マキノの庭のミツバチ日記(33)

分蜂群との再会

7月2日に我が庭の巣箱の群から分蜂が起こったことは既に日記(23)に書いた。梯子(ハシゴ)に上って蜂球ゲットの時、捕獲袋にズシリと来たあの瞬間の感触はまだ生々しい。その群れを、3キロほど離れた峯森さん夫婦(前記日記では、「マキノのあるお宅」)に譲渡したのだった。このご夫婦も以前は蜂球を捕らえて丸胴型の木箱に飼っていた経験があるとか。

その後、養子に行ったコロニーは生き続けているとのことを耳にしていた。その峯森さん夫婦のところに4か月ぶり、前と同じくミツバチまもり隊の小織さんとともに訪問することになった。マキノ町の山沿い、果樹園に囲まれた農業公園「ピックランド」から南方しばらく行ったところにお住まいがある。あたりは山際で、古くからの家もあり寺や神社もある静かなところ。ご夫婦は退職後にこの地で家庭農園(自家農園)を営み、米・野菜・花などの供給販売とさまざまの家畜やペットと暮らす毎日とか。農園のほか雑木林をもち、客が自然のたたずまいの中でゆっくり野菜を採り花を摘めるようにしているのが素晴らしい。玄関先には鶏のウコッケイ8羽ほどがお出迎えというか物珍しそうにこちらをながめていた。

峯森さんらとの挨拶もそこそこに、早速に巣箱のある庭先に案内される。そこは石造りの手水鉢や石灯篭の立つこじんまりした中庭になっている。縁側のそばに巣箱は置かれていて、元気にミツバチが飛び交っていた(写真)。外勤バチらが庭を抜けてまっすぐ飛び行く先は、金平糖(コンペイトウ)のような花を多数付けたママコノシリヌグイが占める草地。小川の堤や稲田のあぜなどに広がって咲いている。少し前まではキバナコスモスが主な蜜源だったとか。戻ってきた外勤バチは、時には私へ「ビビッ!」と警告音を出したり無遠慮に頭にぶつかってきたりした。「元の飼い主のおっちゃんだよ、忘れたか」と声をかけたくなったが、分蜂前にウチの庭に居た連中は、すでに何代か前の姉さん方なので今はこの世にいない(母女王は元気に生き続けているが)。ともかく、こりゃ皆さんとても元気だ、心配いらない。

箱の状態をみる。前扉を開けて内側を見ると、巣屑などはなく床はきれい。底すれすれまで伸びた巣板の塊が大きい。表面にびっしりとミツバチが付いていてにぎやかだ。峯森さんが巣門にスムシを見たとか言うのが心配材料だが、この強群だったら乗り越えるだろう。

この再会の後は、ハーブ茶をいただきながら四方山話。冬の過ごし方や寄生ダニ(アカリンダニ)への対策で保温材を巻くことなどを話し合った。お宅を辞しての帰り道、メタセコイアの並木にところどころ歯抜けのようになっているのが目に留まった。この前の台風による倒木被害の跡だった。我が家に帰り着いて、庭の巣箱の連中に「従妹たち」と会ってきたことを報告するが、ここでもあっさり無視されてしまった。(タイサク)

マキノの庭のミツバチ日記(32)

花の命は短くて

『放浪記』の作者、林芙美子の詩に由来するといわれる「花のいのちは短くて苦しきことのみ多かりき」のフレーズはあまりにも有名だ。しかし、むしろこれは人よりもミツバチ(働きバチ)の方で言いたい切実な言葉なのかもしれない(「花」を文字通りにとるとして)。花蜜と花粉に生計を頼るミツバチは、花々が季節の移ろいとともに次々寿命を終えると、新しく咲く花を求めてジプシーをやり続けなければならない。秋も深まり花も少なくなるこの時期には一層気になることであろう。

