マキノの庭のミツバチ日記(27)

稲の花の咲くころ

米の花を見たのは初めてだった。散歩の途中、青々とした水田の稲穂にふと目を
やったとき、白い点のようなものがちらほら見えた。これが米の花というものか!
写真を撮るためカメラを取りに家に戻った。引き返した時、その花はすでに閉じ
られていた。他の穂を探すと、あった、あった(写真)。籾(もみ)からはみ出て
見える白いのが雄蕊(おしべ)。ひょっとしてミツバチが来ているかとあたりを見
回したが、残念ながら見つけられなかった。

米の花は昆虫の助けの要らない風媒花で、7月下旬から8月初旬にかけて開花す
る。開花と言っても花弁(はなびら)はなく、籾(もみ)のカプセルから雄蕊の
数本がこぼれ出て見える。雌蕊(めしべ)はちょっと分かりにくい。これらが見
えるのはほんの2時間程度。花の命は短いといわれるが、米の場合は一瞬と言っ
てもいいほど。しかし、雄蕊からまき散らされた花粉が雌蕊につかまり受精すれ
ば、花としてはお仕事完了。

米作りの歴史は害虫との闘いの歴史でもあるといわれる。ホソカメムシはせっか
く実った穂の米粒を吸う害虫で、吸われた米粒は変色し斑点米と呼ばれる。0.2%
以上の被害があると米全体の品質低下とみなされ、経済価値も下がる。化学防除
の進んだ現在では、出穂(しゅっすい)時期に合わせて、ホソカメムシを退治す
るためにネオニコ系殺虫剤が水田に散布される。

青穂を目当てに来るのは害虫ばかりではない。先ほどの花粉を集めるのがミツバ
チ。夏の時期は頼りの花が不足しがち。しかし稲の花からは、花蜜は出ないがタ
ンパク源として花粉が収穫できる。ある研究者がミツバチの持ち帰った花粉を調
べたところ、その内の多くが米の花粉に由来していたという(*)。貴重なエサで
ある花粉の中に、浸透性そして残留性の高い殺虫剤が含まれている場合があるこ
とを、ミツバチは知らない。

ウチのハチたちは今どんな花粉を運んでいるのだろうかと気になった。働きバチ
がせっかく持ち帰った花粉であるが、「悪い、悪いナ」といいながら、後肢の花粉
バスケットから団子状にパックされたものを横取りして調べてみた。実際に顕微
鏡で観察してみると、花粉それぞれは丸いボール状で、小さな口のような穴が一
つ付いているのが見えた。それは米の花粉資料集の写真そのものに似ているが確
定できなかった。(タイサク)
〔* ドキュメンタリー映画『ミツバチからのメッセージ』より〕

 

マキノの庭のミツバチ日記(26)

ネオニコ散布ヘリがやってきた

朝6時過ぎ、バリバリという音とともにラジコン・ヘリが農薬散布に来た。地域の農業組合から配布のチラシには、米作りに重要なのでご協力をと記されていた。稲の害虫カメムシなどの駆除が主な目的らしい。しかし、最近明らかになってきているネオニコ系農薬が抱える問題点には一切触れられていない。

「ミツバチまもり隊」の活動も3年に及び、その成果も出始めた。高島市に申し入れていた散布予告放送が実現した。先のチラシに養蜂家への注意書きが載ったのも前にはなかったこと。私の庭に隣接する水田2面については、ここ3年ほどだが、持ち主のご厚意でネオニコを撒かないところまで進んでいる。

散布では風向きが気になる。今朝は北からの風なので、これはまずい。もろに我が家と巣箱に向いてくる。過去にも、散布の後にミツバチの調子が悪くなりコロニー絶滅に至った経験をしているので神経質になる。巣箱を他に移すことを考えたが、ニホンミツバチの巣の本体をなす蜜ロウは熱に弱く、気温の高い時に動かすと巣が落下(巣落ち)する恐れがあり、とりやめた。せめてもの処置として、散布空間を飛んで被曝(ひばく)するのを避けるため、金網を巣門にあてて巣箱の出入りを止めた。

