マキノの庭のミツバチ日記(73)

ミツバチは優れた建築家(その2)

ミツバチが作る六角形の連なった美しい蜂の巣(ハニカム)はどのようにして出来るのか?前回は次の 2 説を紹介した。1、素材である蜜ロウのもつ表面張力などの物理的性質が主な要因で、六角形の筒として安定するという説。2、ハチは触角などを使い穴の形や深さを計測しながら組み上げていく説。

最近、2 の説に加担する説が発表された。山口大学など 3 大学 4 人の共同によるもの(Plos One 誌、2018 年)で、著者らはコンピュータ実験から「付着・掘削(くっさく)モデル」というのを提案している。

この新説では、ハチの群れによる単純な行動の積み重ねが、あの精緻(せいち) なハニカム構造の土台を作り出すという。つまり、巣箱の天板などに自ら分泌したロウを塗り付ける「付着専門」と、付いているロウを削ぎ落す「掘削専門」の二手の働きバチたちによる競い合いを想定している。私がここで下手な文章で理論の筋を説明するよりも、論文に参考資料としてあるアニメーションを見れば理解の手助けになるだろう(*)。

巣箱天井の基礎部分のでき方がこの説のポイントになる。まずは働きバチのあるものたちがロウ粒を分泌しそれを天板にくっつける。その一方で、別のハチがロウを端から剥ぎに来るのがいる。そうこうするうち出来てきたY字型のロウ片が出発点。その隣にまたY字型のロウ片が並べられ、またその横にY字片といった具合に繰り返しが進む。そのようにして服のファスナーの並びみたいなものができる。コンピュータ上で現れたこの構造は現実の巣の天井部分によく見られるものに酷似し、また巣板の断面(写真)に見られる霜柱のような形でもある。

以上、巣箱天井の平面に見られる土台部分(ファスナー構造とでも言おうか)の形成をまず見てきた。次に小さな建築家たちは重力方向つまり下に向かってロウの粒をつないで伸ばしていき六角形の巣房をもつ立体的な巣板を完成させる、といった筋書きになる。まるで流行の3Dプリンターみたいな働き方だ!

働きバチらは明確な意図をもってあるいは設計図をもって家造りをしているのだろうか。たぶんそうではないだろう。働きバチによる漫然としたロウ粒供給と剥がしの単純な作業が重なっていき、全体にバランスが取れて方向性をもった造成が起こることがこの説の基本になる。誰かの指図があるわけではないのに形がひとりでに出来上がることは生物集団の場合には多分にあり得る。我々人類の3Dプリンターは細部まで完全に指定された設計図に厳密に従っている。精緻な構造物作成で現れたミツバチと人間での違いが面白い。

この論文で述べられているような偶然の要素を持ちながら自ずと構造物が出来あがることを「自己組織化」と呼ぶことがある。これはシロアリの塚の形成など生命現象に(あるいは自然界全般にも!)あちこちで顔を出すキーワードである。ミツバチの社会形成にこれを適用する研究まであるという。

しかし、このハニカム作りの新理論は前に一歩踏み出したばかりのように思える。前回書いた巣板の「両面印刷」のズレ(透かして見ればわかる表と裏のズレ)もまだ説明されていない。ハニカムの謎が深まった面もあるように私には思える。 (尼川タイサク)

注(*)、ネットで Plos One のホームページに行き、検索欄に e36214 と入力すれば、この論文が読めて無料ダウンロードもできる。ユーチューブ動画は https://www.youtube.com/watch?v=w2Y1DNxY3Ss

マキノの庭のミツバチ日記(72)

ミツバチは優れた建築家(その1)

庭のニホンミツバチの巣箱を観察窓から覗く(のぞく)と、巣板の表面では働きバチが忙しそうに行き来し、小さい六角形の穴(蜜や花粉を貯めるほか蜂児も入るので巣房という)に頭を突っ込んでは何やらしている。厳しく長い冬を迎えるための蜂蜜などの貯蔵に余念がないのだろう。巣房の内にキラリと光るものが見えるのは蜂蜜なのか。

ミツバチの暮らしを支える巣そのものは昔からその構造ゆえにいろんな人の関心を惹いてきた。ミツバチの巣(ハニカム honeycomb)は六角形の巣房の集合からなる構造物だ(honey+comb でハニカム、comb はクシ状のものをいう)。この精巧で複雑そうな構造がどのように作られるのかというのが昔から謎としてある。