だいぶ前、たぶん10月の中頃だったか、道端に黄色い小花を付けたアメリカセンダングサがいつの間にか茂ってきた。悪名高い外来種なので本来は引き抜いて駆除する対象なのだが、思いがけずにもその花にニホンミツバチが5頭ほどたかっているのを見つけた。我が家から近いところなので、「ウチの連中」だろうか。熱心に採蜜しているのが分かり、現金なもので私はその草を駆除する気になれなかった。しかし間もなくこの道端の草は刈り取られてしまった。そのあと、マキノ駅前の花壇にサルビアの真っ赤な花が咲いた時も、数頭のニホンミツバチが来ていたが、花が枯れる頃にはいなくなった。

巣箱を置いてある庭に、妻Yがミツバチのためにと植えておいたわずかなツワブキが花を付けた。アブやアオバエがさっそく来ているが、我が親愛なるハチたちはそれを横目に見ながらも、そそくさと西側へ飛び立っていく。何か大口の蜜源があるのだろうか。それではと、私も自転車でその方角を見当に花を探しに出てみた。川べりや空き地を占拠するように咲くセイタカアワダチソウの黄色い花は、盛りを過ぎて枯れかけているのが増えてきているが、それでも数は圧倒的に多く残っていて、おそらくはミツバチの蜜源としてあとしばらくは役立つのだろう(写真1)。しかしニホンミツバチが採蜜する姿をついに見出せず。働きバチはたしかに白や橙色の花粉を次々運び込んでいるのでどこかに蜜源があるはずだが、結局見つけられずに今回の探索を断念した。

ところがその翌日の散歩の途中、浜をめぐる遊歩道の脇にイモカタバミが密生しているところに行きあわせた。その群落の中にニホンミツバチが花蜜を吸っているのを発見(写真2)。よく見ると、仲間を呼び寄せたのか近くに5、6頭の姿が見える。群れで採蜜中のニホンミツバチを久しぶりに目にして、私は嬉しくなり写真を撮りまくった。距離からしてたぶん我が家の巣箱の住人らが出張してきているのだろう。

先ほどのアメリカセンダングサ、セイタカアワダチソウといい、それにイモカタバミといい、あちこちにはびこって嫌われ警戒される外来種植物だが、この花不足の時期に盛大に花蜜や花粉を提供してくれる。我が国古来のミツバチであるニホンミツバチが外来種の植物に命を支えられるというのも、何か皮肉めいた話だ。(タイサク)

マキノの庭のミツバチ日記(31)

2つの台風に耐えて

季節外れの2つの台風、台風21号と1週間をおいて22号がやってきた。台風21号は今年初めての超大型台風といわれる。各地に残酷な爪痕を残していった。私の住むマキノ町でも、深夜、瞬間風速20メートルを超えると思われる暴風が荒れ狂い、雨量も予報通りで毎時20ミリほどの激しさ。瓦や外壁が飛ぶなどの被害が出た所もあった。かなりの地区では電柱倒壊などにより30時間ほどの停電に見舞われもした。我が家の付近は幸い瞬間的な停電ですんだが、轟音を伴う風が恐ろしく心細く感じられた。後日、すぐ近くの知内川沿いに散歩に出たとき目にしたのは、遊歩道の脇に打ち倒された太い桜の樹が数本。根こそぎえぐられて地面には2メートルほどの穴が開いている。ゾッとする光景だった(写真1)。風に弱くよく停まるといわれるJR湖西線だが、今回の台風21号では、比良駅近くの高架でコンクリート製の架線電柱が9本も折れ、2日以上の運休となった。

その嵐の襲来を受けて、庭の巣箱はとても持ちこたえられまいと私は観念した。だが風が少し治まった明け方に恐る恐る様子を見に行くと、それでも巣箱はなんとか立っていてくれた(写真2)。強風にあおられて箱も激しく揺れたのだろう、つっかえ棒が飛ばされていた。床板は雨水で濡れ放題。半月ほど前に巣箱の台座など下部を取り換えていたので、箱の継ぎ目から内側への雨水が浸み込まないかと心配だった。中にいたミツバチたちにとっては不安(?)の連続だったかも。6本の足をふんばったり、キャーと叫ぶ代わりに羽を震わせたりして耐えたのだろうか。それでも、北向きのフェンスに取り付けていた葦簀(よしず)が巣箱に当たる風を防ぐのにいくらか役立ったかもしれない。傍に立つ柿の木はほとんどの葉を削がれ、収穫前の柿の実があたりにばらまかれるように落ちていた。

