マキノの庭のミツバチ日記(83)

「待ち箱」を置いて一から始める

前回の日記にも書いたが、庭の巣箱中のニホンミツバチたちは、ほんのひと塊が巣板の間に見える程度の小勢に落ちてしまっていた。この様子だとそのうちに消滅は必至。コロニーが大きくなり分蜂(巣別れ)に向かって期待が高まる時期だが、今年は裏目に出た。

4 月に入っても、季節外れの感じがする雪やアラレが降る日があり、気温が摂氏零度近くまで下がった。ミツバチも小勢では体温を保つのが難しい。この寒さではとても生きてはいないだろうと思っていたら、寒風によろめきながらも外から帰って来る働きバチが 2、3 頭いた。その健気な生き残りのハチたちは仲間のために花蜜を持ち帰っているのであろう。自分一人で蜜を飲んでそのままどこかに姿をくらますようなことはしない。蜜は群れの仲間で分け合うし餓死するときは平等に死ぬ。

4月上旬も過ぎるころ巣箱の出入りがほとんど見られなくなった。私もさすがにこのコロニーを見限ることにし、重箱型巣箱の各段を切り離し解体して中を調べることにした。蜂蜜はほとんどなく蜂児もいない。50 頭ほどの働きバチが箱の隅に固まっているのみ。女王バチを欠いたいわゆる「無王群」だ。3 月初め頃はまだハチ数が十分あったように見えたのだが、次世代を産みだすことがうまくいかなかったようだ。この1群は冬越しに失敗していたことになる。

この巣箱の群の履歴を思い出してみると、たしかにいろいろあった。昨秋の台風襲来時には群れ全体で逃げ出すそぶりを見せていたのを、スプレーで水をかけて脱出を阻止したのだった。その後も、若バチの発達の遅れを気にするなど何かと心配させられた「問題児」であった。

コロニーとしての生命を終えた巣の生き残りのハチはもはや生きものではないなどと言う人もいる。けれども、彼女ら働きバチの健気な振る舞いを目にしてきた私としては、このまま箱をつぶして生き残りを飛散させるのも忍びない。一旦は箱を元のように置いておくことも考えたが、結局は低温麻酔で勇士たちを安楽死させることを選んだ。

だが、分蜂の起きるこの春の盛りに何もしない法はない。気を取り直して、数個の「待ち箱」(分蜂群を誘い入れるための空の巣箱)や分蜂群捕獲の仕掛け(トラ ップ)を庭のあちらこちらに置くことにした。待ち箱の内面には蜜ロウと蜂蜜が塗ってある。ハチ友の井上さんからもらった新作の仕掛け(トラップ)2組を庭に置くことにした(写真1)。分蜂で巣立ったニホンミツバチをその特有の香りで惹きつけるというキンリョウヘン(蘭の一種)の鉢をトラップの下部にセットする。その上に底板をはずした待ち箱を置く。キンリョウヘンの香りが箱の中に充満し、やってきた群れを誘い込む仕組み。もし群れが入れば箱ごと取り外して底板を取り付ければ立派な飼育用巣箱になる。

ただ、キンリョウヘンの花が咲くタイミングを合わせるのが難しい。冬中、暖かい部屋において花芽が出るようにしておいたので、何とか花が開きそう。過去にも分蜂群が他所から来て待ち箱に入ったことは数度あった。最近も、近くの道端に咲いたこぼれ種から咲き出た菜の花に、どこからきたのか数頭のニホンミツバチが採蜜しているのを見かけている(写真2)。確率は低いが望み無きにしもあらず。こうして、また飽きもせずにウィズ・ビー・ライフがリセットとなった。(尼川タイサク)

マキノの庭のミツバチ日記(82)

春なのに消滅の危機

3 月 24 日朝、近くの山々に雪がかぶっている。先週は平地にも少しだが積もった。最高気温も摂氏 7 度前後で、風速も毎秒 5 メートルくらい。寒くて風が強いとミツバチはなかなか巣箱から出てこない。今頃には増えているはずの若バチもそれほどには目立たないし活動的でもない。長いことつぼみをつけたままであった庭のサクランボの木にやっと白い花が咲き、それが満開になって麗しい匂いで誘いをかけているというのにこの有様。

昨年、そのサクランボの木は今と同じ頃に花が満開になり、その時は数十頭のハチがすぐに漁りに来ていた。今は、ヒヨドリがその満開のサクランボの木に居座り、我が物顔に花を丸ごと食べまくる。妻 Y が腹に据えかねたように飛び出して行って盗蜜者を追い払うが鳥はまたすぐに戻って来る。

