マキノの庭のミツバチ日記(24)

ネオニコ殺虫剤が思いがけない「昆虫の避妊」に手を貸すかも

昆虫が避妊をするというのは妙かもしれない(全くないとは言い切れないが)。ただ、ここにあげた文は、ある論文の表題をもってきたもので、ちょっと皮肉っぽい言い回しかも。ハチの生殖異常のことは後でとりあげるが、まずは我が庭の巣箱の近況から始めましょう。

巣箱ののぞき窓を開いて内側を見ると、たまたま育児域が真正面に見え、ちょうど次々と羽化してきているミツバチが見えるところであった(写真。手前のガラス板に若いハチが白い腹をみせて止まっている。その向こう全面に張り出しているのが巣板)。巣房がところどころ空(から)になっていて穴のように見えるが、まだ中に納まってうごめくものもある。空の巣房はこの後きれいに掃除され、順次、蜜や花粉の貯蔵ツボとして利用される。下方はまだキャップ(ふた)がされたままで羽化はこれからというところ。なにはともあれ、順調に増えてコロニー(家族集団)が大きくなっているのは喜ばしい。

さて雄バチの生殖のことだが、昨年、気になる報告が出された。スイスなどの研究者らは、2種のネオニコチノイド農薬が雄のセイヨウミツバチの生殖能力を有意に(統計学的に意味のある範囲で)弱めることを示した(英国王立協会紀要B、2016年)。その実験では、20のコロニーに、それぞれ毎日100グラムのペースト状の花粉が50日間与えられた。実験群には、信じられないほど微量つまり4.5 ppb(ppbは10億分の1の量を示す)のネオニコチノイド系農薬が花粉に添加され、一方の無処理群は無添加であった。コロニーから取り出された若い雄バチは、性的に成熟するまで実験室のカゴで飼われた(世話係としての働きバチとご一緒に!)。この実験は慎重に計画されていて、この農薬添加量は、野外の花粉などに一般にみられるネオニコチノイド汚染濃度に相当していることを、精密分析で確認している。従来のこの種の薬害研究への批判として、非現実的な高い濃度を与えているというのがあったが、その点に配慮している。

羽化してきた雄バチについて調べると、寿命とさらにそれがもつ精子の質において差があるということだった。寿命が短い分だけ生殖のチャンスが減る。また生存精子を調べた結果は、実験群では39%も減少していた。この研究の結果は、ネオニコチノイド殺虫剤が昆虫雄の生殖能力に負の影響を与えうることを初めて示したものという。ミツバチ女王の生殖失敗や野生の昆虫送粉者の減少に一つの説明を付け加えたかも。

「防虫のための広範なネオニコチノイドの使用が想定外の避妊効果を対象外昆虫に与えてきたことを以前から見逃し、それゆえ保全の努力を削いでしまっていたのかもしれない。」との研究者としての反省・警告の言葉が論文に付けられていた。

ネオニコチノイドに起因するとみられる雄の生殖能力の減退は、単に昆虫だけでなく鳥類(神戸大での研究)やネズミとマウスなどについても、これに似た結果の報告がある。人類に近い哺乳類にも影響があることは大いに注目されるべきだ。かつて「環境ホルモン」の関連で人の精子数の減少が心配されたことがあった。当時の話では、今後も時間をかけて研究しないと確定的なことは言えないということだったが、結果は出たのだろうか。(タイサク)

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