ラジコン・ヘリで散布されるのは殺虫剤スタークル(ネオニコ系)と殺菌剤ビームエイトの混合液。スタークルの濃度は原液の8倍希釈。地上での通常の散布だと250~1000倍希釈だから、すごい濃厚液だ。それがヘリの両脇に取り付けられたタンクから下方に噴射され、一部は霧状になりドリフト(浮遊物)として滞留したり周辺に拡散したりする。さらに、殺菌剤と殺虫剤の混合液は相乗効果が出て、特にハチには悪いという大変気になる報告を読んだことがあった。

ヘリ散布はおよそ50分の作業で終わった。いつものことだが、ヘリからの散布でドリフトが残るのが当面は案じられる。この散布作業の間にも、田のすぐ近くのホテルには散歩の人影があり、その裏の浜辺はキャンプや湖水浴の人たちがたむろしている。人家の近くもお構いなしの散布にはハラハラさせられる(写真)。

私の次の悩みはジレンマからのもの。つまり巣箱の鎖国をいつ解くかで悩んだ。巣門締め切りで巣箱の外に締め出されていたミツバチ数十頭が落ち着かない様子。門番バチが、盛んにチェックしに来てつきまとう。箱の内の大勢も不満(?)を抱いているのかも。穏やかでない雰囲気を感じてしまう。たとえ私が説明を試み、「外の花蜜は毒饅頭なのかもしれない(ちょっと古い表現!)。しばらく待ってネ。」と言ったとしても分かってはもらえないのが辛い。

8時過ぎ、我が連れ合いの「それはミツバチ虐待じゃ」という一声に、ついに門戸開放へと動いた。虐待と言われると、私も弱い。風もすこし吹いてきてドリフトをいくらか押し流したようなので決断。巣門から遮蔽物を取り除いてやると、待ちかねたように働きバチが次々と出てきて、少なくとも見かけはさわやかそうな青空に向かって飛んで行った。

散布により稲などの作物に浸透し、葉から出る水や花粉に潜んで効力を長く維持するのがネオニコ殺虫剤だ。たとえ当面のドリフトを逃れたとしても、その魔手を逃れきれるとは限らない。晴れぬ思いで彼女らを見送った。(タイサク)

マキノの庭のミツバチ日記(25)

酷暑と闘うミツバチたち

梅雨が明けて全国的に暑い日が続き、ところにより気温37度を超えたと報じられるこの頃である。湖畔にあって幾分か暑さをしのげるこの地であるが、庭のニホンミツバチはどうしているかといつも気になる。スズメバチを囲んで熱死させる「布団蒸し作戦」がやれるほどの能力ある働きバチは、高温(たとえば46度にものぼる)にめっぽう強いが、そうはいっても30分くらいの短時間での話。もちろん、巣房に収まる幼虫の生育には、高温は不適である。そのため、巣箱全体や少なくとも育児域だけは冷やす工夫がハチ自身の努力によりなされている。

先日、巣箱の中の様子を見ようとして前扉をそっと開けると、100頭にのぼる働きバチが中の床一面に散開し、頭をこちらに向けほぼ等間隔に並んで羽を動かしているところだった。「失礼しましたっ!」と言ってすぐに扉を閉め戻したが、騒ぎにはならなかった。外のテラスにいる連中が送り込んだ風を、さらに巣の奥から上方へ送り出している中継の役をしているようだ。このように集団で羽を動かし風を送る組織的行動は「扇風行動」といわれ、養蜂家の扱うセイヨウミツバチもこれをやる。風を送るときの体の向きがニホンミツバチは巣の外を向いている(写真)。ところがセイヨウミツバチはこれと真逆に、頭を巣の入口に向けて風を起こし、巣箱内の熱気を排出させている。外に臭いを出して天敵スズメバチを誘うのを恐れたニホンミツバチは、風が外に向かないようにしていると聞いたことがある。

暑さがひどいときは、水を運んで蒸発させ気化熱で涼しくしているとよく言われているが、これについて私は現場をまだ見たことがない。この方法は湿度の低い時は有効と思われるが、梅雨時のような高温多湿の時はどのくらい意味があるものなのだろうか。