今年は暖冬と言われながらも冬将軍はこの地にまだまだ未練が残るような気配だった。翌日の 25 日も気温は明け方に氷点下になり霜が降りた。満開になっていたサクランボの花も一部は前よりも色褪せて見える。だが昼には天気が穏やかに。晴れ間がときどき現れては消える。気温は 12 度くらいに上がった。昨日まで手持無沙汰のように立ち尽くしたサクランボの木は、昼近くになってブンブンと心地よい羽音をたてるにぎやかな客の 20 頭ほどを迎えることになった(写真1)。

そのうちに気が付いたのは、どうも庭のニホンミツバチの巣箱での出入りがぼつぼつで低調な感じ。おかしいと思って巣箱の底にスマホを入れて写真を撮ったら、中のハチたちはほんのひと塊が巣板の間に見えるのみ。いつのまにか勢力が落ちてしまっていた。ミツバチは「超個体」と言われるように、分業をこなす多くの家族からなる有機的集団があって初めて一個体のようにして生き続けられる。今のこの劣勢の様子だと消滅は時間の問題かも。春を迎えコロニーが大きくなり分蜂(巣別れ)に向かうはずのこの時期だが、事態は思ったより深刻だ。我が家にたった 1 個だけ残った巣箱を失うことには無念の思いが湧く。たいへん残念だが現実を受け入れざるを得ない。

働きバチの寿命は普段は 1 か月ちょっとだが、冬場に限って 3 か月ほどに延びるといわれる。昨年暮れごろから無理して働いてきた子育て役の働きバチが老齢で次第に姿を消し、若バチの世話ができていないのかもしれない。一方で、翅に異常をきたし飛べなくなって巣箱から脱落していく老齢のハチも少数ながらいる。これらは寄生ダニ(アカリンダニ)の影響があるのかもしれない。また、女王バチの出産も不調で次世代の再生産がはかどらなかった可能性もある。個体数激減の原因を突き止めるためには巣箱から中の巣板まで外して巣房を点検してみなければ分からない。

だがまだ威勢よく羽音を響かせて外勤に向かうものや巣に帰還するのが少数ながらいる。それ等がいるかぎりは巣箱に手をつける気が起こらない。せめて短い余生を過ごしてもらうことにした。巣箱に住民がいなくなる日は近いかも。Y は「せめて最後は腹一杯食わせてあげよう」と言いつつ小皿に入れた蜂蜜をまるで「炊き出し」みたいに巣門へ差し出していた(写真2)。(尼川タイサク)

マキノの庭のミツバチ日記(81)

ミツバチにもマスクが要るかも

冬ごもりの虫が地上に出てくるという「啓蟄(けいちつ)の日」も過ぎて 3 月 8 日が来た。この日は「国際女性デー」の日であるが、語呂合わせで「ミツバチの日」とも言うらしい(ついでに言うと 8 月 3 日は蜂蜜の日)。庭のニホンミツバチの巣箱はすでに防寒具も取り去られた姿となっていたが、この日には台座部分を新しいものに取り換えることにした。古い方には巣屑が溜っており、雨で湿ってこびりついていて、巣板を蝕むスムシを呼び込みかねない有様だった。

巣の下方を覗くと、こぶし大ほどに小さくなっているがハチの群は生き残っているようだ。働きバチの出入りはにぎやかとは言えない。それでも昼過ぎの少し暖かい頃には若いハチが出てきて飛行訓練をしていた。一方、私の目の前の石に止 まって、人目もはばからず(?)トイレをしては巣箱に帰っていくハチもいた。

閑散とした早春の庭にも春が寄ってきている。庭木のサクランボにはつぼみがはち切れそうになり開花への期待が高まる。とはいえ、若バチを迎える環境は芳しいものではない。このあたりでも環境悪化が進んでいる。まず蜜源となる花が少なくなった。巣箱からは少し離れているが道路沿いにあった山茶花の並木が、200メートルほどに渡って刈り取られているのには愕然とした。昨年秋の台風の後には、被害を受けた県道沿いの百日紅の並木がごっそりと伐採されて整理されていたのは知っていたが、同じ運命をたどったのだろうか?ここは冬の時期に頼りにしている数少ない蜜源だったからとても残念。レンゲ畑も毎年姿を消してきてい る。