以前、我が家のニホンミツバチの巣箱で、その住人たちの逃げ出た後には掌の大きさくらいの巣板が残されていたことがあった(写真)。ほぼ 3 日の間にこれだけのものを作り上げていた。それを手に取ってみたら、軽いがしっかりした造りである。巣房のほとんどが水平方向にではなくやや下向きに突き出しているのがニホンミツバチの特徴(セイヨウミツバチでは逆に少し上向き)になっている。巣板の壁面では働きバチたちが上向き(セイヨウミツバチは下向き)の姿勢を取る傾向があるので、蜂蜜濃縮や蜂児の世話など作業をしやすいと、ニホンミツバチに詳しい久志さん(故人)は解説している。ハチの巣が実用面でも使い勝手がよいように微妙にデザインの手が加えられているのには驚かされる。

1 枚の巣板はその両側の面に巣房の群のパターンをもついわば「両面印刷」である。写真でも見られるように、巣板にあるそれぞれの小さな六角形の巣房の中に、プロペラのような三ツ星がのぞいている。これは、裏側に表と同じように作られたシートの六角形の一部(頂点付近)が透けて見えていることによる。つまりそれぞれの巣房は底部に三つ叉(Y 字型)の支えをもつ構造になっていて丈夫な隔壁をもつ。このように、幾何学的に精巧に、また力学的にも強度をもって作られ、機能的でコストも安上りな「建築物」をミツバチがいとも簡単に作っているのには驚嘆させられる。

ミツバチがハニカムを作る方法には主に 2 つの考え方がある。

1、働きバチは自ら分泌した蜜ロウ(ワックス)でカップ状の円筒を身の回りに作る。ハチの発する体温でロウが熱い状態では、円筒が周りの(お隣りさんたちが作った)円筒とくっついて引き合い、六角形の筒としてそれぞれが並びあって安定するという説(ロウのもつ塑性と表面張力による物理的性質が主因とみる)。
2、ハチはそれぞれが技術能力の高いエンジニアで、穴の形や深さを計測しながら単純な作業で組み上げていく説(隣り合った技術者同士で協力する)。ミツバチ建築家は自らの触角を物差しのように使うらしく、その先端を切り落とすと巣房がふぞろいになるという実験がある。

だが、1については、ロウを流動化させるほどの高い温度にならないとか、隣との干渉が必ずしもなくても単独で六角柱になるなどの反論があり、あまり説得力がない。2については具体的な説明を全く欠いている。どちらもこれという決め手がなかった。だが、最近になって、2を支持する面白い数理的な説明が発表されているが、それは次回(その2)に。(尼川タイサク)

マキノの庭のミツバチ日記(71)

ミツバチを惹きつける赤い花白い花

11 月も中旬になり、最低気温が 10 度を下回るようになり、秋が深まってきた。この頃、庭のニホンミツバチの巣箱に久しぶりの時騒ぎがあった。働きバチ後継者として若手が出て飛行訓練をしているのだ。体のサイズも一回り大きくなったように思える。

先月 10 月に巣箱に異常を感じて調べた際は、無力な若バチが多くいて、このコロニーの将来が案じられた。箱の最上部を取り出して中のハチを振り落としたら、地上に 200 頭以上の若いハチが落ちた。その連中は飛び上がりもせず地上をうろつくばかり。そこへ、数は少ないがチャキチャキの働きバチ姉貴が登場し若バチたちを誘導するかのような行動を見せた。彼女らは、地表から巣門に至る崖(といってもコンクリート・ブロック 1 個ほどだが)の 15 センチほどの高さを率先して登って見せたり、遅れている者のお尻を押したりして、若者たちを首尾よく巣門の中へ導いていった。最後の 1 頭が巣内に消えると、ギャラリー(私と他 2 名にすぎなかったが)から歓声が起こった。

その時の大勢の保育園児みたいに頼りない若バチ連中が、働きバチとして冬を越す重責を担うことができるのかと、私は心配してきた。それだけに、この時騒ぎの光景を目にすることが出来て一安心。さらに翌日には、侵入したキイロスズメバチを熱死させて巣門から放り出すところを目撃するに及んで、コロニーが活力を取り戻したことを祝福する気持ちにもなった。