水はどこから誰が運ぶのか?水汲み役は割と固定的だといわれる。ある実験によると、あたりに水場の無い地域に巣箱を移動させて、水場と餌場(糖液を置く)を人工的に設けた。その実験の結果は、セイヨウミツバチの外勤バチの内、1%程度が水汲み屋になり、専門業者のような固定した役割を果たすことが分かったとか。そのハチが巣に戻って口移しで荷下ろし屋(散水者)に水を渡すと、受け取ったハチが育児域などで水滴を広げて蒸散さすという仕組み。もちろん、水はそのような温度調節のほか、普段も蜜の調整(幼虫に与える蜂蜜は薄める)にも使われる。

他の避暑法として、私の「ハチ友」から聞いて教わったのは、冷凍庫で凍らせた保冷剤(アイスノン)2枚を天板に置くという方法。30度を超える猛暑の日にはこれを試みている。実際の効果のほどは分からないが、今のところ不都合なことはない。アルミフォイルなどの反射板を巣箱に貼って赤外線を跳ね返すということも考えたことがあったが、ギラギラ光る巣箱の外観がミツバチの機嫌を損ねるかもと思い不採択。決定的にスマートかつ有効な手がないのが残念。(タイサク)

マキノの庭のミツバチ日記(24)

ネオニコ殺虫剤が思いがけない「昆虫の避妊」に手を貸すかも

昆虫が避妊をするというのは妙かもしれない(全くないとは言い切れないが)。ただ、ここにあげた文は、ある論文の表題をもってきたもので、ちょっと皮肉っぽい言い回しかも。ハチの生殖異常のことは後でとりあげるが、まずは我が庭の巣箱の近況から始めましょう。

巣箱ののぞき窓を開いて内側を見ると、たまたま育児域が真正面に見え、ちょうど次々と羽化してきているミツバチが見えるところであった(写真。手前のガラス板に若いハチが白い腹をみせて止まっている。その向こう全面に張り出しているのが巣板)。巣房がところどころ空(から)になっていて穴のように見えるが、まだ中に納まってうごめくものもある。空の巣房はこの後きれいに掃除され、順次、蜜や花粉の貯蔵ツボとして利用される。下方はまだキャップ(ふた)がされたままで羽化はこれからというところ。なにはともあれ、順調に増えてコロニー(家族集団)が大きくなっているのは喜ばしい。

さて雄バチの生殖のことだが、昨年、気になる報告が出された。スイスなどの研究者らは、2種のネオニコチノイド農薬が雄のセイヨウミツバチの生殖能力を有意に(統計学的に意味のある範囲で)弱めることを示した(英国王立協会紀要B、2016年)。その実験では、20のコロニーに、それぞれ毎日100グラムのペースト状の花粉が50日間与えられた。実験群には、信じられないほど微量つまり4.5 ppb(ppbは10億分の1の量を示す)のネオニコチノイド系農薬が花粉に添加され、一方の無処理群は無添加であった。コロニーから取り出された若い雄バチは、性的に成熟するまで実験室のカゴで飼われた(世話係としての働きバチとご一緒に!)。この実験は慎重に計画されていて、この農薬添加量は、野外の花粉などに一般にみられるネオニコチノイド汚染濃度に相当していることを、精密分析で確認している。従来のこの種の薬害研究への批判として、非現実的な高い濃度を与えているというのがあったが、その点に配慮している。

羽化してきた雄バチについて調べると、寿命とさらにそれがもつ精子の質において差があるということだった。寿命が短い分だけ生殖のチャンスが減る。また生存精子を調べた結果は、実験群では39%も減少していた。この研究の結果は、ネオニコチノイド殺虫剤が昆虫雄の生殖能力に負の影響を与えうることを初めて示したものという。ミツバチ女王の生殖失敗や野生の昆虫送粉者の減少に一つの説明を付け加えたかも。

「防虫のための広範なネオニコチノイドの使用が想定外の避妊効果を対象外昆虫に与えてきたことを以前から見逃し、それゆえ保全の努力を削いでしまっていたのかもしれない。」との研究者としての反省・警告の言葉が論文に付けられていた。