冬の間澄んでいた空気にも濁りが見られるようになった。毎年、3 月から 5 月にかけての大気汚染の主犯は黄砂、花粉、PM2.5 だが、今やそれらが出そろった。最近話題に上がるのが PM2.5 という大気中の微小粒子状物質。大気中を漂う微小物質の内、粒子の直径が 2.5 マイクロメートル(マイクロは 100 万分の 1)以下のものをいう。大きさで比較すると人の髪の毛の太さの 30 分の1以下なので肉眼では見られない。

中国では石炭が暖房燃料の主力になっていて大量の発生源の一つだという。中国のお隣の韓国では、飛来した高濃度の PM2.5 で非常事態に。韓国メディアは 3 月 4 日、PM2.5 の緊急低減措置がソウル首都圏で初めて 4 日連続で発令されたと報じた。白く濁って見えるソウル市街地とマスク姿の人々の報道写真はインパクトがあった。その厄介な浮遊物は偏西風に乗って日本にも及ぶ。ここ数年、この滋賀県にも大陸から時々張り出してきた汚染帯に巻き込まれるようになった。私も最近では咳き込んだりタンが切れなかったりしていて、花粉症よりも PM2.5 の影響を疑っている。気管から肺に入っていく PM2.5 が呼吸器や循環器の奥に侵入して脅威を与えることは最近広く知られるようになった。

ミツバチがマスクを着けた姿(イラスト)は変?たしかに昆虫は人のような肺呼吸ではなくて気管系で呼吸するので、口の辺りをマスクで覆ってもナンセンスだ。胸と腹の両側に小穴のように開口している気門に装着することが必要(そんなマスクは今のところないが)。人について害が言われている PM2.5 だが、ミツバチについても害がない訳はないと思う。誰かその辺のことを研究している人がいるのだろうか?今はミツバチにもなにかと多難な時代だが、たとえ細々とでも生き延びて勢力回復に至ってほしい。(尼川タイサク)

マキノの庭のミツバチ日記(80)

あいまいさのあるダンス言語、でもそれもOK

ミツバチが活躍する季節がきてウチの働きバチたちも盛んに飛び始めた。彼女らの収穫ダンスが活発に繰り広げられるのだろう。だが、ダンスそのものの役割や信頼性への疑問も昔から出されてきた。もちろん、8 の字ダンスのベクトル情報 (距離と方向を示す)が確かに餌場や新居の位置を示せるしダンスに追従する働きバチ(フォロワー)を導くことは既に多くの実験で証明されている(日記でも度々取り上げた)。だが約 10 年前にアルゼンチンでなされた野外実験は、ミツバチのダンス言葉への思い込みを破るものであった。

特殊な実験条件の下でだが、ダンスのベクトル情報を優先するか、臭いによる場所記憶優先かで綱引きさせた実験がなされた。それによるとダンスに無関心なハチがいて、たとえ 2、3 回はダンサーに追従してみてもその情報を無視して、自己の記憶を優先し別の餌場に行くフォロワーがいるとのこと。また他の研究者からは、8 の字ダンスがミツバチ脳の 100 万個ほどと数少ない神経細胞でもって解読出来るか疑問だ(私はそうは思わないけれども)とし、ダンスをくしゃみか汗のような生理的反応みたいに見る辛口の見解すら出てきた。

ダンサーが持ち帰った餌サンプル(蜜や花粉)の臭い自体は、フォロワーが餌場の位置を知る手掛かりになることがある。臭いだけでは遠くの餌場の方角を直接指すことは出来ないけれど、フォロワーにその臭いのある場所を訪れた記憶があれば、場所の地理的位置も思い出して出発出来るだろう。これにも高い記憶力が必要だが昆虫独自の進化を遂げた神経回路をもつミツバチには可能であろう。

一方、見ていても分かるのだが、8 の字ダンスの直進部(尻振り走行部)が示す餌場の方角も必ずしも一定ではなくて角度で±15°くらいの誤差を含む。あいまいさを含む情報のもとで採餌行動を行うので収穫に失敗する確率も小さくはないと一応は予想される。このことは岡田博士(徳島文理大)らによって詳しく調べ られている(「計測と制御」誌、2007 年)。

誤差が大きいのは生物の世界では当然のことだが、ミツバチでは大勢の群でもってダンスで指示された方向に動くので、とるべき方向が行動学的な理由で平均化されて誤差が小さくなることがある(**)。たとえ誤差が大きいために探索範囲にかなりの幅が出るとしても、新たな餌場の開拓に繋がることを考えると必ずしも無駄ではないだろう。また、巣別れでの新居探索では精度を上げる可能性もある。