そのミツバチにとっての主要な蜜源になっていたセイタカアワダチソウだが、最近は勢いがなくなり、黄色い穂先はシャンプーの白い泡のように文字通り泡だった姿に変身してきた。一方で、蜜源の主役交代をアピールするかのように、山茶花やビワの木に花が咲くようになった。今年初め、2 月の冬場の頃も、庭木のビワにその時期としては貴重な花がいくらか咲いてニホンミツバチが訪れていたが、すぐ後の豪雪の襲来であえなく散ってしまった。そのあと初夏の頃のビワの実の収穫はほとんどなかった。

そのビワの木に今は鈴なりのつぼみが付き、白い花が次々開いてきている。花の臭いに誘われてかいろんな種類のハチやアブ、ハエ、さらにはスズメガまでが現れて花蜜を漁っていく。体の大きいハチやアブに追い払われながらも、我がニホンミツバチもしぶとく争奪戦に加わっていた(写真1)。

JRマキノ駅の通路の両側にある花壇に、今はサルビアが真っ赤な花を咲かせている。サルビアはハーブで薬草のものもあるとか。ミツバチは赤色をほとんど認識できないが、臭いがいいのか 5,6 頭ほどが来て盛んに花に潜り込んでいる。ニホンミツバチがこんな派手な赤い花に採蜜に来ているのは珍しかったので写真を撮ろうとしたが、ハチの動きが早くすぐに花陰に隠れてしまうので、なかなか満足のいくのが取れなかった(写真2)。

そのうち小さな事件が起こった。この花は筒状になっている。その筒の中に頭を突っ込んで採蜜に夢中になっていた 1 頭のミツバチが外に出られなくなった。縞々のお尻だけを外に突き出したままでもがいているがうまくいかない。花蜜狩りのプロがこんな醜態を演じるなんて意外に思えたが、そのままでは可哀そうなので花びらを裂いてそこから解放してやった。そのドジなハチは礼も言わずに飛び去っていった。(尼川タイサク)

マキノの庭のミツバチ日記(70)

給餌器で採餌を助ける

先週末に点検で巣箱を開けた際、越冬のための貴重な貯蔵蜂蜜を失敬するといった暴挙をしてしまったので、ミツバチたちが見限って逃げださないように給餌を行った。はじめは、蜂蜜を含んだ巣板の欠けらを巣箱から離れたところに出して働きバチに吸わせていた。だが、そのうち来ているミツバチの間に喧嘩が起こり、争いで命を落とすものまで現れた。吸い終わったミツバチは大概が裏庭の巣箱の方に戻っていったが、一方で近くの板塀に停まって数頭が休んでいるのも目についた。この休憩している連中はおそらく他の巣から遠征に来ているのだろう。

思い当たるのは駅に行く途上にある 1軒の家だ。別荘として使われ庭に巣箱が置かれているがもう 5年ほど空箱のままだった。月に 2回ほどはそこのオーナーが来て野菜作りに精を出す姿が見られた。今年の夏、その巣箱にニホンミツバチの群れが自然に入ったそうだ。にぎやかになった巣箱を通りがかりに見つけて、そこの家の方と話し込み知り合いになったのはごく最近のこと。

その家から私の家まで直線距離にして 300メートルほど。盗蜜に来れる距離だ。だが他の巣かもしれない。逃蜜は本格的になると厄介で大群が来ると収拾がつかなくなるらしい。去年の 8月にもそれに近い騒動があり(ミツバチ日記(28))、早めに手を打つことが大事。

そこで、給水器を使うことにした。水を入れたガラスコップに布巾をかぶせ、瞬間的に逆さにして台の上に伏せたままで置くと、わずかに布からにじみ出る水があるが、ほとんどの水はコップの中に留まっている。この原理を利用したものに小鳥などへの給水器があるが、ミツバチにも砂糖水を入れて使う給餌器として市販品がある。

それを教えてくれたのはハチ友の井上さんで、中国製なるプラスチックの製品も一つ頂いていた。それは巣門の隙間から 10センチほどの長さの給水路(ミツバチの側にとっての吸い口)を奥へ差し入れて使うタイプで、巣箱の内側で吸蜜するため逃蜜予防になるものだった。ただ、セイヨウミツバチ用のものだったので給水路の高さが 1センチだった。それをカッターナイフで削って低くし、高さ 5ミリほどにした。それにより、ウチのニホンミツバチの巣箱にも使えるようになった(写真)。

だが当初は巣箱での実地テストに失敗。ボトルの中身がとくとくと流れ出てすぐになくなったり、途中で流れが止まって給水路が干上がってしまったり。充填した糖液と給水容器のプラスチックとのなじみ具合(表面張力など?)の関係が、思ったより微妙なのかも。容器を洗剤でよく洗ったりツマヨウジを給水路への入口に2本入れてガイドにしたり、などしてうまくいくようになった。

