分蜂群にみごと逃げられた(その1)
2回目の分蜂のことは前回に書いたが、その分蜂の最中に、1回目の分蜂で捕まえて巣箱に収まっていた蜂群が、なにかの影響を受けたのか、巣門のあたりに数百頭の群れで出てきていた。この動きは一時的で、やがて落ち着いたように見えた。しかし翌日の朝から、その箱での蜂の出入りがおかしい。入口にスーッと入っていかないで、内側をうかがうようなそぶりが目立つようになり心配だった。
ついに出入りがごくわずかになったところで点検のために巣箱を開けたところ、蜂が一頭もいない空っぽの状態。ただ、箱の内側の天板の真ん中に、作りかけのきれいな巣板が1枚残されていた。それは小判のような楕円形で、上端は天板の中央に固定されそのまま下方に垂れ下がっていた。ちょっと見るとウエハースの菓子みたい。その素材の蜜ロウは働き蜂が自ら分泌しこねあげたものだろう。全体はシート状の美しいハニカム構造(六角形が連なった蜂の巣の作り)になっている(写真)。
そのそれぞれの小さな六角形の巣穴(蜂の子も入るので巣房という)の中に、プロペラのような三ツ星がのぞいている。これは、裏側に表と同じように作られたシートの六角形の一部(頂点付近)が透けて見えていることによる。つまりそれぞれの巣房は底部に三つ叉(Y 字型)の支えをもつ構造になっている。このように、幾何学的に精巧に、また力学的にも強度をもって作られているのには驚嘆させられる。蜂たちはたった3日でここまで作ったのだ。ところで、このパターンは、高級車メルセデス・ベンツのボディに輝くエンブレム(スリーポインテッドスター)を想い出させる(もっとも、エンブレムのほうは外周が六角形ではなくて円になっているが)。
確保したはずの分蜂群とのあっけない別れに呆然としてしまったが、気を取り直してこの精巧な「建築物」をカメラに納めた。もし逃げずに巣作りを続けてくれたなら、小判が団扇(ウチワ)くらいにまで大きくなり、また、両隣にも同じように巣板が重なって作られ、最後には10枚並びの立派な巣が出来ていたかもしれない。それをフォローできずに終わったのは残念。
しばらくはこの「逃去」のことが頭から離れなかった。いつの間に群れごと出たのだろうか。夜逃げしたというのも考えにくい。ひょっとしたら、前日に起きた2回目分蜂の騒ぎが刺激になり、便乗して出て行ったのかもしれない。双方の巣箱をごく近くに置いたのが失敗だったかも。(タイサク)