なお、ダンサーが巣に戻ってダンスをするときに、特殊な臭いを放出することがあるらしい。フォロワーを呼び寄せ収穫出動を促す動員物質が 2007 年に発見され同定されている。

ダンスコミュニケーションは、「8 の字ダンスのベクトル情報」「サンプルと臭いの持ち帰り」「動員物質放出」「千鳥足歩き(日記 29)」「巣板の振動伝達」など行動の進化の結果として得られた総合的な性格のものであろう。

8 の字ダンスがあいまいで時には無視されると聞かされると、ミツバチの賢いイメージが損なわれるように感じるのは頭でっかち人間の想うこと。むしろ多面的で総合的な行動をとるミツバチの姿が分かり、一層認識が深まったと受け止めたい。(尼川タイサク)

注(**)、フイッシャー著松浦訳『群れはなぜ同じ方向を目指すのか?』(白揚社)で、レイノルズの規則として解説されている。

マキノの庭のミツバチ日記(79)

よくある質問から(その3)

「よくある質問」で前回紹介できなかった分を追加しました。

Q13「ニホンミツバチを飼いたいが?」
*私は飼育のハウ・ツーは不得手ですが、浅い経験の範囲で答えます。ニホンミツバチは飼いやすいのでお勧めです。ミツバチがいる環境ならば、巣箱を用意すれば勝手に入ることもありますが、近年は数が減っているようでなかなか入らないとの声も聞きます。まずは近辺で巣箱を置いて飼っている方に話を聞くことをお勧めします。分蜂の時には分けてもらえることがあるかも。飼育の本を紹介するとしたら、私が愛読した『ニホンミツバチが日本の農業を救う』(久志冨士男著、高文研)、そして実践的で多様な視点のある本としては『僕の日本みつばち飼育記』 (安江三岐彦著、合同出版)でしょうか。ネットなら沢山出ています。飼う際は飼育届(滋賀県は農業農村振興事務所)を忘れずに。

Q14「ニホンミツバチ巣箱はどのようなものがよい?」、「教えてください、ミツ バチの住みやすい巣箱を作りたいです。場所は富士山の雑木林・・・。」
*ニホンミツバチ用の巣箱もいろんなタイプがあります。多いのは桝(マス)形の枠を積んだ重箱型。自然界の木の洞に近いのが丸洞型、巣枠を収めて取り出せるようにした縦型と横型巣箱など。また飼う人のポリシーやニーズによっても様々。神経質でシャイ?なニホンミツバチの生活にあまり干渉しない静観主義か、蜂蜜収穫が主目的か、あるいは巣の中の行動や生態を観たいかで巣箱もそれに適したものが選ばれます。また養蜂で一般的なセイヨウミツバチ用のラングストロス式の横箱で巣枠間の距離を縮めて使っている方もいます。寒冷地では巣箱の板は厚いものがいいでしょう。ネットでも「ニホンミツバチ」の検索で、色々紹介されています。私のハチ友の井上さんが作って譲ってくださった巣箱は、厚さ2 センチの板からなる頑丈なもので、掃除しやすく観察窓もある重箱型で、気に入って使っています(この日記にも写真を時々出してきました)。ミツバチまもり隊で作っているのは臼井健二さん仕様(**)を参考にしてアレンジしたもので(写真)、作りやすく安価です。

Q15「ミツバチを飼いたいけど周りへの影響が心配ですが」
*どのような場所での飼育を考えておられるのか、飼育場所(サイト)とロケーション、その近隣の人間関係など環境の具体的な条件が分からないとお答えが難しいです。まず隣の人家とある程度離れている必要があります。ミツバチは巣箱と餌場(花畑など)を直行するし、空からダイビングみたいにして静かに巣にもどってきます。あたりを無目的にうろつくことはあまりありません。1 箱 2 箱なら気にならないほどです。ただ、排泄物を巣の近くの白い洗濯物などに着けることがよくあります。一番心配なのは春の分蜂時の「乱舞」の時で、初めてそれに出くわすと、一般の方はパニックになるかもしれません(乱舞はたいてい 20 分 以内で静かになりますが、蜂球がどこに作られるか、生活上困る場所の場合もありえます)。また、飼育サイトにはある程度の広さ、庭木や花壇がある領域が必要です。そうすると騒ぎもその範囲で収まる場合が多いです。また、近所の人には日ごろニホンミツバチの大人しい性質など話して理解していただける素地を作っておくのも必要でしょう。(尼川タイサク)

