秋の蜂蜜絞り
秋になり様々の花が咲き乱れて蜜源に気を使わないで済む季節になった。そこで思い立ったのが蜜絞り。庭の巣箱はまだ一度も採蜜しないままできている。試しに巣箱を持ち上げてみると20キロを超える重さだ。ミツバチまもり隊隊長の小織さんを助っ人に頼んで、私と妻との3人で蜜絞りにとりかかった。採蜜開始は朝8時。天気は曇りで、今にも降りそうな空。
巣箱は箱枠(桝状の木枠)を4段に重ねて作られており、その内側に上下方向に伸びた板状の巣の本体(巣板)が7枚、平行に並んで収められている。箱枠の隙間に細い針金ワイヤーを食い込ませ、しごきながら手前にずらして引き切っていった。これで最上部の箱枠の部分を丸ごと取り出せた(写真1、2)。切り出した断面を見ると全て貯蜜域で、貯蔵花粉もここでは見当たらない。巣箱の下の方に位置するはずの育児域が無事に避けられていることが確認できた。7枚の巣板は切断面が霜柱のように見える。その間に見える7ミリほどの狭い空間が、まさに働きバチの職場にあたる。両側にぎっしりと並ぶ食料庫や保育所の小部屋(巣房)をまわって管理や世話をしたり、仲間と口移しで蜜交換をしたりで忙しい場所だ。
匂いがミツバチやスズメバチを呼び込むのを避けるため、箱枠からの巣板の切り出しは別の離れた所で行った。きれいな蜂蜜がたっぷり詰まった7枚の巣板を切り分けて取り出していく。濃い蜂蜜を収めた巣板の表面には白いシール(蜜ブタ)が貼られている。それをはがしていくと、琥珀色の蜜のドロリとしたしたたりがまぶしい。
逃げ遅れ蜜まみれで動けなくなり犠牲となった働きバチが10頭ほど巣板の隅に見られるのはいつものこと。巣板は小さな無数の小部屋(巣房)の集合体だ。その各小部屋に小分けして蜜を収め、ある程度濃くなったら蜜ブタで封がされる。そのような工夫のおかげで、働き蜂たちは普段は蜜の洪水に襲われることはないが、人間などの勝手な巣の破壊で蜜が大量に垂れ流れると、災害みたいな事態になる。このときハチたちは、巣箱の内部の切断部の修復やこぼれた蜜の回収に大忙しのはず。
取り出した巣板をいくらか砕いたものをリード紙で敷きつめた金ザルに積み上げ、ろ過されたきれいな蜂蜜を滴下させ桶に集めていく(写真3)。気温がまだ高い今頃でも、終わるまでに丸1日以上かかる。蜂蜜収穫量は3リットル(約3.5キロ)だった。今度の蜂蜜はいつもより濃くて粘性が高い。小さじにすくって口に含むと独特の香りが広がり、濃厚な甘みに伴う風味も好ましい。
過去の採蜜の経験では、人が巣箱をいじると警戒して激しく飛びまわるミツバチの一群がいたが、今回はあまり振動を与えない静かな採蜜作業だったので、思ったほど騒がれず。日ごろスズメバチを追い払うなど世話をする私の体臭も覚えていて、略奪を大目に見てくれたというのは、ちょっと思い過ごしかも。知り合いの養蜂家からは、蜜絞りの後でミツバチ一家に丸ごと逃げられたということをよく耳にする。その恐れはたしかにあるが、見たところミツバチ一家は平静に見える。翌日になっても朝早くから花粉や花蜜を運び込んでいる様子なので、とりあえずは安心。(タイサク)