2つ目の台風が去って、今朝は久しぶりの青空が現れた。いわゆる日本晴れ。2日間箱に閉じこもっていたミツバチたちは、ここぞとばかりに朝から出入りが盛んになった。晴天なのはいいが外の気温が急激に下がってきて摂氏10度を割っている。木枯らし一番が来るという天気予報も出た。この寒さで花(蜜源)はどうだろうと気になった。ミツバチにとっても「一難去ってまた一難」といったところだろうか。(タイサク)

マキノの庭のミツバチ日記(30)




秋の蜂蜜絞り

秋になり様々の花が咲き乱れて蜜源に気を使わないで済む季節になった。そこで思い立ったのが蜜絞り。庭の巣箱はまだ一度も採蜜しないままできている。試しに巣箱を持ち上げてみると20キロを超える重さだ。ミツバチまもり隊隊長の小織さんを助っ人に頼んで、私と妻との3人で蜜絞りにとりかかった。採蜜開始は朝8時。天気は曇りで、今にも降りそうな空。

巣箱は箱枠(桝状の木枠)を4段に重ねて作られており、その内側に上下方向に伸びた板状の巣の本体(巣板)が7枚、平行に並んで収められている。箱枠の隙間に細い針金ワイヤーを食い込ませ、しごきながら手前にずらして引き切っていった。これで最上部の箱枠の部分を丸ごと取り出せた(写真1、2)。切り出した断面を見ると全て貯蜜域で、貯蔵花粉もここでは見当たらない。巣箱の下の方に位置するはずの育児域が無事に避けられていることが確認できた。7枚の巣板は切断面が霜柱のように見える。その間に見える7ミリほどの狭い空間が、まさに働きバチの職場にあたる。両側にぎっしりと並ぶ食料庫や保育所の小部屋(巣房)をまわって管理や世話をしたり、仲間と口移しで蜜交換をしたりで忙しい場所だ。

匂いがミツバチやスズメバチを呼び込むのを避けるため、箱枠からの巣板の切り出しは別の離れた所で行った。きれいな蜂蜜がたっぷり詰まった7枚の巣板を切り分けて取り出していく。濃い蜂蜜を収めた巣板の表面には白いシール(蜜ブタ)が貼られている。それをはがしていくと、琥珀色の蜜のドロリとしたしたたりがまぶしい。

逃げ遅れ蜜まみれで動けなくなり犠牲となった働きバチが10頭ほど巣板の隅に見られるのはいつものこと。巣板は小さな無数の小部屋(巣房)の集合体だ。その各小部屋に小分けして蜜を収め、ある程度濃くなったら蜜ブタで封がされる。そのような工夫のおかげで、働き蜂たちは普段は蜜の洪水に襲われることはないが、人間などの勝手な巣の破壊で蜜が大量に垂れ流れると、災害みたいな事態になる。このときハチたちは、巣箱の内部の切断部の修復やこぼれた蜜の回収に大忙しのはず。

取り出した巣板をいくらか砕いたものをリード紙で敷きつめた金ザルに積み上げ、ろ過されたきれいな蜂蜜を滴下させ桶に集めていく(写真3)。気温がまだ高い今頃でも、終わるまでに丸1日以上かかる。蜂蜜収穫量は3リットル(約3.5キロ)だった。今度の蜂蜜はいつもより濃くて粘性が高い。小さじにすくって口に含むと独特の香りが広がり、濃厚な甘みに伴う風味も好ましい。

過去の採蜜の経験では、人が巣箱をいじると警戒して激しく飛びまわるミツバチの一群がいたが、今回はあまり振動を与えない静かな採蜜作業だったので、思ったほど騒がれず。日ごろスズメバチを追い払うなど世話をする私の体臭も覚えていて、略奪を大目に見てくれたというのは、ちょっと思い過ごしかも。知り合いの養蜂家からは、蜜絞りの後でミツバチ一家に丸ごと逃げられたということをよく耳にする。その恐れはたしかにあるが、見たところミツバチ一家は平静に見える。翌日になっても朝早くから花粉や花蜜を運び込んでいる様子なので、とりあえずは安心。(タイサク)