注(**)、 『日本蜜蜂巣箱』 http://www.ultraman.gr.jp/perma/nihonmitubtisubakotukurikata.pdf

マキノの庭のミツバチ日記(78)

よくある質問から(その2)

前の号からの続きで、よくある質問をあげてみます(*はとりあえずの回答やコ メント)。まずは蜂蜜についての前回の続きから。

Q7「ニホンミツバチとセイヨウミツバチでの蜂蜜の違いはありますか?」
*作る蜂蜜の量と味が違います。養蜂家の扱うセイヨウミツバチは特定の花(例えばレンゲとかアカシアとか)の花蜜を集める傾向があります。花によっては色と匂い、蜜を出す構造などに特徴があり、同種の花だと蜜の採取作業に習熟できて働きバチには能率的だと説明されています。一方、ニホンミツバチの蜂蜜は様々な花から集められるので百花蜜と言われます。その味は深みがあり格別に良いと私は思います。ただ採れる量がセイヨウミツバチに比べ三分の一程度と少ないので貴重です。

Q8「蜂蜜の入ったままのワックス(巣)ごと食べてもいいのですか?」
*この質問はたまにあります。蜜をたっぷり収めた巣板(写真)の一部を切り出して売られている場合もあります。この巣板の素材はミツバチが体内から分泌した自然のワックス(ロウ)なので、食べても大丈夫。このまま口に入れて噛めば舌上に流れ出る蜂蜜の本来の素敵な味が堪能できます。残ったロウのかすは吐き出せばいいのです。

Q9「ミツバチの寿命はどのくらい?」
*女王バチの寿命は 3 ないし 4 年、働きバチはずっと短く 40 日くらいです(ただし越冬の時期は延びていて 3 か月くらい)。

Q10「寒い冬をどうやって過ごす?」
*巣の中では働きバチが集まって玉みたいになり「押しくらまんじゅう」みたいにこすりあい、胸の筋肉を震わせて熱を出すなど暖房装置になります。その場合食べた蜂蜜の糖のエネルギーが筋肉において熱に変えられますので、蜂蜜は冬場の貴重な燃料でもあります。

Q11「女王バチが雄から得た精子を 2、3 年も保存できるのはどうして?冷凍じゃないですよね。」
*精子や卵子は DNA の運び屋で比較的単純な細胞構造をもつので、人でも液体窒素中で冷凍保存ができます。ミツバチの場合はもちろん冷凍ではありません。ミツバチと同じ膜翅目のアリの女王はなんと 10 年も生き、精子を保存できるとか。ミツバチの女王は最初の交尾で得た精子を受精嚢(のう)に保存し、一生の間にすこしずつ使います。精子は動きを止められ代謝の低い状態になっているそうです。また、精子自体が強い抗酸化作用をもち、それに適合したエネルギー代謝系(活性酸素を発生しない解糖系)が採用されているそうですが、まだ詳しいことは分かっていません。

Q12「ミツバチ減少の原因の一つといわれる農薬ネオニコチノイドは世界中で問題になっているそうですが、なぜ日本ではそんなに取り上げられないの?」
*ヨーロッパ(EU)や米国などでは以前から問題になり、全面禁止や規制を進める国が次々出ていますが、残念ながら国内では関心が低い現状です。この問題は農業生産や農政に複雑に関わる面が大きく、製薬大企業と農産物生産・流通の巨大機構も絡んでいますので、マスコミ報道も慎重(よく言えば?)になっているのではないでしょうか。でもネオニコ問題は国民の健康、特に子供の発達にも影響しかねないので、無視できないと思います。

まだありますが、この辺で終わりに。なお、ミツバチ(とりわけニホンミツバチ) 愛好家としての回答やコメントですので、偏りがあるかもしれません。(尼川タイ サク)

マキノの庭のミツバチ日記(77)

よくある質問から(その1)

去年は、庭の巣箱を見学に来た人たちに説明したり、30 名ほどの会に呼ばれてミツバチの話をしたりする機会が何度かあった。話をすると必ずのように様々な質問がくる。それらの質問が結構面白い。よくあった質問を以下にあげてみる(*はとりあえずの回答やコメント)。

Q1「ミツバチは刺すので怖い?」
*スズメバチやアシナガバチは刺すことがよくありますね。でも巣への接近や悪さを人から仕掛けない限りは大丈夫。ミツバチ、特にニホンミツバチは、めったに人を刺しません。優しい気持ちで接すると相手も穏やか、つまりあなた次第です。ただ、冬場は気が立っているのでご用心。私が巣箱を掃除しようと手を出したとき目が合って(?)、刺されたことがあります。