ネオニコチノイドに起因するとみられる雄の生殖能力の減退は、単に昆虫だけでなく鳥類(神戸大での研究)やネズミとマウスなどについても、これに似た結果の報告がある。人類に近い哺乳類にも影響があることは大いに注目されるべきだ。かつて「環境ホルモン」の関連で人の精子数の減少が心配されたことがあった。当時の話では、今後も時間をかけて研究しないと確定的なことは言えないということだったが、結果は出たのだろうか。(タイサク)

マキノの庭のミツバチ日記(23)

夏分蜂起こる

思えば前日の昼に見た巣箱前でのにぎやかで激しい「時騒ぎ」(若バチの訓練飛行)は、今日のための特訓だったのかもしれない。庭にある巣箱は、今年の5月初めに捕らえられた分蜂群(巣別れをした群)だった。それが夏になってさらに分蜂(夏分蜂とか孫分蜂といわれる)することが予想されていた。まさにその夏分蜂が起きた。

朝8時すぎにY(妻)が台所の窓越しに飛び回るミツバチの群を見て警報を発した。その時はすでに松の木の高いところ付近を、ばらけたハチの無数の群れが煙のように立ち上り拡散しさまよっていた。ハチたちは、やがて7mほどの高いところにある松の木の枝に急速に集まって塊(蜂球)をつくり、羽音の重なった騒音が止んであたりに静けさが戻ってきた。この高さだと私の力量での分蜂群回収はほぼ絶望的。しかし庭師にしてミツバチまもり隊隊長の小織さんに電話してみると、早速、長い梯子(ハシゴ)をもって駆けつけてくれた。

「初めての経験ですけど」などと言いつつ、彼は庭師らしい慣れた足取りで梯子を登って、ゴミ用ポリ袋に蜂球を落とし込んで回収し(写真)、庭に用意した空き巣箱に取り込んでくれた。それに先立ち、蜂球の宿った枝から突き出た邪魔な小枝をうまくカットし、取りやすくしていたが、その際に、ミツバチに指をやられたという。「ハチに刺されて死ぬのなら本望」と言いながら、毒針を抜きとり吸引器で傷口を吸った後、軟膏を塗っていた。

しかし、このような犠牲を伴った我らの最初のアタックは、どうも女王を取り逃がしたみたい。女王が入っていれば、巣箱の入口テラスに出た働きバチ数頭が、尻を上げて未着の仲間の呼び込みをするのが見られるはず。だが、一向にその様子がなく、むしろ元いた枝の方に飛んで出ていくのが目立つ。そして、蜂球が付いていた枝のあたりが、こんもりとしたふくらみを取り戻してきた。

そこで第2次アタック隊出動となるが、木登り本職(?)の小織さんは仕事で帰ってしまっていた。と言っても私とYだけしかいない。ついに私が梯子に上り回収にあたることに。2階くらいの高さのところなので、気が進まない。落下して脊髄損傷、寝たきり老人直行、などと沸き起こるマイナス・イメージトレーニングを振り切っての強行。最近ではハチのことになると特に熱心な我が連れ合いは、今回の緊急事態でハイの状態に。「梯子の下を押さえておくから」というYのランランとした眼(まなこ)に追い立てられるようにして、1段また1段とゆっくり登って行った。蜂球近くに来て手を伸ばすと、さすがに体のバランスがとりにくい。深呼吸の後、何とか足を踏ん張って、袋の中に蜂球を一挙に落とし込む。ドサッという音とともに手応えを感じた。口を閉じて地上まで降ろして、騒がしい虜囚たちのいる巣箱にふたたび押し込む。今度はうまく女王がかかったと見え、巣箱玄関口での呼び込みが見られ、一方、元の枝から塊が次第に小さくなってついに消えた。 

分蜂群は元の家族と餌場を争うのを避ける傾向があると聞く。そこで遠くに移すことにした。譲渡希望を申し出られたマキノのあるお宅を嫁入り先に選定。その地は山際でハチを飼うには良さそうな環境のところ。封印した巣箱を送っていき、胸に生じた小さな空隙を抑えつつ、セッティングを見守った。(タイサク)