マキノの庭のミツバチ日記(29)

千鳥足(ちどりあし)のミツバチ・ダンサー

庭の巣箱は一応元気そう。先週には盗蜜かと思う一幕もあったが、今はかなり安定している。蜜源になるハギの花も咲き始めてきた。のぞき窓から巣箱の内を見ると、落ち着かない様子でダンスしながら巣板の上を這うのは、エサ探索から戻ってきた働きバチか。小回りの尻振りダンスをしながらも、一か所に止まるわけではない。ブルルッと体を震わせてせわしく進行方向を変えている。以前、米国シーリー博士がセイヨウミツバチでのダンサー(探索バチ)の動きを単行本の中で記しているのを読んだことがある。そのページの図には千鳥足歩きのような足取り(軌跡)が載っていた。

シーリーさんが言うように、巣のあちこちに待機中の仲間のなるべく多くに、尻振りダンスを限りある時間内に見せて回る(蜜源の情報を伝える)、という説明も納得がいく。踊りを広く宣伝するために動きまわる昆虫って他にあるだろうか?(挿絵はイメージ)

千鳥足という酔っ払いのおじさんの歩き方(いわゆる酔歩)は、赤提灯街で今でも目にすることがある。危うい歩き方のように思えるが、意外にも多くは首尾よく自宅に着いているらしい。しかし、目標を探し回る探索行動をとる場合、大方の現代人は秩序だった計画的な方法を採用する。たとえば、船が遭難し連絡を絶った時、広域での捜索活動は対象海域を細かく区画に切り分けて一つ一つしらみつぶしに探すのが常道。「行き当たりばったり」にランダムで無作為に探していく方法は公式には採用されない。同じ地点に戻ってしまい重複が生じることが多く無駄にみえる。だが、長い目で見ると(あるいは統計学的・確率論的に評価すると)、でたらめに見える千鳥足歩きだが探索行動としては最善策のものがあるそうだ。

少なからぬ動物では、獲物を探して動き回る行動がランダムであることが知られている。その動き方の一つには「レヴィ飛行(レヴィ軌跡)」と呼ばれるものがある。アホウドリの採餌行動を追った仕事から本格的な研究が進み、その後、サル、トナカイ、アザラシなど他の動物でも続々と見つかっている。昆虫ではアリ、ハエ、マルハナバチ、そしてミツバチについてもレヴィ飛行を行うとされる。

レヴィ飛行をすると言うとなんだかいい加減な行動のように思われるかもしれない。だがメリットがあるからそれが採用されている。ミツバチは熟知した土地についてはマップ(地図)が頭の中に出来ており、その範囲ならば目的地にほぼ最短距離で直行するという研究報告がある。巣でダンサーの尻振りダンスから位置情報を読んで現場に急ぐ場合も、同じく直行型になる。見知らぬ土地に来た場合についてはレヴィ飛行をとる。

では分蜂(巣別れ)の時に新しい住処の候補地を探すのはどうなのか。それぞれの探索バチはレヴィ飛行を採用するにしても、探索地域のある程度の区割り分担がなされているように思えるが、たぶんまだはっきりとは解明されていないと思う。これは面白い研究テーマであろう。

何千といる自分の家族と家事を分担して暮らし、迷わずに家に戻って来られるし、ダンスを千鳥足で舞ってエサ場を知らせるなど、ミツバチの行動は奥が深くて芸が細かい。ミツバチは本当に不思議で面白い昆虫だと改めて思う。(タイサク)
〔「日記」はしばらくお休みにします〕

マキノの庭のミツバチ日記(28)

巣門での争い(盗蜜バチが出現)