蜂蜜とキビ砂糖を等量の水に溶かして餌として使ってみた。夕方に給餌器に入れておいたのを翌朝に見に行くと、始めは 100ミリリットルくらいあった糖液がきれいに空になっていた。思ったより大量に消費してくれている。この給餌を 3日 間、夕方から翌朝にかけて続けた。

4日目の夕方、ハチたちが巣門の前に 10頭ほどが集まってうろうろしている。まるで給餌を覚えていて催促するかのようにみんなで私の顔を見上げるのだ。「あまり給餌しすぎるとブタになるよ!」という連れ合いの言葉で中断したわけではないが、その日は忙しくて給餌しなかった。しかしブタのようなミツバチって想像が難しいナ。(尼川タイサク)

マキノの庭のミツバチ日記(69)

スムシ侵入を疑って巣箱を開けてみた

10月29日、庭にただ一つ残る重箱型巣箱を開けてみた。7月に分蜂したニホンミツバチが入った巣なので箱を開けるのは早過ぎる。だが数日前に、巣箱から腐りかけの果物のような臭いがするという妻Yの話と、サナギをいくらか運び出しているのを見て、スムシの侵入を疑うようになったからだ。スムシはツヅリガなどの幼虫で、ロウで出来た巣板をかじることで巣を崩壊させるミツバチの大敵だ。これまでも何度かその被害にあった箱を見たが、巣板が黒くドロドロに溶かされ悪臭を放つ様は思い出したくない光景だ。

いざ箱を開けて見てみるとスムシの姿はなく、その活躍した形跡もない。写真1に見えるのは1段目の箱枠の下側で、見やすいように一部の巣板を取り除いている。まるで霜柱のような巣板の断面も見えるので巣の構造が分かり良い。網目状に見えるのは巣房(小部屋)の並びでハニカム構造になっている。奥の方は貯蜜域で、やや薄いクリーム色のフタ(蜜ブタ)で覆われた部分には蜂蜜が巣房にたっぷり詰めこまれて貯えられている。

中央部で巣房に濃い黄色のフタがされているところは育児域の上端らしい。白いサナギが巣房にいくつかいるのが見える。ピンセットで取り出してみると確かにハチの児だ。すえた臭いがするというのはこのサナギのせいかもしれないと始めは思ったが、腐敗は見られず。

2段目の箱枠に広い育児域があるようだったが、巣板を取り出して調べるところまでやらなかった。情報不足であるがこのコロニーの存続を思ってあえてその程度で止めた。他に目立ったのは、まだ十分には飛べないような若バチが多いこと。ひょっとしたら、中堅を担うべき働きバチの生育が遅れるなど何らかの問題があったのかもしれない。巣枠から離れないし動きが未熟だ。地面に振り落としても仲間で集まってウロウロしたまま。しばらくすると飛ぶというよりのろのろ歩いて行き最後には列を作るかのようにして巣門から中に入っていった。

異臭のことをハチ友の井上さんに電話で相談したところ、セイタカアワダチソウの持つハーブの濃厚な臭いが異臭のように感じられるのではといわれた。皮肉なことに「ミツバチ日記」前号(68)で、セイタカアワダチソウが我が家のハチたちの主要な蜜源だなどと、持ち上げて書いたばかりであった。ニホンミツバチの集める蜜は百花蜜といわれさまざまの花蜜を含むが、今年は酷暑で強烈台風の襲来も相次ぎ、ハギのような花々が少なかったり咲いている期間が短かったりであった。結果として旺盛に咲くセイタカアワダチソウの花蜜の比率が大きかったのかも。

とはいえ、箱を閉じて数時間経過した時には特に何事もなかったようにハチの出入りが戻り、花粉もそれなりに運び込んでいた。ハチの総数は幾分減っているようだが、巣板下部を覆うくらいはある。それで、しばらくは様子を見ることにした。巣箱は箱枠 2段プラス台座となり、余計な空間を省いたので越冬に適した状態になった。取り出した 1段目箱枠から蜂蜜の回収をしたが、1キロちょっとしか採れず、まだ強い匂いも残っていた。巣板の欠けらは庭の隅でミツバチたちに戻してやった(写真2)。だが、臭いに惹かれて他のハチが収奪にくる盗蜜の兆しもあったので、翌日からは薄めた蜂蜜液を給水器で巣箱内に直接与えることにした。(尼川タイサク)