マキノの庭のミツバチ日記(22)

甘みのシグナルはリズムにのって

“なぞなぞ”みたいに「これナーンだ」と尋ねながら1枚の写真を示す(写真-1)。なかなか当ててもらえないのは無理もない、これはニホンミツバチの味覚器の中を走るリズム、つまり神経信号を一瞬とらえたものだから。まさに甘さに関
する情報を脳に伝えているところ。砂糖水を口ひげの毛(味覚毛)につけてやるとこれが生じる。


写真-1(甘み情報 ニホンミツバチからの記録)

ミツバチの素早い身のこなし、ちゃんと巣に戻る能力、高い学習能力、それにコミュニケーション力、これらの能力がただの昆虫に備わっていることが信じがたいように思える。だが、ミツバチの体に精巧な神経のネットワークが張り巡らされ、複雑で迅速な情報処理がなされていることを知れば、なんとなくうなずける。神経の働きを見るのはそう簡単なことではないが、ミツバチなどの毛状の味覚器については、割に簡単だ。少し技術的な表現も入れて次に書いてみた。

体の中に配置された神経細胞(ニューロン)は、イオンを含む水とタンパク質と油脂膜などからなる。味覚毛の中の甘味細胞(これは神経細胞でもある)は、甘さ(味覚強度)に応じてイオン(つまり電気)の波を発し、神経繊維を通じて脳に送り出すのが役目。

ニホンミツバチの外葉(口ひげ)に多数ある味覚毛の先端に、ガラス毛細管に入れた砂糖水(例えば7%)をつける(写真-2)。すると、毛の内に来ている甘味細胞に、パルス状の電気波が発生し神経繊維に沿って伝わっていく。このガラス管は電極の役も兼ねるので、その波を拾ってモニターに送り映像を見ることが出来る。私のように湖畔の隠居室の住人にとって、やれることには限りがある。主要なパーツであるAD変換機はネットで買った。毛細管は細いガラス管を炎にかざして手引きで作った。次に、アンプとAD変換機を接続する。さらに釣鐘状に編んだ金網をノイズ除けとして自分の頭から、記録セットも含めて、すっぽりかぶる。そうすると、写真のような波形が取れる。1か月の苦闘のあと成功したのは7年前のこと。


写真-2(味覚毛の先端に砂糖水を浸ける。顕微鏡写真)

写真-1のデータは、0.1秒の短い時間に発生しているクシの歯状の波(電圧のパルス波)を示している。本来はスムーズな波なのだが細かいギザギザが付いて見えるのはちょっと残念(変換機が安物のせい)。この短い時間の間に7発のパルス波が見て取れる。1秒当たりに換算すると70発なので、周波数70Hz(ヘルツ)と言い換えてもいい。この数値だと液がかなり甘いことを知らせている。もっと砂糖水の濃度を上げていくと、波の出方はより密になり、スピーカーで音にして聞くと「ビー」という甲高い音(ダジャレじゃなくて)に近づく。塩水を付けた場合は塩味細胞が働き、別の回線を通じてパルス波を脳に伝え、塩味を知らせる。このように外の世界の味物質の種類と濃さが、ミツバチの感覚器で電気波の出方(周波数)に翻訳され、脳がそれを読んで味情報を知ることになる。そういうふうにミツバチたちの活動の舞台裏をのぞき見て、さらに想像を広げるのも楽しい。

ミツバチの信号化システムと脳での処理システムは重金属や農薬など薬物の影響を受けやすい、大変に精巧なシステムである。それが言いたくてここまで書いてきた。(タイサク)

マキノの庭のミツバチ日記(21)

地震とニホンミツバチの危機管理能力

庭に咲いたクローバーの花に、ニホンミツバチが来て蜜を吸い取っては次の花へと飛んでいく(写真)。見ていると癒される光景だ。大地はのどかで平和だと思いたくなる。だが、先日行ったある地震学者の講演会で、琵琶湖西岸断層帯が活動するときは巨大地震が襲ってくるとのこと。後で質問したら、「お宅のあたりも次の候補地のひとつになってます」とのご託宣をいただいた。