ニホンミツバチの巣箱では、暑い日には巣門付近にたむろする夕涼み集団が見られる。今日はなんだかその連中に落ち着きがない。近寄ってみると、あちこち数か所でミツバチ同士が争っている。激しいところは取っ組み合いみたい。組み討ち中の一組では、ついに一方が相手を大あごで噛み殺した。倒れた相手を抱え込んで遠くに放り出しに行くものもある。地上にはあおむけになった死体が5頭ほどころがっている。目ざといアリにすでに取り囲まれた亡骸もある。まるで戦場みたい。形勢は巣箱守備隊のほうが断然有利の模様。

最初は、セイヨウミツバチによる盗賊行為つまり盗蜂(盗蜜)かと思った。だが襲ってきたハチの体が巣箱の連中とよく似ていて、どうも同じニホンミツバチのようだ。念のため盗賊を捕まえて、後ろ翅の翅脈(しみゃく)をルーペで拡大し観察したところ、H字型の交差があることからニホンミツバチであると確認した。写真はまだバトルが収まってないときのもので、右上方では後ろから乗りかかって攻撃しているものが見えるし、左側でも取り囲まれたのがいる。だがこの時点では大勢が決していて、残念ながら迫力を欠いた写真しか撮れてない。

養蜂家は盗蜂といったり盗蜜といったりする。本来「盗蜜」という語は広い意味があり、花粉の媒介サービスを伴わずに花蜜を奪取することを言う。それをやるのが、鳥ではスズメ、昆虫ではアリやチョウ、特定外来生物指定で知られるセイヨウオオマルハナバチなど。しかしミツバチ同士であっても、場合によっては他の巣から貯蜜を失敬する。特に花蜜不足の頃には起こりがち。

セイヨウミツバチがニホンミツバチを襲うという話はよく耳にする。体のサイズがやや劣り性格的にも大人しいニホンミツバチが劣勢に立たされ、戦意すら失うと言われている。だが、蜜が十分に確保できる季節だと、そんな争いは少ないらしい。実際、私も双方を春頃に同じ庭で同時に飼ったことがあったが、お互いに侵略することはなかった。

今、庭にいるニホンミツバチは数も多くガードもしっかりやる強群で、なかなかスキをみせない。盗蜜となると後続部隊がまだ来るかもしれないと思い心配したが、その内に紛争は収まった。どこかの弱小コロニーが崩壊して、迷いバチが入り込もうとしたのだろうか。だが経験者によると、優勢な盗蜜者はしつこくて被害の側は壊滅に至るほどらしい。巣箱を遠くに移すか巣門を数日間閉じるなどの対応策が語られている。

夏枯れで花不足が心配だったが、近ごろになって巣箱の出入りが活発になった。空中の見えない回廊はラッシュを思わせるくらいになっている。持ち込まれる花粉は黄色のものが多い。散歩に出たときに偶然見えたのは、県道の両側に華やかな列をなすピンク色の街路樹。百日紅(サルスベリ)の木で、今や満開であった。その中の花に寄るミツバチやマルハナバチを見つけた。ニホンミツバチにとっては夏場の貴重な花粉源である。この時期、ヒマワリやキンカンがあればとても良い蜜源にもなる。これらの蜜源・花粉源をうまく分け合って仲間同士の争いをなんとか避けられないものだろうか。動物でも暮らしを全うするのはなかなか楽ではないなーと、ミツバチの日々の様子を見て思うことが多い。(タイサク)
 

マキノの庭のミツバチ日記(27)

稲の花の咲くころ

米の花を見たのは初めてだった。散歩の途中、青々とした水田の稲穂にふと目を
やったとき、白い点のようなものがちらほら見えた。これが米の花というものか!
写真を撮るためカメラを取りに家に戻った。引き返した時、その花はすでに閉じ
られていた。他の穂を探すと、あった、あった(写真)。籾(もみ)からはみ出て
見える白いのが雄蕊(おしべ)。ひょっとしてミツバチが来ているかとあたりを見
回したが、残念ながら見つけられなかった。