マキノの庭のミツバチ日記(68)

セイタカアワダチソウの季節

近くの川の堤に咲いたセイタカアワダチソウが、鮮やかな黄色のベルト地帯を作り出した。ひと頃は衰えたと見えたこの群落に盛り返しが見られる。外来種で繁殖力の強い雑草として嫌われるセイタカアワダチソウだが、我が家のミツバチたちにとってはこの時期の主要な蜜源・花粉源となる。河原を探してみると、いたいた!やや風があって揺れる穂につかまるようにして、ニホンミツバチが花蜜を採っているのに出会った(写真)。近くには仲間のハチが数頭いるようだった。

セイタカアワダチソウといえばその侵略性で知られ、次々と先住民であったススキやブタクサなどを駆逐し陣地をあれよあれよという間に拡大していった時期があった。その武器ともいえるものが化学物質(ある種の脂肪酸)で、それを地中に放出して他の植物の生長を抑えるそうだ。このような化学物質を使った植物と植物の間の作用をアレロパシー(他感作用)という。一般にアレロパシーという場合、阻害作用だけでなく共栄的な作用(例えばコンパニオン植物)の場合もいい、また植物間だけでなく動物や昆虫に対する場合も含まれる。防虫効果のあるマリーゴールドを畑の傍に植えるのも、昔からある応用例だ。

セイタカアワダチソウが使った脂肪酸も、言ってみれば植物界の化学兵器だ。しかし自分たちが勝ちを収めて天下を取ると、あまりにも密集したために自らにその毒の害が向けられ、自家中毒により衰退の道に入ったと聞く。なんだか人の世にも見られるような寓話的な話だが。でも、この近所では昔ほどではないにしても、少し復権してきたのかもしれない。

ちょっと変わったアレロパシーとしては、助っ人を呼ぶ植物のケース。リママメの葉がナミハダニにかじられると、そこから揮発性の物質が放出されてハダニを食べる天敵チリカブリダニを呼び寄せる。このことがオランダの研究者によって明らかにされたのは 1980年代のこと。既にこの仕組みを利用してチリカブリダニそのものが生物農薬として販売されている。

最近話題になったアレロパシーの優れものにミントがある。ミントの臭いが近くの植物に合図を送り、食害をするダニなどの虫が消化不良を起こすタンパク質を葉に合成させる。それが昆虫による食害を結果として抑えることを東京理科大学の研究チームが発見し今年に発表した。実際に葉の細胞の内で問題のタンパク合成のもとになる RNA(リボ核酸)レベルの増大も確認されている。動けない植物ではあるが、中にはこんな手の込んだ奇策をとるものもいる。

ミツバチに寄生して害をなすアカリンダニを防ぐには、ミントの一種ハッカの成分のメントールがよく用いられる。最近、庭の巣箱の近くを徘徊するミツバチが日に1、2 頭いるのを見つけた。真夏には置くのを止めていた食添用メントールだが、今回気になって巣箱に入れることにした。ただ、ミツバチにとってその存在があまり好ましいものではないようで、メントールを上に置いたスノコの隙間を、蜜ロウでせっせと埋めて匂いが来るのを防いでいるように見受けられる。

ミツバチのコロニーに害を及ぼす農薬として問題になっているネオニコチノイド系殺虫剤は、ニコチンの仲間であり化学合成した神経毒だ。人へのリスクも心配されるその使用を止めるために、アレロパシーを用いた安全な生物防除の進展にも期待したいところだ。(尼川タイサク)

マキノの庭のミツバチ日記(67)

逃去の企て?

9月 25日だったか、ニホンミツバチの巣箱への花粉の運び込みが全く見られなくなった。先に台風 21号が来たとき、巣箱の一つで群の逃去があったことは前に書いた。その際に、もう一つの巣箱の群も活発な怪しい動きをしていた。水をスプレーで振りかけた結果、群は平静さを取り戻したのだった。その居残ったのが問題の巣箱。箱の内にはまだ大勢のミツバチが残っているのは心強いのだが、産卵に必要な花粉の供給ストップは心配。おまけに蛹(さなぎ)が少しずつ外に運び出され始めた。