過去の世界各地での大地震の際に、いろんな動物がパニックになり騒いだなどの記録が多数ある。昆虫では、ゴキブリ、カイコ、アリのほか常連としてミツバチが名を連ねる。地震に先立って、真冬なのに巣箱からミツバチが急に逃げ出したといった例が多い。以前、私は神戸にいて阪神淡路大震災を経験した。それからもう20年以上経つが、その大災害のことは脳裏に刻まれている。当時出版された体験報告集には、ミツバチが1月の寒い中にもかかわらず突然現れ、翌日に大地震が来たという記載があった。

ミツバチは体内に、地磁気に応じる磁鉄鉱の顆粒を持つことが証明されていて、ミツバチのナビゲーション(航行術)との関連がいわれて久しいが、まだはっきりしていない。しかし大地震前段階で起こるとされる電磁気環境の異常があれば、ミツバチたちは気づいてくれるかもしれない。「その時は真っ先に私に知らせてね」と巣箱に向かって語りかけても、無邪気に飛び立つ外勤バチからは何の反応もない(あたりまえ!)。

ミツバチの一家族が群れ丸ごとで逃げる(逃去という)ことがある。特に、ちょっとしたことでも逃去が起こりがちなのはニホンミツバチ。ただしセイヨウミツバチは養蜂家によるケアーに慣れていて、定住性があるといわれる。「逃げるのはニホンミツバチ本来の姿」とは飼育ベテランの言葉。数千から万の群れの持つ特性が危機管理に生かされている面がある。巣箱にできた不都合な隙間を塞ぐのは人海(蜂海?)戦術で朝飯前。スズメバチの襲来に対しては、まるで球場での野球チーム応援のウェーブみたいな動きをすることもある(振身行動という。もちろんこの場合は「あっちに行け!」という威嚇だ)。強敵オオスズメバチに対しては、身を隠して様子を見、スキを見つけては多勢で相手を包み込みボール状になって熱死させる特技もある。

ミツバチは一妻多夫制をとり、多数の父親から由来する多様な遺伝子をもつ働きバチを数多く生み出し、その様々の個性ある持ち駒で危機に対応する。だから何もしない怠け者と見える者も実は予備軍として待機しているのかも。そしていざとなれば「逃げるが勝ち」の生き方をとってきたニホンミツバチは、危機の段階・程度にうまく対応した体制と回復能力をもつ。だが、旧来の危機管理術にも限界がある。遺伝子に納まるプログラムにまだ未登録の外来種ダニ・ウイルスや、無味無臭の新規農薬(例えばネオニコチノイド系)、そして地球温暖化などにたいしては、十分な備えが出来ていないということだろうか。(タイサク)

マキノの庭のミツバチ日記(20)

空を掃く朝

朝、庭に出ると箒(ほうき)を持ち出して、地面を掃くのではなくて空を掃くことが日課になった。というのも、5月中頃からミツバチの群れが我が庭に住むようになったからである。勤勉な働きバチが朝の仕事に出かけようとするとき、まさにそのコース上に、見えないワナが仕掛けられている。クモの仕業だ。クモの糸については、極細であっても鋼鉄よりも強い(断面積あたりで耐える力を測ると)という実験がなされている。その見えない強力なワナが、木立や建物、物干しなどを利用して至るところの空間に仕掛けられている。ミツバチを保護する立場からするとさすがにこれはまずい。そこで、私の朝一番の仕事のひとつは箒で家の周りの空を掃きまくって、邪悪な意図を未然にくじくことだ(クモさん、ごめんサーイ!)。もう一つの仕事は、テレビの今日の天気予報をミツバチに代わって調べること。

先日、滅亡に至った巣箱の群れ(キンリョウヘン・グループと名付けておこう)のことを記した。だがその一方で活発に勢力を増しつつある一群れが身近にいることを無視するわけにはいかない。それはキンリョウヘン・グループがやって来る数日前のことだったが、琵琶湖対岸の地に住むBee仲間のIさんらが、ニホンミツバチ一群れの住む巣箱1個を、それまで蜂空白地だった我が家に持ち込んでくださった。その群れのルーツは山梨県から移入したものだそうだ。アカリンダニの寄生に強い群れで、手作りの巣箱(写真)もその地の技術導入がなされている、とIさんは言う。こうして、新手の一家が裏庭に住み着くことになった。