米の花は昆虫の助けの要らない風媒花で、7月下旬から8月初旬にかけて開花す
る。開花と言っても花弁(はなびら)はなく、籾(もみ)のカプセルから雄蕊の
数本がこぼれ出て見える。雌蕊(めしべ)はちょっと分かりにくい。これらが見
えるのはほんの2時間程度。花の命は短いといわれるが、米の場合は一瞬と言っ
てもいいほど。しかし、雄蕊からまき散らされた花粉が雌蕊につかまり受精すれ
ば、花としてはお仕事完了。

米作りの歴史は害虫との闘いの歴史でもあるといわれる。ホソカメムシはせっか
く実った穂の米粒を吸う害虫で、吸われた米粒は変色し斑点米と呼ばれる。0.2%
以上の被害があると米全体の品質低下とみなされ、経済価値も下がる。化学防除
の進んだ現在では、出穂(しゅっすい)時期に合わせて、ホソカメムシを退治す
るためにネオニコ系殺虫剤が水田に散布される。

青穂を目当てに来るのは害虫ばかりではない。先ほどの花粉を集めるのがミツバ
チ。夏の時期は頼りの花が不足しがち。しかし稲の花からは、花蜜は出ないがタ
ンパク源として花粉が収穫できる。ある研究者がミツバチの持ち帰った花粉を調
べたところ、その内の多くが米の花粉に由来していたという(*)。貴重なエサで
ある花粉の中に、浸透性そして残留性の高い殺虫剤が含まれている場合があるこ
とを、ミツバチは知らない。

ウチのハチたちは今どんな花粉を運んでいるのだろうかと気になった。働きバチ
がせっかく持ち帰った花粉であるが、「悪い、悪いナ」といいながら、後肢の花粉
バスケットから団子状にパックされたものを横取りして調べてみた。実際に顕微
鏡で観察してみると、花粉それぞれは丸いボール状で、小さな口のような穴が一
つ付いているのが見えた。それは米の花粉資料集の写真そのものに似ているが確
定できなかった。(タイサク)
〔* ドキュメンタリー映画『ミツバチからのメッセージ』より〕

 

マキノの庭のミツバチ日記(26)

ネオニコ散布ヘリがやってきた

朝6時過ぎ、バリバリという音とともにラジコン・ヘリが農薬散布に来た。地域の農業組合から配布のチラシには、米作りに重要なのでご協力をと記されていた。稲の害虫カメムシなどの駆除が主な目的らしい。しかし、最近明らかになってきているネオニコ系農薬が抱える問題点には一切触れられていない。

「ミツバチまもり隊」の活動も3年に及び、その成果も出始めた。高島市に申し入れていた散布予告放送が実現した。先のチラシに養蜂家への注意書きが載ったのも前にはなかったこと。私の庭に隣接する水田2面については、ここ3年ほどだが、持ち主のご厚意でネオニコを撒かないところまで進んでいる。

散布では風向きが気になる。今朝は北からの風なので、これはまずい。もろに我が家と巣箱に向いてくる。過去にも、散布の後にミツバチの調子が悪くなりコロニー絶滅に至った経験をしているので神経質になる。巣箱を他に移すことを考えたが、ニホンミツバチの巣の本体をなす蜜ロウは熱に弱く、気温の高い時に動かすと巣が落下(巣落ち)する恐れがあり、とりやめた。せめてもの処置として、散布空間を飛んで被曝(ひばく)するのを避けるため、金網を巣門にあてて巣箱の出入りを止めた。

ラジコン・ヘリで散布されるのは殺虫剤スタークル(ネオニコ系)と殺菌剤ビームエイトの混合液。スタークルの濃度は原液の8倍希釈。地上での通常の散布だと250~1000倍希釈だから、すごい濃厚液だ。それがヘリの両脇に取り付けられたタンクから下方に噴射され、一部は霧状になりドリフト(浮遊物)として滞留したり周辺に拡散したりする。さらに、殺菌剤と殺虫剤の混合液は相乗効果が出て、特にハチには悪いという大変気になる報告を読んだことがあった。

