マキノの庭のミツバチ日記(96)

台風が去って

その暴風域は日本列島を覆うほどと言われた大型の台風 10 号が来たのは 8 月 15 日で、全国的に被害が心配されていた。JR 湖西線は始発から計画運休に入っていた。だが、この台風は各地で盆帰省客の大勢の足を奪いはしたが、被害は昨年に比べれば軽微だった。私のいる地域にも目立つ被害はなく、庭のニホンミツバチの巣箱も、今回は屋根にブロックを積むだけですんだ。

だが、風の強まる頃になって松の木の下に置いた巣箱の住民(住蜂)が予想しなかった行動に出た。それは台風 10 号が広島県に上陸し当地にも影響が及びはじめた午後 3 時頃のことだった。巣門にあふれて出た一群があたりを飛び回りだした。普通の「時騒ぎ」にしては不穏で異様な激しい動き。飛行範囲も広くなりいつもより遠くまで飛んで行っては戻ってくる。軒下を探るように動くハチもいれば隣家の敷地の庭木の間に侵入するものもいる。まさかこの悪天候の最中に分蜂 (巣分かれ)か逃去でもあるまいにと、驚いてしばらく見守ることに。

台風の接近で気圧計は 980 ヘクトパスカルとかなり低いが気温は 29 度で蒸し暑い。風速は秒速 10mを超すように感じられる。台風からの風としてはまだ序の口程度。これらの気象条件がミツバチを動揺させたのだろうか。昨年は、強烈な台風の直撃があった際に一箱のコロニーに逃げられ、もう一箱のほうも逃げそうで水を噴霧して引き留めたことがあった。でも今回は、他の巣箱の連中は静かにしていた。コロニーによってはいろいろ個性があるのかも。

そのうち強風に強い雨が混じりだした。こんな状況では女王バチも出にくいだろうと思ううち、心配した分蜂も逃去も結局は起こらず、その一群はどうにか落ち着きを取り戻した。翌朝、台風は日本海に遠く去り、天気が回復した。まだ気温が高いのか巣箱では、テラスに整列して巣内に翅で風を送ったり外壁で涼んだりする働きバチが見られた(写真1)。昨日のあの興奮した様子が嘘のようだ。

ところが、一難去ってまた一難と言うほどではないが、今度はミツバチの強力な天敵が巣箱付近に襲来。一つは獰猛なハンターとして知られるシオヤアブ。その狩りが盛んになった。目の前でミツバチが次々捕らえられては餌として体液を吸い取られる。写真2はミツバチの 1 頭が捕らえられた犯行現場。尾の先端部が白いのはシオヤアブの雄で、この白さから塩(シオ)の名が付いたとか。このアブに人が刺されたという話も聞く。実際、狩りに来るシオヤアブたちは攻撃的で、時に私に向かって襲い掛かって来ることもある。だが刺されたことはない。もちろん私も巣箱を守るために捕虫網を振り下ろすが、敵さんも動体視力が優れていて敏捷なので捕獲率は低い。

巣箱の近くにはミツバチのもう一つの強敵であるオオスズメバチも飛来したが、これはまだミツバチには関心がなく、もっぱら松の幹の硬い皮を噛み砕いては持ち去っていった。自分のところの巣の拡張や補修(ひょっとして台風による被害?) の工事が優先なのか。ちなみにこの強力なオオスズメバチですら、油断すれば先ほどのシオヤアブに捕食されてしまうこともあるそうだ。

集団行動の得意なミツバチはこれらの天敵に一方的にやられてばかりではない。敵を巣箱の入口のテラスに誘い込んでお得意の「布団蒸し」作戦を敢行すれば、さすがのアブもスズメバチも熱死に至ることになりかねない。(尼川タイサク)

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