Q2「ミツバチは仲間同士で喧嘩しないの?」、「家庭(巣)内暴力は?」
*同じ巣の仲間同士ではふだんはとても親密。働きバチ同士が喧嘩しているのを見たことがないです。ただし、春の王女姉妹同士の女王座獲得の争いや秋の雄バチ追い出しは別です。

Q3「女王バチになれるのはどんなハチ?」
*蜂児(幼虫)の時のローヤルゼリーの与え方で、女王になるか働きバチになるかが決められます。王台という特別育児室の蜂児には羽化するまで、普通室の蜂児(大多数)には初めの 3 日間のみ(後は蜂蜜と花粉)、与えられます。前者は遺伝子がスイッチ・オンで女王モードへ導きます。おや、誰ですか?ゼリー買いに走ろうとする女性は。もう遅過ぎですし、人には保証できません!

Q4「なぜミツバチは遠くに行っても自分の巣に戻れるの?」
*近ごろの研究で、ミツバチの持つ高度の認知能力や記憶力が帰巣を支えていることが分かってきました。ミツバチの脳の中にできた「地図」のイメージに頼るとの論文も出ています。

Q5「私の家にハチが勝手に巣を作った。どうしよう!」
*ミツバチが棲み着くというトラブルはよく聞きます。私が関わったケースでは、民家の屋根裏にハチが棲み着いて、数条の蜜液が壁伝いに垂れたり就寝中にハチに刺されたりということも。その時は依頼したハチ飼いグループが駆けつけて無事に取り除きました。その家の天井裏にニホンミツバチの立派な巣が出来ていましたが、暑さのためか一部の巣板が欠け落ちていました(写真)。一方、ある人は 自宅の庭にいつの間にかミツバチが集まって一抱えの蜂玉ができ、不安を感じたといいます。役所に相談したら「ほっとけばその内に消えます」との回答。ハチは 7 日目に居なくなったとのことでした。出て行った後には、プラスチック状のものが残ったとのこと。たぶん野生のニホンミツバチだったのでしょう。確かに「ほっておくとどこかに去る」のは正しいです。だが都会人にとっては受け入れがたい答えかもしれません。7 日間も居座ったのは、よい新居を見つけられず仕 方なく巣板(置き土産となった)を作ったのかも。

Q6「蜂蜜が好きで毎日大量に食べているが大丈夫か?」
*蜂蜜は糖尿病の患者には良いという人もいますが私には真偽は分かりません。蜂蜜にはブドウ糖が大量に入っていますので、食べ過ぎると肥満になるかもしれ ませんね。最近、神経毒の農薬ネオニコチノイドが極微量に残留するということが報道されていました。今のところ健康に問題ない程度とのことでしたが。

他にもまだありますがそれは次号、今日はここまで。(尼川タイサク)

マキノの庭のミツバチ日記(76)

コタツ読書で旅した二つの世界

年末年始は一時的に雪が降り積もっていたがその後は一休みとなったこのころ、ミツバチはほとんどの時間に巣にこもっている。晴天の小春日和には出入りがあり時騒ぎもあって、私はちょっと安心。冬枯れで暇になってきた近ごろはコタツに入って本を読むのが楽しみだ。

手元の 1 冊は、書店でたまたま見つけた J.スウィフト著『ガリバー旅行記』(山田蘭訳・角川文庫)。航海中に難破して小人の王国に流れ着いたガリバーの話はおなじみで、高島市のJR近江高島駅の東側には、小人の国の軍船をヒモで捕らえたガリバーの大きな像が立っている。だがこの文庫本は世に出ている子供向きの絵本などとは違う。

初めのところで、小人の国の人々とガリバーの交流が始まる場面を読んでいて、わが庭にいるミツバチたちから見たら私はガリバーみたいに見えるかも、などと想像して楽しかった。だが読み進めると、本の中の小人の世界はパワハラあり、忖度(そんたく)あり、陰謀画策ありのドロドロの世界。著者の生きた 18 世紀ころの英国社会が風刺されているようだ。加えてガリバーの奇想天外な行動(下ネタ?)に、こんな本だったのかと改めて驚いた。

もう一冊は、原野健一博士による『ミツバチの世界へ旅する』(東海大学出版部) というもの。本の帯に「もう一つの社会を作る巧みなシステム。その核心に迫る!」とある。現役ミツバチ研究者の手によるセイヨウミツバチの行動全般に及ぶ解説で、特に行動を成り立たせるシステムについて詳しい。研究者としての成長過程や発見に至るスリルや喜びなども記されていて、読み物としての工夫もなされている。