この巣箱は木製の重箱型2段組みで、正面下部の横板には高さ7ミリほどの入口(巣門)があり、この板全体は端を蝶番で止められており、扉のように開閉できるので、掃除や中の巣板の観察に便利である。横板中央には鉛筆が通りそうな大きさの丸い穴が開けられている。この穴の意味が不明(ファイバースコープ用?)だが、見ているとハチが結構楽しげにここを潜り抜けている。さらなる工夫として、巣箱の底板部分だけでも引き出して掃除できるようになっている。天井にはスノコ状の隔離板の上に樹脂の網が敷かれ、そこに紙にくるまれたメントール(ハッカ)の結晶が10グラムほど置かれている。これはアカリンダニを抑制するためのもの。一番上に板の蓋が置かれるが、そこにも一部に網が貼られ、通気がしやすいようになっている。小さな隠し窓が2段目の箱枠に取り付けられているので、内側の巣の様子をのぞき見ることができて便利だ。

巣箱が運び込まれたときは、分蜂群捕獲のときから20日経過しているということであったが、いまや巣板も大きく、先端が底に達しそうになり、もう1段の箱枠を入れて増設したのは最近のこと。ついでに台座も入れ替えた。一人では難しかったが、幸いにもミツバチまもり隊の隊長小織さんに手伝ってもらえた。新調のパーツはIさんがあらかじめ用意してくれていたので、取替え作業がスムーズに運んだ。ということで現在は3段の箱になっている。この一家はすごく活発で勢いよく増えているので、先が楽しみだ。(タイサク)

マキノの庭のミツバチ日記(19)

王国の落城

前に書いたように、キンリョウヘンを脇に置いた箱にミツバチが自発的に入ってくれて、大歓迎で受け入れたのは忘れもしない5月17日だった。だが、早くも2週間たたないうちに、不幸の影が訪れてきた。飛び方の妙な働きバチがいる。よく見るとKウイング(羽が4枚に開いてKの字に似た形)のものもいる。その内、巣箱の前に降りて徘徊するものが2、3頭。これはアカリンダニにやられたのかもしれないと思って焦る。2、3日前には見られなかった現象だ。急にこんなことになったのか。早速に徘徊バチを数頭捕まえ冷凍30分の後、顕微鏡で見ながら開胸検査。胸部左右に1対ある太さが約0.1ミリの気管の内にアカリンダニが潜んでいるのを見出した。調べたハチはどれもそんな有様だ。気管の中が汚れ黒ずんでおり産みつけられた卵までもあるので、年季の入った感染のようだ。

さらに巣箱の内の様子を見るため、前扉を開けて携帯を突っ込んで動画を撮影した。箱の隅に白く巣板が見える。ハチの数がかなり減っているように思えた。ダニを抑えるメントール(ハッカ)を入れておいたが遅すぎたかも。この一群が我が家に飛来する前、元の巣にいるときにすでにダニ感染が進んでいたのかもしれない。しかしそれでもまだ外勤から戻ってくるハチがいて、この群れは細々と命をつないでいるようである。

終末近い巣箱からよろめくように飛び出し空に向かう働きバチは、それでも力を振りしぼり仲間が待つ花蜜を求めて飛ぶつもりなのか。いや、本能に突き動かされながら行動しているだけなのか、などと巣箱のそばに立って想いをめぐらす。疲れ切った様子で帰ってきたハチにも、「よく戻ってきた。君の最後のフライトか。」と声をかけたくなり、過度の感情移入に気づいて苦笑してしまう。私も立派に(?)老人になってからは、能力(ちから)衰えたものへの共感をもち易くなった。