ヘリ散布はおよそ50分の作業で終わった。いつものことだが、ヘリからの散布でドリフトが残るのが当面は案じられる。この散布作業の間にも、田のすぐ近くのホテルには散歩の人影があり、その裏の浜辺はキャンプや湖水浴の人たちがたむろしている。人家の近くもお構いなしの散布にはハラハラさせられる(写真)。

私の次の悩みはジレンマからのもの。つまり巣箱の鎖国をいつ解くかで悩んだ。巣門締め切りで巣箱の外に締め出されていたミツバチ数十頭が落ち着かない様子。門番バチが、盛んにチェックしに来てつきまとう。箱の内の大勢も不満(?)を抱いているのかも。穏やかでない雰囲気を感じてしまう。たとえ私が説明を試み、「外の花蜜は毒饅頭なのかもしれない(ちょっと古い表現!)。しばらく待ってネ。」と言ったとしても分かってはもらえないのが辛い。

8時過ぎ、我が連れ合いの「それはミツバチ虐待じゃ」という一声に、ついに門戸開放へと動いた。虐待と言われると、私も弱い。風もすこし吹いてきてドリフトをいくらか押し流したようなので決断。巣門から遮蔽物を取り除いてやると、待ちかねたように働きバチが次々と出てきて、少なくとも見かけはさわやかそうな青空に向かって飛んで行った。

散布により稲などの作物に浸透し、葉から出る水や花粉に潜んで効力を長く維持するのがネオニコ殺虫剤だ。たとえ当面のドリフトを逃れたとしても、その魔手を逃れきれるとは限らない。晴れぬ思いで彼女らを見送った。(タイサク)

マキノの庭のミツバチ日記(25)

酷暑と闘うミツバチたち

梅雨が明けて全国的に暑い日が続き、ところにより気温37度を超えたと報じられるこの頃である。湖畔にあって幾分か暑さをしのげるこの地であるが、庭のニホンミツバチはどうしているかといつも気になる。スズメバチを囲んで熱死させる「布団蒸し作戦」がやれるほどの能力ある働きバチは、高温(たとえば46度にものぼる)にめっぽう強いが、そうはいっても30分くらいの短時間での話。もちろん、巣房に収まる幼虫の生育には、高温は不適である。そのため、巣箱全体や少なくとも育児域だけは冷やす工夫がハチ自身の努力によりなされている。

先日、巣箱の中の様子を見ようとして前扉をそっと開けると、100頭にのぼる働きバチが中の床一面に散開し、頭をこちらに向けほぼ等間隔に並んで羽を動かしているところだった。「失礼しましたっ!」と言ってすぐに扉を閉め戻したが、騒ぎにはならなかった。外のテラスにいる連中が送り込んだ風を、さらに巣の奥から上方へ送り出している中継の役をしているようだ。このように集団で羽を動かし風を送る組織的行動は「扇風行動」といわれ、養蜂家の扱うセイヨウミツバチもこれをやる。風を送るときの体の向きがニホンミツバチは巣の外を向いている(写真)。ところがセイヨウミツバチはこれと真逆に、頭を巣の入口に向けて風を起こし、巣箱内の熱気を排出させている。外に臭いを出して天敵スズメバチを誘うのを恐れたニホンミツバチは、風が外に向かないようにしていると聞いたことがある。

暑さがひどいときは、水を運んで蒸発させ気化熱で涼しくしているとよく言われているが、これについて私は現場をまだ見たことがない。この方法は湿度の低い時は有効と思われるが、梅雨時のような高温多湿の時はどのくらい意味があるものなのだろうか。

水はどこから誰が運ぶのか?水汲み役は割と固定的だといわれる。ある実験によると、あたりに水場の無い地域に巣箱を移動させて、水場と餌場(糖液を置く)を人工的に設けた。その実験の結果は、セイヨウミツバチの外勤バチの内、1%程度が水汲み屋になり、専門業者のような固定した役割を果たすことが分かったとか。そのハチが巣に戻って口移しで荷下ろし屋(散水者)に水を渡すと、受け取ったハチが育児域などで水滴を広げて蒸散さすという仕組み。もちろん、水はそのような温度調節のほか、普段も蜜の調整(幼虫に与える蜂蜜は薄める)にも使われる。