次の日も蛹が巣房から引き出され運び出されている。頭をかじられているのもいた。だが働きバチの出入りは盛ん。いよいよ巣箱を見限っての移住も近いのかと覚悟した。

27日。朝晴れていたが曇りのち雨に。あいかわらず巣箱への花粉運び込みはないが働きバチの出入りは盛ん。昼前かなり興奮気味の動きがあり時々蛹を運び出す姿が見られた。計画逃去を企てたのか?盛んな出入りのあることも、蜂蜜をどこか新しい住処に運び出しているのではと怪しんだ。そこで、巣を出るハチと帰ってきたハチをいくらか手網で捕らえて、体の中の蜜貯蔵庫である蜜胃を調べることにした。

蜜胃は透明なボール状の伸縮自在の袋(人で言えば胃のようなもの)になっている。外勤バチは蜜胃が大事。それは自分の体内にある臓器だがその中の蜜は自分の所有物ではなくて、彼女の属するコロニーの共有物なのだ。採った花蜜は巣に戻ったら仲間に吐き戻して渡されるし、出かけるときは仲間から飛行燃料分として口移しに蜂蜜が支給される。ミツバチ社会の面白い仕組みの一つだ。ただし、 蜜胃を直接見るには腹部を小型ハサミで丁寧に開いて露出させるほかない。昔のことだが、大学でハエの生理学を研究していた経験があるので、私にとってはそれほど難しい作業ではない。

外に飛び出そうとしたハチを調べた結果では、その蜜胃が思ったよりも大きく膨らんでいて腹部の体腔一杯に広がるくらいだった(写真に撮ってみたがかなり 生々しいのでここでは割愛した)。いわば蜜で満タンの有様だ。その中身はこれから出かける飛行のための支給燃料(それだと長距離かも?)なのか、それともどこか他所に定めた新居への配送分なのか。見ただけでは分からない。一方、外から戻ってきたハチの蜜胃はそれほど大きくはなかった。密かに貯蓄蜜を運び出し、 蜂児を抜き去り整理する・・・着々と計画逃去の準備にかかっているというシナリオがまたもや頭に浮かんだ。そのようなことが現実にあるかどうか疑わしかったが、先月の他の巣箱での逃去事件(巣板以外は何も残さなかった)の後では、妄想が消えない。

10月中旬に入って、巣箱は今のところ正常な感じに戻ってきた。観察窓からのぞくと、巣板を覆って活発に動く働きバチの群が見られた(写真)。ひところのように蛹を引き出すこともない。スズメバチの来訪が極端に少なくなった。さらに花粉の持ち帰り頻度が明らかに増えた。今日の昼過ぎには久しぶりに時騒ぎの賑わいがみられた。以前のような元気さを取り戻したように見える。コロニーが何らかの不具合から回復してきたのだろうか。あるいは移住を思いとどまったのか。 そうだと嬉しいが。(尼川タイサク)

マキノの庭のミツバチ日記(66)

オオスズメバチとの攻防

秋になるとスズメバチの姿を頻繁に見るようになる。スズメバチの中でも断然危険なのは体が大人の親指くらいあるオオスズメバチであろう。この前も、車イスの老人が移動中に襲われて体のあちこちを刺され、ショック死するという不幸な事件が報道されていた。こういうニュースがあるとスズメバチを悪魔のように思う人が少なくない。巣の近くに人が入ってきて、警告が無視されるとオオスズメバチは容赦ない反撃に出る。だが、むやみやたらに人に襲い掛かることはまずな い。体が中型のキイロスズメバチなどは、ミツバチ 1頭捕まえると満足気に帰っていくのでそれほど怖い存在ではない。

都合でしばらく放っておいた巣箱をたまたま見に行ったら、屈強なオオスズメバチの 7、8頭に襲われていた。今年はオオスズメバチが少ないなと思いこんでいたのでびっくり。すでに巣門に 5頭くらいがたむろし、入口の木部をかじって中への侵入を狙っているようだ。

オオスズメバチは強力なあごと毒針をもつ獰猛なギャング蜂だ。セイヨウミツバチならば、次々これに立ち向かっては噛み殺されて玉砕になることが多い。その点、ニホンミツバチは、敵が1、2頭の場合なら集団で取り囲んで蜂球を作り熱死させる。有名な「布団蒸し」作戦が得意技の一つ。ミツバチの群に勢いのある場合は、大勢繰り出してけん制にでることもある。オオスズメバチの羽音に対抗してワーンという多重奏で応える。体を一斉に振らすいわゆる振身行動をすることもある。最近お目にかかったのは、巣門から繰り出してきた働きバチたちがそれぞれ羽音をたてながらでたらめに動き回るシーン。その振る舞いは、狙いを絞らせないだけでなく相手を威圧するみたいで、強敵はあきらめて去った(写真1)。

