庭先にも「メリー・スプリング」
朝、巣箱入口で掃除中の働きバチを見ていると、蜜ロウでできた巣屑のかけらのほかに白い粒をたまに出すようになった。それぞれ1ミリ以下と小粒だが触ると 堅い。2週間ほど前からそれを目にするようになり気になっていた。この白い粒をピンセットで取り上げて顕微鏡で拡大して観察すると、表面がキラキラしていて一見すると石のかけらのように見える(写真)。いったいこれは何なのか。手っ取り早い化学検知器(つまりわが舌の先)で舐めてみたら「ブドウ糖」みたいな甘みが感じられ糖類のようだ。働きバチたちが外勤(ふつうは20日くらい)で稼いでくる花蜜の総量は、1頭あたり小サジ1杯分に満たない程のわずかな量だ。苦労して集めた貴重な甘い食料をなぜ出すのか、いぶかしく思った。
思いをめぐらしているうちに、巣内に貯めておいた蜂蜜の一部が冬の低温にさらされて結晶化したのだろうという考えにたどり着いた。蜂蜜が含む主な糖類はショ糖、果糖、ブドウ糖だが、その中でブドウ糖は特に析出(結晶化)しやすい。たとえ結晶になってもミツバチの出す唾液でゆっくり溶かすことができるはず。だが、花蜜が十分に手に入るようになった今の時期、それは面倒で時間の無駄になることかもしれない。おそらく邪魔な屑ものにすぎないので排出しているのだろう。巣の中でハチたちは、花粉と蜜の大量貯蔵とこれからとても忙しくなる育児用の部屋を増築するため、リフォームの突貫工事にかかっているのかもしれない。
午後になり暖かくなる頃には、50頭ほどが巣の入口や近くではしゃぐような「時騒ぎ」をやっている(写真)。見るからにたどたどしい飛び方を見せるのは若バチの群れのようだ。しかしともかくも、この冬を巣箱の一家はよくぞ生き残って待望の春を迎えてくれた。おもわず「おめでとーさん・・・!」と言いたくなる。「沈黙の・・・」ではなくてブンブンと聞こえる「にぎやかな春」(メリー・スプリング)がいよいよ到来したのだ。(タイサク)
<連載してきたこの日記は、ハチ達の行動が活発になる巣別れの時期までしばらくお休みします。>