他の避暑法として、私の「ハチ友」から聞いて教わったのは、冷凍庫で凍らせた保冷剤(アイスノン)2枚を天板に置くという方法。30度を超える猛暑の日にはこれを試みている。実際の効果のほどは分からないが、今のところ不都合なことはない。アルミフォイルなどの反射板を巣箱に貼って赤外線を跳ね返すということも考えたことがあったが、ギラギラ光る巣箱の外観がミツバチの機嫌を損ねるかもと思い不採択。決定的にスマートかつ有効な手がないのが残念。(タイサク)

マキノの庭のミツバチ日記(24)

ネオニコ殺虫剤が思いがけない「昆虫の避妊」に手を貸すかも

昆虫が避妊をするというのは妙かもしれない(全くないとは言い切れないが)。ただ、ここにあげた文は、ある論文の表題をもってきたもので、ちょっと皮肉っぽい言い回しかも。ハチの生殖異常のことは後でとりあげるが、まずは我が庭の巣箱の近況から始めましょう。

巣箱ののぞき窓を開いて内側を見ると、たまたま育児域が真正面に見え、ちょうど次々と羽化してきているミツバチが見えるところであった(写真。手前のガラス板に若いハチが白い腹をみせて止まっている。その向こう全面に張り出しているのが巣板)。巣房がところどころ空(から)になっていて穴のように見えるが、まだ中に納まってうごめくものもある。空の巣房はこの後きれいに掃除され、順次、蜜や花粉の貯蔵ツボとして利用される。下方はまだキャップ(ふた)がされたままで羽化はこれからというところ。なにはともあれ、順調に増えてコロニー(家族集団)が大きくなっているのは喜ばしい。

さて雄バチの生殖のことだが、昨年、気になる報告が出された。スイスなどの研究者らは、2種のネオニコチノイド農薬が雄のセイヨウミツバチの生殖能力を有意に(統計学的に意味のある範囲で)弱めることを示した(英国王立協会紀要B、2016年)。その実験では、20のコロニーに、それぞれ毎日100グラムのペースト状の花粉が50日間与えられた。実験群には、信じられないほど微量つまり4.5 ppb(ppbは10億分の1の量を示す)のネオニコチノイド系農薬が花粉に添加され、一方の無処理群は無添加であった。コロニーから取り出された若い雄バチは、性的に成熟するまで実験室のカゴで飼われた(世話係としての働きバチとご一緒に!)。この実験は慎重に計画されていて、この農薬添加量は、野外の花粉などに一般にみられるネオニコチノイド汚染濃度に相当していることを、精密分析で確認している。従来のこの種の薬害研究への批判として、非現実的な高い濃度を与えているというのがあったが、その点に配慮している。

羽化してきた雄バチについて調べると、寿命とさらにそれがもつ精子の質において差があるということだった。寿命が短い分だけ生殖のチャンスが減る。また生存精子を調べた結果は、実験群では39%も減少していた。この研究の結果は、ネオニコチノイド殺虫剤が昆虫雄の生殖能力に負の影響を与えうることを初めて示したものという。ミツバチ女王の生殖失敗や野生の昆虫送粉者の減少に一つの説明を付け加えたかも。

「防虫のための広範なネオニコチノイドの使用が想定外の避妊効果を対象外昆虫に与えてきたことを以前から見逃し、それゆえ保全の努力を削いでしまっていたのかもしれない。」との研究者としての反省・警告の言葉が論文に付けられていた。

ネオニコチノイドに起因するとみられる雄の生殖能力の減退は、単に昆虫だけでなく鳥類(神戸大での研究)やネズミとマウスなどについても、これに似た結果の報告がある。人類に近い哺乳類にも影響があることは大いに注目されるべきだ。かつて「環境ホルモン」の関連で人の精子数の減少が心配されたことがあった。当時の話では、今後も時間をかけて研究しないと確定的なことは言えないということだったが、結果は出たのだろうか。(タイサク)