だがオオスズメバチも身内に動員をかけ、多いときは 100頭ほどでもって巣の乗っ取りにくるという。我がニホンミツバチたちも、今度のような多勢の強敵相手ではさすがに退避し籠城するしかない。とりあえずは手助けが必要と思い、私は目深に帽子をかぶり首筋を守るためタオルを巻き付け手網を持って出動した。

ギャング蜂たちはほとんど人を気にしていない(自分は最強だと思っているのか)。だが邪魔されると反撃する。私もすぐには手が出せずしばらく立ちすくんでいたが、気持ちが落ち着いてくると手網を使っていくつか獲ることができた。狙って素早く網を振ると不思議と掛かってくれる。相手はパワーがあり飛ぶのは速いが、胴体が大きい分だけ空気抵抗が強く、蚊のような小回りや敏捷さに欠ける弱点をもつようだ。さらに、買い置きしていたネズミ捕り用の粘着板を取り出して巣箱の天板に置き、オトリとして捕らえた 1頭をそこに貼り付けた。

粘着板は思った以上に効果的。3日間に捕獲したオオスズメバチは 120頭になった。不思議なのは、囚われの仲間に自ら寄って罠にはまってしまうこと。粘着板にくっついてもがいているスズメバチを見るのは気持ちいいものではない。甲冑姿の武士が枕を並べ討ち死にしていくようで哀れに思える(写真2)。オオスズメバチが立ち去ったのを見計らって、働きバチが巣門付近に次々現れあちこち見て回った。そして敵が残した餌場を示すマーキングの痕をていねいにかじり取り、臭いをごまかすためか自らの糞を辺りにまき散らしている。なかなかやるじゃない!(尼川タイサク)

マキノの庭のミツバチ日記(65)

蜂蜜の残留ネオニコ分析

8月に、ある食品検査機関に自家製蜂蜜 75グラムを送って、残留ネオニコ系農薬の分析を依頼していた。検査費用は私のささやかな小遣いをはたいての出費だったが、気になっていたことを払拭したかった。というのは、前にも日記に書いたが、一部の市販蜂蜜にネオニコがわずかながら残留しているという新聞記事を読んで、我が家の庭のニホンミツバチの巣箱から採取した蜂蜜に残留していないか、確かめたかった。

9月中頃にその蜂蜜の分析結果として 1枚の検査成績書が送られてきた。アセタミプリド、イミダクロプリド、クロチアニジン、ジノテフランなど 7種以上のネオニコ系農薬と代謝物について、いずれも蜂蜜中で 0.01 ppm 未満(*)とあっ た(写真)。国の残留基準をクリヤーしているので、食品として一応安心というところ。調べてもらったサンプルは 5月に採取して保存してきたもの。8月初めのネオニコ空中散布の後では採蜜していないが、それだとまた違う結果になったかもしれない。

ただ、今回の検査自体にも不満が残った。検査報告書にはエビデンス(分析データーなど)が全く添付されていなかった。分析結果のクロマトグラム(溶出ピークなど記したチャート)のコピーも見たかったのだが。検査に使用したとされる液体クロマト/タンデム MS 法は精度・感度が優れていて 1 ppb(0.001 ppm)の 下まで分かるといわれる。たとえば人尿中のネオニコを測ったという学術論文にこの測定法は採用されている。

ミツバチが日常的に摂食する蜂蜜中に、もしネオニコが ppb 程度のごく薄い濃度であっても含まれていれば、コロニーに悪い影響が出ることもあるという報告がある。私もニホンミツバチを飼っているので、検査において ppb の桁で具体的数字が出ているならば知りたいところであった。

分析元に電話で問い合わせて返ってきた説明では、測定の際に 0.01 ppm 未満の測定値の場合は生の数字を出さない設定になっているとのこと。その測定器の精度から見て当然もっと下の値まで示されると思っていたのが甘かった。依頼する前にその検出下限なり定量下限の値がどの辺に来るのかを聞いておけばよかったと悔やまれる。