「リーダーを持たない不思議な社会」の項では、人間の世界のようなトップダウンの指示系統がなくても、メンバー同士の協調が生まれる巧妙な仕組み(自己組織化)があるという。その仕組みは色々だが一つは匂いによるコロニー識別が重要な柱だ。ミツバチ個体同士が接触することで体表のワックス中の臭い物質を交換し、メンバー全体に同じ匂いが固有の指標として均一に行き渡るようにしているらしい。またミツバチが巣板に触れることも同様の意味をもつ。他所のコロニ ーから盗蜜に来た盗人蜂が門番に見過ごされることが現実にあり、私も不思議に思っていたが、その場合も、この匂いへの何らかの操作があるのかもしれない。だが答えはまだ先のようだ。

フェロモンや体臭(そのほか振動や音など)の複雑な信号系のシステムでまとめあげられたミツバチの社会は、ガリバーが相手をした人間臭プンプンのミニアチュア社会とはまたひどく異なる。生物進化を反映した独特の合理的な造りになっていることが、読んでいて汲み取れる。

他のところで私が興味を惹かれたのは、「女王蜂の脳内物質」と「ミツバチの燃料調節」のあたり。ダンスコミュニケーションにまつわる不正確性もよく整理されて分かり良い。それぞれは私個人も深く知りたい内容だが、それについてのコメントはまたの機会にでも。

原著論文リストと図版のデータが豊富であり統計上の有意差表示がわずらわしいほどに出ているのは、読者に学部生・院生など未来の研究者向けを意識してのことだろう。だがこの単行本は、一般のミツバチの愛好家にとっても最新の研究にアクセスする良いガイダンスの役を持つと思う。いろいろ勉強になる点が多かった。(尼川タイサク)

マキノの庭のミツバチ日記(75)

ミツバチからの年賀状

大陸からの寒波襲来で凍えるような寒い年末年始になった。暮れの 28 日の朝には 5 センチほどの積雪で、その後は 3 日間降り続いた。最低気温は 0 度前後に。そうこうしているうち新年を迎えた。

日ごろ世話をして面倒をみている庭のニホンミツバチたちから年賀状が届いた・・・てなわけないか!ということで、ミツバチの「気持ち」を勝手に代弁しつつ、大家さん(私)に宛てた数行の年賀状を考えてやることにした(イラストは本文とは一応無関係)。

『昨年中は大変お世話になりました・・・』(ん!まったくね。でもこちらもいろいろ楽しませてもらった)。

昨年のことで印象深かったのは、分蜂(巣別れ)が 1 日に 2 回もあったこと。捕獲ではてんてこまいしちゃった。えっ?捕まえずにそのまま逃がしてくれればもっと幸せだったかも?そいつは悪かったねー。でもいまさら仕方ない。

天候が悪いこともしばしばで、よく巣箱の心配もしたっけ!7 月の豪雨に 8 月の酷暑。気温 30 度を大きく超える日が続き、巣箱の天板に冷却のための保冷剤のパックを置く毎日だった。秋になって巣箱の住人に見られた生育の幾分かの遅れは、この酷暑も一因ではないかと私は疑っている。そして極めつけは 9 月の超大型台風だった。マキノ町でも大木やコンクリート電柱が相次いで倒れるような暴風だったが、巣箱は運良く持ち堪えてくれた。その後だったか巣箱の群の一つが逃げ出していったのは。残った 1 群が今、年を越すまでに至っている。だがこの群も、生育の遅れや異臭騒ぎ(実はセイタカアワダチソウのハーブ臭)など、いろいろ心配させてくれた。

ミツバチたちの大敵、農薬ネオニコチノイドも心配の種だった。ラジコンヘリによる散布は 8 月初めにあり、巣箱を霧状のドリフト(浮遊物)から守るのに神経を使った。残留効果も高いといわれる農薬なので気が抜けない。採取した蜂蜜サンプルをネオニコ残留検査に出した。結果は、人に問題になる濃度以下ということだったが。この検査ではミツバチへの影響に関しての情報が得られず、なんともいえないもどかしさが残った。

でも世界に目を向ければ進歩したところもあった。EU(欧州連合)はネオニコ 3 種の完全使用禁止(一部例外あり)を各国代表の投票で決定した。世界の趨勢に逆行するようにネオニコ規制緩和の続いた日本国内では目立った進歩はない。だが自治体のいくつかで、ネオニコ禁止や斑点米の基準の緩和を求める意見書が議会で採択されているのは希望がもてる。

