一方で、蜜源の主役交代をアピールするかのように、山茶花やビワの木に花が咲くようになった。今年初め、2 月の冬場の頃も、庭木のビワにその時期としては貴重な花がいくらか咲いてニホンミツバチが訪れていたが、すぐ後の豪雪の襲来であえなく散ってしまった。そのあと初夏の頃のビワの実の収穫はほとんどなかった。

そのビワの木に今は鈴なりのつぼみが付き、白い花が次々開いてきている。花の臭いに誘われてかいろんな種類のハチやアブ、ハエ、さらにはスズメガまでが現れて花蜜を漁っていく。体の大きいハチやアブに追い払われながらも、我がニホンミツバチもしぶとく争奪戦に加わっていた(写真1)。

JRマキノ駅の通路の両側にある花壇に、今はサルビアが真っ赤な花を咲かせている。サルビアはハーブで薬草のものもあるとか。ミツバチは赤色をほとんど認識できないが、臭いがいいのか 5,6 頭ほどが来て盛んに花に潜り込んでいる。ニホンミツバチがこんな派手な赤い花に採蜜に来ているのは珍しかったので写真を撮ろうとしたが、ハチの動きが早くすぐに花陰に隠れてしまうので、なかなか満足のいくのが取れなかった(写真2)。

そのうち小さな事件が起こった。この花は筒状になっている。その筒の中に頭を突っ込んで採蜜に夢中になっていた 1 頭のミツバチが外に出られなくなった。縞々のお尻だけを外に突き出したままでもがいているがうまくいかない。花蜜狩りのプロがこんな醜態を演じるなんて意外に思えたが、そのままでは可哀そうなので花びらを裂いてそこから解放してやった。そのドジなハチは礼も言わずに飛び去っていった。(尼川タイサク)

マキノの庭のミツバチ日記(70)

給餌器で採餌を助ける

先週末に点検で巣箱を開けた際、越冬のための貴重な貯蔵蜂蜜を失敬するといった暴挙をしてしまったので、ミツバチたちが見限って逃げださないように給餌を行った。はじめは、蜂蜜を含んだ巣板の欠けらを巣箱から離れたところに出して働きバチに吸わせていた。だが、そのうち来ているミツバチの間に喧嘩が起こり、争いで命を落とすものまで現れた。吸い終わったミツバチは大概が裏庭の巣箱の方に戻っていったが、一方で近くの板塀に停まって数頭が休んでいるのも目についた。この休憩している連中はおそらく他の巣から遠征に来ているのだろう。

思い当たるのは駅に行く途上にある 1軒の家だ。別荘として使われ庭に巣箱が置かれているがもう 5年ほど空箱のままだった。月に 2回ほどはそこのオーナーが来て野菜作りに精を出す姿が見られた。今年の夏、その巣箱にニホンミツバチの群れが自然に入ったそうだ。にぎやかになった巣箱を通りがかりに見つけて、そこの家の方と話し込み知り合いになったのはごく最近のこと。

その家から私の家まで直線距離にして 300メートルほど。盗蜜に来れる距離だ。だが他の巣かもしれない。逃蜜は本格的になると厄介で大群が来ると収拾がつかなくなるらしい。去年の 8月にもそれに近い騒動があり(ミツバチ日記(28))、早めに手を打つことが大事。

そこで、給水器を使うことにした。水を入れたガラスコップに布巾をかぶせ、瞬間的に逆さにして台の上に伏せたままで置くと、わずかに布からにじみ出る水があるが、ほとんどの水はコップの中に留まっている。この原理を利用したものに小鳥などへの給水器があるが、ミツバチにも砂糖水を入れて使う給餌器として市販品がある。

それを教えてくれたのはハチ友の井上さんで、中国製なるプラスチックの製品も一つ頂いていた。それは巣門の隙間から 10センチほどの長さの給水路(ミツバチの側にとっての吸い口)を奥へ差し入れて使うタイプで、巣箱の内側で吸蜜するため逃蜜予防になるものだった。ただ、セイヨウミツバチ用のものだったので給水路の高さが 1センチだった。それをカッターナイフで削って低くし、高さ 5ミリほどにした。それにより、ウチのニホンミツバチの巣箱にも使えるようになった(写真)。

だが当初は巣箱での実地テストに失敗。ボトルの中身がとくとくと流れ出てすぐになくなったり、途中で流れが止まって給水路が干上がってしまったり。充填した糖液と給水容器のプラスチックとのなじみ具合(表面張力など?)の関係が、思ったより微妙なのかも。容器を洗剤でよく洗ったりツマヨウジを給水路への入口に2本入れてガイドにしたり、などしてうまくいくようになった。

蜂蜜とキビ砂糖を等量の水に溶かして餌として使ってみた。夕方に給餌器に入れておいたのを翌朝に見に行くと、始めは 100ミリリットルくらいあった糖液がきれいに空になっていた。思ったより大量に消費してくれている。この給餌を 3日 間、夕方から翌朝にかけて続けた。

4日目の夕方、ハチたちが巣門の前に 10頭ほどが集まってうろうろしている。まるで給餌を覚えていて催促するかのようにみんなで私の顔を見上げるのだ。「あまり給餌しすぎるとブタになるよ!」という連れ合いの言葉で中断したわけではないが、その日は忙しくて給餌しなかった。しかしブタのようなミツバチって想像が難しいナ。(尼川タイサク)