蜂蜜は食品として一応安心といったが、他方で、国の現在のネオニコ残留基準が妥当かどうかで異論も出ている。ネオニコのような人(特に子供)への DNT(発達神経毒性)のリスクが疑われる新規の神経毒を扱う場合には、慎重さが求められる。最近、国内の残留基準に変更があり、アセタミプリドが 0.2 ppm と大幅に緩和されたこと(他のネオニコ系は依然そのままの 0.01 ppm)を知った。実際のところアセタミプリドについては上げざるを得なかった事情が、厚労省そして養蜂関係の業界の一部にもあるのかもしれないが。

しかし消費者の立場からいうと不安が残る。厚労省が残留基準を緩める方向に向かう(例によって?)のは、本末転倒ではないか?欧州(EU)などのようにネオニコを禁止ないし規制する方向に動くべきだと思うのだが。1検体を 2万円前後で測れるなら自治体や実力のあるNPOあたりではそれほど大きな負担ではないだろう。どんどん蜂蜜に限らず食品を検査して結果を広く情報提供してほしい。 (尼川タイサク)

(*、ppm=100 万分の1。1 キログラムの重量当たりでいえば 0.001グラム)

マキノの庭のミツバチ日記(64)

ハギの花が咲いて一安心

ミツバチが花粉採取でよく訪れる百日紅(サルスベリ)の樹も、台風 21号が過ぎるとき折れたり引き倒されたりと、散々な被害を受けた。近くの県道で百日紅の街路樹がおよそ 200メートルに渡って植えられていたところでは、倒木がかなりあり通行の邪魔とか見苦しいということもあって、全ての百日紅の樹が除去され整理されてしまった。他にも強風のために多くの草木がすり切れてみすぼらしい姿になったようにも見える。夏の蜜源不足も重なっているようでミツバチのこれからが心配だった。

だが、さすがに 9月も中旬になって、ハギやキバナコスモスの花が咲き出てきた。近くの知内川の堤の道にもハギの花が目立つ。散歩していて、そのこじんまりした茂みの一つに出くわした(写真1)。そこにミツバチが 20頭ほどで訪れて花蜜や花粉を集めている。多数のミツバチが嬉々として花々の間を採餌に飛び回っているのを観るのも、ミツバチ愛好家(?)としては、大きな楽しみでもある。

最初見たときはニホンミツバチもいたのだが、翌日見に行った時には、来ているのはほとんどがセイヨウミツバチだった(写真2)。体の大きくて強いセイヨウミツバチに押されて、ニホンミツバチは追い払われたのだろうか。ニホンミツバチのファンである私は少し残念。

蜜源が豊かに開かれるこの時期、どうしたことか蜜源ではないバラの葉やレタスの葉をニホンミツバチがかじるという珍しい行動があるらしい。養蜂家や農家の間では知られた現象と聞く。この行動が見られるのは、9月から 10月に限られている。かじられたレタスは商品とならず生産農家にとっては打撃となる。だがこの現象は未解明のままになっていた。

去年の秋だったか、日記を読んでくださっているある方から、レタスをかじる行動の意味についてお尋ねがあった。しかし私はそれを見たことがない。ネットで 探して出会った横井智之博士(筑波大学)の論文中の写真では、確かにかじっている様子が分かる(*)。私は残念ながら満足な答えを持ち合わせず、「ミツバチ が食糧としてではなく何らかの生理作用のサプリ(?)として、レタスなど植物の葉や花弁、土中の有機物やミネラルを摂取することはあり得ると思います。」と、珍妙な答えに止めていた。

だがそのあと、ニホンミツバチ研究家の菅原道夫博士(神戸大学)から頂いた私信に、レタスの中のミツバチを集合させる成分を探求中とあった。そしてこの秋、 その成果を学会で発表に至ったとの連絡を頂いた。

そのホヤホヤの情報はなかなか興味深い。菅原博士らは、微量成分の分析法(GC- MS)でもって、レタスの茎とミツバチ・ナサノフ腺のエーテル抽出液に共通して存在する成分を特定し、その特定の成分にハチが実際に誘引されることを実験で確かめている。

秋の時期に単独のハチが若い菊の葉やバラの葉をかじる行動が知られている。たまたまレタスの葉をかじったニホンミツバチが、レタスに含まれている成分(それはナサノフ腺にあるのと同じもの)に誘引され、多くのハチがレタスに集まるということらしい。

ミツバチが花蜜と花粉だけをエサとするだけでないことは知られているが、このレタスなどをかむ行動にも、ミツバチの持つ行動の奥深さ多彩さが感じられる。 (尼川タイサク)

(*横井智之「ミツバチ科学」26号 (3), 2005年)