マキノの庭のミツバチ日記(66)

オオスズメバチとの攻防

秋になるとスズメバチの姿を頻繁に見るようになる。スズメバチの中でも断然危険なのは体が大人の親指くらいあるオオスズメバチであろう。この前も、車イスの老人が移動中に襲われて体のあちこちを刺され、ショック死するという不幸な事件が報道されていた。こういうニュースがあるとスズメバチを悪魔のように思う人が少なくない。巣の近くに人が入ってきて、警告が無視されるとオオスズメバチは容赦ない反撃に出る。だが、むやみやたらに人に襲い掛かることはまずな い。体が中型のキイロスズメバチなどは、ミツバチ 1頭捕まえると満足気に帰っていくのでそれほど怖い存在ではない。

都合でしばらく放っておいた巣箱をたまたま見に行ったら、屈強なオオスズメバチの 7、8頭に襲われていた。今年はオオスズメバチが少ないなと思いこんでいたのでびっくり。すでに巣門に 5頭くらいがたむろし、入口の木部をかじって中への侵入を狙っているようだ。

オオスズメバチは強力なあごと毒針をもつ獰猛なギャング蜂だ。セイヨウミツバチならば、次々これに立ち向かっては噛み殺されて玉砕になることが多い。その点、ニホンミツバチは、敵が1、2頭の場合なら集団で取り囲んで蜂球を作り熱死させる。有名な「布団蒸し」作戦が得意技の一つ。ミツバチの群に勢いのある場合は、大勢繰り出してけん制にでることもある。オオスズメバチの羽音に対抗してワーンという多重奏で応える。体を一斉に振らすいわゆる振身行動をすることもある。最近お目にかかったのは、巣門から繰り出してきた働きバチたちがそれぞれ羽音をたてながらでたらめに動き回るシーン。その振る舞いは、狙いを絞らせないだけでなく相手を威圧するみたいで、強敵はあきらめて去った(写真1)。

だがオオスズメバチも身内に動員をかけ、多いときは 100頭ほどでもって巣の乗っ取りにくるという。我がニホンミツバチたちも、今度のような多勢の強敵相手ではさすがに退避し籠城するしかない。とりあえずは手助けが必要と思い、私は目深に帽子をかぶり首筋を守るためタオルを巻き付け手網を持って出動した。

ギャング蜂たちはほとんど人を気にしていない(自分は最強だと思っているのか)。だが邪魔されると反撃する。私もすぐには手が出せずしばらく立ちすくんでいたが、気持ちが落ち着いてくると手網を使っていくつか獲ることができた。狙って素早く網を振ると不思議と掛かってくれる。相手はパワーがあり飛ぶのは速いが、胴体が大きい分だけ空気抵抗が強く、蚊のような小回りや敏捷さに欠ける弱点をもつようだ。さらに、買い置きしていたネズミ捕り用の粘着板を取り出して巣箱の天板に置き、オトリとして捕らえた 1頭をそこに貼り付けた。

粘着板は思った以上に効果的。3日間に捕獲したオオスズメバチは 120頭になった。不思議なのは、囚われの仲間に自ら寄って罠にはまってしまうこと。粘着板にくっついてもがいているスズメバチを見るのは気持ちいいものではない。甲冑姿の武士が枕を並べ討ち死にしていくようで哀れに思える(写真2)。オオスズメバチが立ち去ったのを見計らって、働きバチが巣門付近に次々現れあちこち見て回った。そして敵が残した餌場を示すマーキングの痕をていねいにかじり取り、臭いをごまかすためか自らの糞を辺りにまき散らしている。なかなかやるじゃない!(尼川タイサク)

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