マキノの庭のミツバチ日記(87)

ミツバチの結婚飛行(あるいは婚活?)

この春、我が庭で捕らえたニホンミツバチ分蜂群は「養子」に出した。引き取っていただいた小織さんから、最近のコロニーの様子のレポートがきた。そこには、巣門を出ていく女王バチをたまたま見かけたとある。すぐに戻ってきたがこれは結婚飛行なのだろうかと尋ねられた。私は見たことがないので答えられなかった。

そこでミツバチのことを少し調べてみた。ミツバチの巣の中では、適齢の娘女王バチと雄バチがいても互いに無関心で、同じ親女王から生まれた兄妹(あるいは姉弟)同士の近親結婚は避けられている。羽化した女王バチは、普通は 1 週間以内に結婚飛行に出るといわれる。飛行時間はまちまちだが、数分から 1 時間くらい。ミツバチ「婚活会場」は、あちこちの巣から出てきた雄バチの群が集まる木立のある所など。この辺で言えば神社の森などであろうか。我がハチ友の井上さんは、辛抱強い観察の結果、ニホンミツバチの結婚飛行の貴重な動画や写真をモノにしている(写真は結婚飛行から戻ってきた女王バチ。井上さん提供)。

交尾には高速で飛ぶことが絶対必要。飛行時の風圧により雄のペニスが体外に出されセットされるということを書いている本もある。高速で飛ぶ女王は女王物質を振りまき、これが性フェロモンとして雄を惹きつけ興奮させ追尾させる。レースの勝者の雄は空中で雌を捕らえ交尾に至る。この時、雄の交尾器がはじけて精子が送り出されるとともに、雄は恍惚の内に(であってほしい?)一生を終える。

交尾後にはオスの交尾器の一部が栓のように女王の尾部に残る(写真では、何らかの理由で落ちたのかもしれない)。さらに他の雄が割り込んできてそれを外し自分のを着ける。そのようにして通常は 10 頭前後の雄と交尾する。父親の異なる大量の精子を確保することで、遺伝子の多様性を維持するとともに近親結婚の確率を低める意味があるそうだ。女王の体の貯精のう(精子を貯める袋)での収量が足りなければ翌日も出撃する。多量の精子は女王の一生(2、3 年)の間に体内で保存され適宜使われる。ミツバチの場合、婚活と言うよりも、近ごろ世間で耳にする「妊活」と言う語が近いかも。女王バチにとっては、精子をいただけば雄は不要の存在となる。

この時期には小鳥特にツバメなどの敵が待ち構えていることも。ふつうは護衛の働きバチたちが女王に付いて行くので無防備ではない。だがもし捕食されるとコロニーは存続の危機に陥る。だが、逆にツバメが護衛のハチ部隊に追いまわされるのを見たと井上さんは話してくれた。目や耳に多数の刺針を撃ち込まれたツバメの死体があったという記述もある。

庭の巣箱から結婚飛行に出るミツバチ新米女王のことを思うたびに、ちゃんとお婿さんに出会えますようにとつぶやいたりする。というのも、近年、ミツバチコロニー数の激減が心配される現実があるから。この結婚飛行という独特の行動(といってもアリや白アリにもあるらしいが)は、もちろんミツバチが社会性昆虫の特質をもって生きていく上で必要不可欠なシステムである。ミツバチは昔から、おそらくは何百万年あるいは何千万年以上も前から、毎年これを着実に繰り返してきたのだろう。だが、人類が招き寄せた環境の悪化がこのシステムにも及び、ミツバチの絶滅に導くことがあっては申し訳ないことである。(尼川タイサク)

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