地震とニホンミツバチの危機管理能力
庭に咲いたクローバーの花に、ニホンミツバチが来て蜜を吸い取っては次の花へと飛んでいく(写真)。見ていると癒される光景だ。大地はのどかで平和だと思いたくなる。だが、先日行ったある地震学者の講演会で、琵琶湖西岸断層帯が活動するときは巨大地震が襲ってくるとのこと。後で質問したら、「お宅のあたりも次の候補地のひとつになってます」とのご託宣をいただいた。
過去の世界各地での大地震の際に、いろんな動物がパニックになり騒いだなどの記録が多数ある。昆虫では、ゴキブリ、カイコ、アリのほか常連としてミツバチが名を連ねる。地震に先立って、真冬なのに巣箱からミツバチが急に逃げ出したといった例が多い。以前、私は神戸にいて阪神淡路大震災を経験した。それからもう20年以上経つが、その大災害のことは脳裏に刻まれている。当時出版された体験報告集には、ミツバチが1月の寒い中にもかかわらず突然現れ、翌日に大地震が来たという記載があった。
ミツバチは体内に、地磁気に応じる磁鉄鉱の顆粒を持つことが証明されていて、ミツバチのナビゲーション(航行術)との関連がいわれて久しいが、まだはっきりしていない。しかし大地震前段階で起こるとされる電磁気環境の異常があれば、ミツバチたちは気づいてくれるかもしれない。「その時は真っ先に私に知らせてね」と巣箱に向かって語りかけても、無邪気に飛び立つ外勤バチからは何の反応もない(あたりまえ!)。
ミツバチの一家族が群れ丸ごとで逃げる(逃去という)ことがある。特に、ちょっとしたことでも逃去が起こりがちなのはニホンミツバチ。ただしセイヨウミツバチは養蜂家によるケアーに慣れていて、定住性があるといわれる。「逃げるのはニホンミツバチ本来の姿」とは飼育ベテランの言葉。数千から万の群れの持つ特性が危機管理に生かされている面がある。巣箱にできた不都合な隙間を塞ぐのは人海(蜂海?)戦術で朝飯前。スズメバチの襲来に対しては、まるで球場での野球チーム応援のウェーブみたいな動きをすることもある(振身行動という。もちろんこの場合は「あっちに行け!」という威嚇だ)。強敵オオスズメバチに対しては、身を隠して様子を見、スキを見つけては多勢で相手を包み込みボール状になって熱死させる特技もある。
ミツバチは一妻多夫制をとり、多数の父親から由来する多様な遺伝子をもつ働きバチを数多く生み出し、その様々の個性ある持ち駒で危機に対応する。だから何もしない怠け者と見える者も実は予備軍として待機しているのかも。そしていざとなれば「逃げるが勝ち」の生き方をとってきたニホンミツバチは、危機の段階・程度にうまく対応した体制と回復能力をもつ。だが、旧来の危機管理術にも限界がある。遺伝子に納まるプログラムにまだ未登録の外来種ダニ・ウイルスや、無味無臭の新規農薬(例えばネオニコチノイド系)、そして地球温暖化などにたいしては、十分な備えが出来ていないということだろうか。(タイサク)