『今年も昨年に変わりませずよろしくお願いします。庭のニホンミツバチより』 (こちらもよろしくね。でもさしあたりは、この冬を無事に乗り切ってほしい)。

今年の課題なり抱負はどうか。ミツバチにはそういう「未来」の概念は全くないかもしれない。私個人で言えば、まずはこの高島市の地にニホンミツバチをもっと増やしたい。去年の春に我が庭の巣箱から分蜂した内の 2 群を他所に分与した その 1 つは、残念なことに秋ごろに熊に襲われ失われてしまった。残る 1 つは無事で今もコロニーを保っていると聞く。

ミツバチを守ることが人間にも住みやすい世界を作ることになると思ってここしばらくやってきた。その世界を見るべく一歩でも近づきたいのだが、目標があまりにも遠くに感じられる。今年もミツバチまもり隊の会員の皆さんとせいぜい頑張りますか!(尼川タイサク)

マキノの庭のミツバチ日記(74)

ミツバチは優れた建築家(その3)

先週はここマキノの平地でも初雪が降り、少しだが積もった。前の日にウレタン製の厚手の板を巣箱側面や天井に貼り付けるなどしてとりあえずの防寒対策をしていたのでなんとか間に合った。ミツバチもこの寒い時期に家があることに有難味を感じているだろうか?だがミツバチにとっての家は、私たち人でのイメージとだいぶ違う。

巣の中でミツバチ成虫が通常いる場所は、たいがいは巣板の表面か巣板と巣板の間の狭い空間だ。それぞれの巣房(六角形の小穴)は貯蔵庫か育児ベッドになる。前回の「ミツバチ日記(73)」に巣板のでき方の新説を紹介した。そこで出てきたファスナー様構造がくっきりと見える写真を最近になって見つけ出した(写真1)。 魚の白い骨みたいに見えるのがそれ。10 月頃撮った庭のニホンミツバチの巣箱のものだ。観察用のガラス窓に直(じか)に増設中のファスナー模様が記されてあり、その白さは使われたロウが新しいことを思わせる。元からある巣板を窓側に拡張してきている。なんと巣房の断面図で見える部分に琥珀(コハク)色の溜まり(たまり)があるのは蜂蜜のようだ。蜜を沢山の巣房に分け入れて表面積を広げることで水分の蒸発量を増やす。それが蜂蜜濃縮の一つの方法だ。

スズメバチなどハチ類はたいていが水平に作った巣板を何段か積んでいる。数年前のことだが、知人の家の天井裏からキイロスズメバチによる不法占拠後に残された巣を取り出したことがあった(写真2、最上部は一部破損)。その巣板は最大で直径約 25 センチの平らな円盤状で、上側にのみ多数の六角形の巣房がひしめき合って並んでいる。しかも円盤は 3 枚ほどあり柱で支えられた「3 階建て集合住宅」だ。だがミツバチの場合は巣板を横でなく縦にしており、巣房は水平方向に突き出る形でしかも表裏の両面にあってとても効率的だ。巣全体としては、巣板を 8 ないし 10 枚ほどを平行に並べている(写真1にも縦になった巣板がいくつか並んで見える)。

巣板が縦方向だとミツバチにとって面倒なこともある。尻振り(8 の字)ダンスでの情報のやり取りでは、方角を示す基準となる太陽の方向を重力方向へ読み替える必要がある(「ミツバチ日記(39)」)。もっとも、ミツバチの近縁の仲間でダンス用の踊り場を屋上に水平に作る種では、太陽光が射し込む方向を直接に方角の基準に出来るのでダンスは簡単だ。

巣板は薄いロウで出来ているので、ダンスの際に出る 250 ヘルツくらいの振動を遠くにまで伝えるには絶好の素材でもある。それがドイツのタウツ博士が言う「電話回線」で、仲間をダンスの場へと誘い出す仕掛けという(*)。

人間社会では以前からスクラップアンドビルド(非能率的な設備や組織を破壊して、新しい能率的なものに立て直すこと)というのが流行っていたが、ミツバチもかなり自由に巣の増設や取り壊しをやるようだ。12 月に入った今や、既存の巣板も一部はかじられて整理されている。新たに出来たスペースに皆で身を寄せ合って、「押しくらまんじゅう」で暖めあう。これが冬ごもりの標準的な体制だ。(尼 川タイサク)

注(*)、J.タウツ著 丸野内訳『ミツバチの世界』丸善。