しかし、ついに王国の終わりを確認する時が来た。巣箱を開けると、80ほどのハチの死体と30ほどの頼りなげな働きバチを残し、王国は見る影もなかった。わずかに掌ほどの2枚の巣板が、栄華の名残をとどめていた(写真)。多数の巣房(巣を構成する六角形の小部屋、差し渡しが5ミリほど)に貯められていたはずの蜜は全て吸い出された跡がある。花粉は床に積もるように落とされていた。働き手が蜜を運べなくなり、多くの残留バチが餓死したのであろう。蜜を求めてか、巣房に頭を突っ込んだまま死んでいるハチもいた。8匹ほどの幼虫が巣房に残されているのも見てとれたが、女王の姿は確認できなかった。

さて、このように気落ちする悲劇的な結末だったが、ミツバチ日記はこれにて終わりということにはならない。次回は裏庭に居を構える別のミツバチ一家について、その動向に目を向けることに。(タイサク)

マキノの庭のミツバチ日記(18)

蘭の花(キンリョウヘン)がミツバチを呼んだ(その2)

(前号からつづく)
一夜が明けて、我が庭の箱へ来たミツバチ集団(写真はキンリョウヘンを取り去る前の巣箱)は、だいぶ落ち着いたように見える。働きバチが黄色の花粉を運び込むのが度々見られるようになったので、女王が産卵を開始したらしい。花蜜とちがってタンパク質を多く含む花粉は産卵のために欠くことのできない糧である。ということでまずは一安心。ところが、隣家Kさんの庭の巣箱では、残念なことに出入りが途絶え中は空っぽ。もともと小さな集団だったから本隊を追って逃げたのかもしれない。

マキノ町の内でニホンミツバチ飼育をやる人がほとんどいなくなっている。最近まで飼っていたがやめたという人もいる。タンポポ、菜の花、桜、ツツジと、季節の花の主役はどんどん変わり行く日々だが、ミツバチの姿を花の周辺に見出す機会がごくまれになった。花々だけが一面に咲き誇るのを目にしても、私には不気味な光景に思えてくることがある。しかし1、2か月前のことだが、10頭ほどのニホンミツバチが庭のビワやサクランボの花に来て花蜜を採っているのを目にしたことがあった。動き回るミツバチたちを見るのは本当に久々のこと。そのハチの帰る方向を見定めようと木の下に立ち尽くしたおかげで、彼女らはほぼ西の方向を目指して帰り、また逆にそちらから新手が来るのが分かった。これは勘みたいなものだが、近くの廃屋のある一帯が怪しげに思えた。実際、その家のそばに、こぼれ種から広がった貧しい菜の花畑の中に、ニホンミツバチを見かけることがあったから。近くに隠れ住むハチたちの群れから、分蜂(巣別れ)になってキンリョウヘン目当てで来てくれたのでは、と勝手な想像を広げた。

キンリョウヘンは小さな花をたくさんつける。その花の一つ一つは、犬があくびをして出した大きな舌のような唇弁が目立つ。花蜜はないが花外蜜腺(花以外のところで蜜が分泌される)をもつ。しかしミツバチはそれを利用できない。花粉は塊でハチの背中にくっつくのでこれもダメ。なんとも喰えない蘭だ!キンリョウヘンがハチをどのようにして集めるのだろうか。それにはどんな意味があるのだろうか?その点について詳しく書かれた本(*)があったのを思い出して読み直した。この分野の最先端を行く研究者によるスリリングで面白い記述と写真が満載されている。独創的な実験も読んでいて楽しい。キンリョウヘンは、集合フェロモンみたいな誘引作用を持つ2成分を出してハチを呼び寄せる戦略をとっているらしい。だが、その上を行く2刀流の使い手が、NHKの科学番組『ワイルドライフ』などで紹介されたハナカマキリ。このハンターは、花の形と色に似せた姿で昆虫を呼び寄せ捕食する。加えて、キンリョウヘンの花と同じ2成分を発散してミツバチを誘いこみ捕食するという。昆虫と花の間に繰り広げられる駆け引きの世界を知るにつけ、想像も及ばないような自然の巧妙さと奥深さをいまさらのように感じた。(タイサク)
(* 菅原道夫著『比較ミツバチ学 ニホンミツバチとセイヨウミツバチ』東海大学出版部)